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異世界を戦車として進む  作者: 赤崎巧
2章 歪み
306/313

306.再び次へと向かう旅


 皆は連れてきた2人を受け入れてくれた。怪我をしていたりあざが出来ていたり、服も体も汚れたボロボロの姿だったけれど、何も言わずに体を湯で浸した布で拭き、薬を塗り食事を渡し労わっていた。


「助かったんです……よね?」

「……これ、あの、ありがとうございます」


 心身ともに弱り、言葉も少し曖昧で助かった実感もまだないらしい。


「大丈夫だから、ゆっくりと食べて」


 何が町で起きたかを知らないだけ、それが例え自分がやったことだとしても、皆は知る事もなく関係もない。ただ、同じ被害を受けた相手を労わり、傷付いた人を助ける事が当然となっていた。


「怪我はあざも綺麗に治ると思うから、痛い所が続くようなら言って」


 アキュラさんが積極的に世話と言うか、落ち着くように話しかけたり、落ち着くお茶や食べ物を考えたりと、どのように治療すべきか考えていた。

 2人が落ち着いて眠り始めたのをアキュラさんは見届けた後、皆が食事をしている所に戻ってきた。


「おつかれさま」


 エイケさんが今夜の夕食を手渡し、アキュラさんは食べ始める。


「今は落ち着いているが、夜になったらまた大変だろう。 食事が終わったら仮眠をとっておけ。 オレがその間は見ておく」


 カイは2人が寝ている場所に移動すると、石を組んで焚火を作り火をつけた。

 深夜になり少し経つと、悲鳴と共に2人が目を覚まし震えていた。たぶん色々思い出してしまったんだと思う。


「大丈夫。 ここは大丈夫、皆同じ仲間よ」


 側で眠っていたアキュラさんが起き上がり、大丈夫だと宥めながらほぼ付きっきりで世話をしていた。


「これ、落ち着くお茶を濃く入れてみたんです。 使ってください」

「食べやすい暖かいスープも作りました!」


 翌朝、皆も出来る事から協力しながら、ゆっくりと旅を続けていく。新たに加わった2人が落ち着くまでまだまだ掛かるだろうけれど、街道を外れていったん休憩をとる事にした。

 自分も精神的に疲れたのもあるけれど、心身ともに疲れている2人に一度しっかりと休んでもらいたい。カイにその事を説明すると、皆に街道を離れる理由を説明し、川を見つけると街道を外れて上流へと昇り、そこに一旦休憩するために野営を始めた。


「さぁて、久しぶりにのんびり休もうか」

「ごはんは簡単に作ろうね」

「その前にお風呂でしょ」


 何日もと言う訳にはいかないので、2日休んで出発するから本格的ではないけれど、荷車と屋台車も利用した囲いに、追加で自分に積んである丸太と幌布の予備を利用して簡単な囲いで塞ぎ、獣が近付かないようにする。その間にハスタルさんは薪集めと、周囲が安全か念のため確認をして回っている。

 残っているのは威圧感の凄いグリーナーさんと恐竜人のチェスカさんのみ。でも、よほどの事がない限り大丈夫だとイルレさんとハスタルさんが判断して決めていた。

 自分が野外入浴セットと浄水セットを車内から出すように見せかけながら取り出し、設置すると野外入浴セットのテント内から湯気が漏れ始める。


「あの、これは?」

「ふーん。 風呂ってでかい桶に直接入るんだったかい? 水浴びでも大して変わらない気がするが」


 用意された大きいテントに、新しく加わった2人は状況が良く分からず、グリーナーさんもいまいちわかっていないみたいだし、チェスカさんはそもそも興味がないらしい。

 フサフサクラブのトーラスはいそいそとテントを入口を開け、一足先に入っていった。トーラスも旅の一員として警戒したり、屋台車で時折生暖かいお湯に浸かって出汁っぽいものをエイケさんに取られている。


「薪……、取って来たよ」

「警戒始めます」


 護衛の女の人達も戻ってきたので、イルレさん達はタオルと洗濯物を持ち寄り、最後に固体まで固まり切れなかった失敗作の石鹸の入った壺を持ってお風呂に入る準備を整えた。


「さぁ、風呂だよ風呂。 久しぶりにしっかり入ろうね」


 イルレさん達皆はすでに慣れたもので、初めてお風呂に入る2人の手を取って中に入っていった。


「ステアー、逃げないで偉いね」


 シグさんに上半身を抱えられながら、深くため息を付きつつステアーは野外入浴テントに連れて行かれ、交代制なのでグリーナーさんとチェスカさんも一緒に入った。

 そこそこ時間が経ってから、皆は服の洗濯も終えてすっきり綺麗になって出てきた。体の汚れが落ち暖かいお湯でゆっくりしたので、いくらか2人の表情も良くなった気がする。

 入浴の終わったリーナーさんとチェスカさんが警護に回り、今まで護衛をしていた人達がお風呂に入っていった。


「やっぱり広いね」

「うん……たまにだけれど凄く良い」

「石鹸、忘れた」

「あたしは洗濯する服持ってくる」


 少し経つと身綺麗になった護衛の人達が出てくると、最後にハスタルさんが一人で入る。やはり心はそうであっても体は男性、ハスタルさん自身も皆に配慮して、一人でのんびりと広い湯船で入る。それでも一人で独占と言うことで割と上機嫌にのんびりしてから出てきた。


「はぁ~、お風呂ってやっぱりいいわねぇ。 お湯を水浴びみたいに贅沢に使えるなんて、貴族みたいねぇ」


 湯気を上げながら野外入浴テントからハスタルさんは、奇麗になった肌を撫でながらすっきりとした表情をしている。


「貴族でも、あれだけ広いお風呂なんて入れないわ。 あれより大きいなんて王族や公爵様くらいでしょうね」


 男爵令嬢のベレッタさんは、髪に香油を付けながらの手入れをデュロに手伝ってもらいつつそう答える。


「カイさんが居なきゃこんな事は出来ないよ。 それよりもそろそろ夕食にして、休もう」


 休息する為の夜営、お風呂に入って早めに食事を終え、しっかりと休む。それが一番の目的。早めに夕食を終え、皆が床に就いた。

 夜の動物の鳴き声と川の音、そして護衛の人達が当たる焚火の音だけが響く静かな夜、悲鳴こそ聞こえなかったものの、目が覚めたのか2人が焚火があたりに出てくると、そこで毛布にくるまり横になって眠りについた。

 アキュラさんもそれに気づき、毛布を持って荷車から出てくると、日に当たりながら横になって休む。2人が落ち着くにはまだかかりそう。荷車の中に、夜でもランプを付けるようにした方が良いかもしれない。






 しっかり休んでから街道に戻り、北西に旅を続けて10日、街道は獣は出ても盗賊のような人達が出る事はなく、旅人や旅商人をよく見かける。街道沿いの広場に留まっているだけで、結構な数の人達が夜営や休憩で留まり、屋台と露店の前には仮で作られたテーブルに腰かけて食事をしている人が常にいる。


「トリグの町が無くなったとか」

「あぁ、見てきたが崩れた建物だけで何も残っていなかった」


 旅人や旅商人の人達は休憩を兼ねて情報交換をしているので、いろいろ聞こえてくる中に、トリグの町が廃墟になったという話題が出ていた。


「知り合いがやっていた店も、誰も残っていなかった……。 なんてことだ、どこであの美味な酒を飲めばいい……」

「あぁ、時折酷くあの酒と食事を味わいたくなる。 もう二度と味わえないのだろうか」


 会話からして、相応に魔薬入りの食事に惹かれていたようだけれど、町に留まってしまうほどではなかっただけまだどうにかなるはず。


「王都まで行ってみるか」

「遠いが、噂では新しい料理と神秘の薬があるらしい。 商材として売れるかもしれん」


 話の中で出ていた神秘の薬はおそらくアキュラさん製作の丸薬のこと、大量に渡したので当分の間は持つはず。ただ、この周辺の町や村から王都に輸送を頼める商会や貴族の屋敷を見かけないので、新しく作り壺に密閉保存した丸薬を送る事が出来ない。


「それもそうだ。 よし、向かう先を変えるか」


 旅人や旅商人の人達は決めたらしく、身支度を整え明朝の出発に備えて準備を進めていた。


「えーと、明日の食事用にミソ干し肉のパン詰めを買えるだろうか」


 旅人の人が屋台で料理をしているエイケさんに声をかけるけれど、難しそうな表情で首を傾げている。


「明日一日くらいまでなら持つだろうけど、それ以上は持たないよ。 それでもいいなら売ってもいいけれど、正直お勧めはしないよ」


「それじゃ二つください」


 エイケさんは余りお勧めはしないと言うけれど、旅人の人はそれでも良いらしく、銅貨を支払って受け取ると革袋にしまい込んでいた。

 味噌鍋と比べて決して安くはないのだけれど、それでも他の保存食に比べると美味しいらしいので、時折買っていく旅人や旅商人は居る。

 屋台の近くで護衛をしながら、旅人や旅商人の会話を聞いていたハスタルさんは、少し首を傾げていた。


「トリグの町がねぇ。 どこかの貴族の兵団でも襲撃したのかしら?」


 貴族の兵団くらいではないと、町を滅ぼす事は出来ないということだけれど、それでもあの町がそのままであったなら、これからも旅人や旅商人の多くが魔薬に毒されていたはず。いつの日か、この国の王様か貴族が対処していたかもしれない。もしかしたら対処が遅れて、国が滅びていたかもしれないけれど。


「ハスタルさん。 交代時間ですよ。 食事をして休んでください」


「はいはい。 今いくよ。 今日は何だい?」


 交代する2人のうち1人が笑顔で答えた。


「今日は鳥骨の塩鍋でした。 麦入りでこってりさっぱりで今日も美味しかったですよ」


「そうかい。 それは楽しみだね」


 ハスタルさんは警戒していた愛用の手斧を腰に下げ直し、交代に入った護衛の女の人が槍を持って警戒に当たる。


「デュロちゃん、食事が終わったら練習の時間だよ」


 イルレさんが木剣を片手に、デュロは棒を手に練習を始める。デュロは冒険者にはならないけれど、強く成るためにこれからも鍛錬を続けていくことを決めていた。

 皆の話では作法なども男爵令嬢でもある神官見習のベレッタさんから教わっているのだけれど、苦手な刺繍については相変わらず余り上達していないらしい。


「ステアー、そろそろごはんよ」


 狼のステアーはすでに立派に大人、なのだけれど旅商会を群れとして考えているらしいので、その一員として警戒をしているけれど、商会から出て行こうとする様子はない。自分よりもステアーの方が直接的に商会を守っている節もあるし、商会のマークにしたのは正しかったと思ってる。

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