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カメラ越し、つかの間、天女の舞

「なあ坂、おまえヒマなら、ちょっとそこらへんでカメラまわしてきてくんない?

 ちょっと半兵衛のサイズ感が見たいんだわ。

 俺たちもうちょっと衣装悩みそうだからさ」


 ごりがいつも持っている私物の小型デジカメを渡してくる。


「うん? 半兵衛を撮ってくればいいのか?」

「校内で、全身入る感じで適当に撮ってきてくれればいいや、おまえでもできんだろ」

「ああ、それだけなら」

「じゃあ半兵衛、魔女の格好して、ちょっと坂に撮られてきてくれ。なんかこう、飛んだり跳ねたり腕広げたり、嵩張るポーズを適当にしてきてくれ、サイズ感が気になるから」


 予備の暗幕で簡易的に女子の着替え場所を確保した。


 真子がふみにはぎれを着せている。

「えっ、安全ピンでとめるだけなの?」

「これじゃ動いたらすぐとれちゃいますよー」

「コスプレだとテープで貼ったりすることもあるらしいですよ」

「まあ途中ではがれるよりはましよね……」

「それにしても……あっ、なんでもないです」

 真子が、うらやましそうに、とは少し違うのだろうか、アニメキャラの水着姿を見るような視線で、文の半裸を見つめている。

「ごりさーん、両面テープあります?」


「えっ、そんなんでとめるの?いま手元にはないわ、どうすべ」

「もうちょっと考えなさいよー」

「はぎれ巻くだけでいいと思ってたんだもーん」

「それ、ぽろりしてもいいって意味?殴るわよ?」

「殴るのは勘弁して……内臓出ちゃう」

「あの力では殴らないから!さすがに!!」

「あーでもぽろりはさせたいし、ぽろりと内臓が引き換えられるんなら小一時間悩む」

「軽ーく殴っていいかしら」


 ごりはあごに手を当てて考え込みながら、

「真子の服もどうしようかね、なんかおしゃれに詳しい知り合いは……ああ、もっちがいるじゃん!」

 思いついた、というふうに景気よく手のひらで額を叩いた。


「もっちさんって、こないだのハーフの子ですか?」

「そうそう、たしか読モとかいうのやってんだって」

「へえ、すごいじゃない!」

「じゃいったん別行動で、半兵衛と坂が校内で試し撮り、残りはもっちのとこ押しかけて、服のアドバイスもらってこよう」

「了解です」


 暗幕の陰で半兵衛も着替えを済ませる。


 こちらは上は制服のまま、ごりの黒いズボンと一応マントを羽織り、しっぽ装着。とんがり帽子をかぶるとぱっと見は完全に「魔法使いです!!」というふうなキャラが完成する。


「あー、かわいいなあ」

「ぺんちゃん写真撮らせて!」

 文がスマホを向けてかしゃかしゃ連写しだしたのを、少し困ったような微笑みで、半兵衛は和やかに見ている。少し体を揺らしてしっぽを動かしているのを見るに、意外としっぽが気に入ったのかもしれない。


「そだ、おまえはこれ!」

 と、「山川林森崎国際高校 映画研究部」、と大きく書かれた腕章を渡される。


「ああ、なんか変な盗撮と勘違いされないように?」

 左腕にはめて安全ピンでとめる。

「それもあるけど……あれ、腕章ってあんま目立たねえな、たすきとかのがよかったか?」


「そんなに目立ってどうすんだよ」

「目立たなくてどうすんだよ、学校内で俺たち映研が、半兵衛が魔法使いな映画を撮ってますぜアピールがんがんしてかなきゃ駄目だろうが」

「ああ!そういや!」


 すっかり忘れていたが、そもそもの半兵衛の頼みは、自分が魔法使いで男だということが、万一校内で見つかったときに「映画の撮影中だから」という言い訳に使わせてほしい、つまりカモフラージュにさせてくれ、というものだった。


 ということなので、校内である程度そういう映画を撮っていることが知れ渡っている方が望ましいのである。


 あほみたいに見えるやつだが、そういうことを意外にしっかり覚えているのは、ときどき感心してしまう。


「ありがとうございます、ごりさん。

 あ、ではこのふわふわしっぽも目立つためだったんですね」


「いや、それは単に俺の趣味だ!もふもふは正義だ!」


 どこまで計算してるのかはさっぱりわからないが……



□ ■ □ ■ □



 ごりたちを部室に残して、半兵衛と俺はふたりで廊下へ出た。


 デジカメをのぞき込んでみて、サイズ感が気になる、とごりが言っていた意味がわかった。

 帽子に高さがあるので、なかなか全体が収まりづらいのである。


「半兵衛身長いくつ?」

「170弱でしょうか、坂さんとそれほど変わらないですよね」


 女子にしては長身だ。だが、顔が小さいのでふだん見ている分には身長の圧迫感はさほど感じないでいた。

「たしかに同じくらいなんだよな……」

 変な感じだな、同じ高さ、同じ性別で、この差はなんなんだ。

 さえねえ俺と見た目はどう見ても美少女の半兵衛。

 腰の高さがぜんぜん違う現実から目をそらさねばと、俺は半兵衛からだいぶ距離をとることにした。

 まあ、離れねえとカメラに全身収まらねえしな!



「そのでかい帽子とマントだと、校内めっちゃ狭く感じるな」

「たしかに、引っかかるほどではないですが」

 とんとんとジャンプすると、天井に帽子の先があたる。

「ちょっと外出てみるかね、裏の林とか」

「いいかもしれませんね」


 校内を散策しつつ、最終的には学校の裏門に向かうつもりで、階段を降りていく。1階まで降りると下校途中のだべり中なんだろう、わりかし人が多い。


「あっ、なんか撮ってる、映研だって」

「あれ半辺さんじゃない?やだかわいい、魔法使いの役?」

「しっぽ!しっぽついてるんだけど!かわいい!」

 女子の集団に見つかったようだ。興味津々で寄ってきて、囲まれる。

 男子はなんとなく遠巻きに見ているようだ。

 わからなくもない、半兵衛は美人過ぎて高嶺の花って感じがするから、気軽に話しかけられない男性も多いんだろうと思う。


「へーい、映研試し撮り中だよー!

 文化祭とかどっかで発表するから楽しみにしてなー!

 半辺さんのいろんなとこが見れるよー」


「半辺さん主役?」

「いや主役じゃないけど主役を補佐する重要キャラだから、ほとんどずっと出てるよ!」

「うわーちょー見たーい」


 適当に宣伝をまぜつつ、半兵衛のアピールもしていく。


 はじめてしゃべる女子もいて、俺は内心相当緊張したりもしていたのだが、横で半兵衛が柔らかく微笑んでいてくれるので、いつものようなコミュニケーションの失態は犯さずに済んだ。

 ああ、なんだこの半兵衛の安心感は。


 生徒たちの中をかいくぐって、裏門から林の方へ出た。

 こちらの出口はあまり人気がない。


 雑木林の中で広めにスペースの空いてるところを探し、

「嵩張るポーズって言ってたっけ?」

「適当に動いてみますね」

 飛んだり跳ねたり半兵衛はしはじめた。

 手を大きく広げ、マントを広げてくるくるまわったり。


 俺はひそかに息を飲んだ。

 まるで優雅な舞を見ているようだった。

 軽やかなステップ、美しい姿勢、ぴんと伸ばしたり柔らかくしなをつくったりと、めりはりのある動き。


 なんて美しいんだろう。


 しばらく俺は夢中になってそれをカメラに収めていた。ごりの要求はもう頭から飛んでいて、とにかく半兵衛を追った。


 一息ついたところで、俺は聞いてみた。

「なあ、ダンスかなんか習ってた?」


「基礎は少し体力づくりのためにやりました。

 あとは、術を使うときに体の『型』があるので、そういう部分での身体のコントロールは、できる方だとは思います。

 専門的に、習い事のようなことはやってないですね」

「そうなんだ、なんか習ってんじゃないかってくらいいまの、踊ってるみたいですげえきれいだった」


 褒められて喜ぶかと思いきや、半兵衛は少し悲しげに、

「はは、私のほとんどは『力』のために親の指示で身につけたものですから……芸術性ですとかそういうものは……あまり期待はしない方がいいですよ」

「そんなことねえよ、きれいなもんはきれいだ」


「……ありがとうございます」

 今度は半兵衛は、少し困ったような、はにかんだような笑みを浮かべてくれた。



 だがその笑みは一瞬で消えた。


 きっ、と表情が険しくなる。


 けれどそれも一瞬だった。


「!?」

 半兵衛は俺の目の前から消えていた。



 慌ててあたりを見回すが、その間に身体にひどい衝撃を感じて俺は吹っ飛んだ。木に背中を打ち付けて止まる。


「名乗りは省略させてもらったよ」

 その声……メガネイケメン女か……


 頭のくらくらを振り払い、なんとか目をひらくと、やはりメガネイケメン女が立っていた。その背後にもう二人。

 ひとりは大柄でやたら筋肉質な女だった。ボディービルダーみたいな肉体を惜しげもなく晒しながら、顔には覆面をかぶっている。


 もうひとりは女の顔をしていたが――人間なのか怪しかった。腹がまるで、鳥かごのようであった。その鳥かごの入り口のような切れ目に半兵衛が上半身を腰まで突っ込まれているように見える。

 抜けないのかじたばたと体をよじったり、蹴ってみたりしているが、まったくびくともしない。


 邪魔だったのだろう、鳥かご女は魔女帽子としっぽをちぎって投げ捨てた。引きつったような声をあげて笑った。

「ひひっ」

 それがスイッチだったのだろうか、鳥かご内部に電撃が走る。

 鳥かご女は悠然としているが、中の半兵衛は二、三度びくんびくんと大きく跳ねると、ぐったりと動かなくなった。


「半兵衛……!?」


「私をやったやばい女の弱点がこいつだとわかったからね、確実に捕獲する陣形できたわけ。ちょうどよくこんなところで別行動してくれて助かったよ」


 ぶつけた背中がじんじん痛む。おれはなんとかそちらへ視線を向けることしかできない。

 メガネイケメン女こと《赫月(レッドムーン)》は、それをわかった上で、すこしおどけたように残りのふたりを手で指す。


「この子は《普賢丸(ふげんまる)》。捕獲専門。

 ああ、生きてるから安心しなよ、でないと人質にならないからね。

 でもまあ、さっきの電撃は何度も浴びたらしんどいんだろうなあ。


 こっちは《デストロイヤー》ね。見ての通りパワー型だよ。肉弾戦だけなら私より上かもね。精鋭連れてきたんだ」


 そして、ゆっくりとこちらへ歩いてきながら、ポケットの中からなにか紙を出す。


「で、君の仕事は、わかるね?

 メッセンジャーだ。

 ごりくんとあのやばい女に、魔術師の命が惜しければ、明朝、花楽史公園に来いと伝えておくれ。

 手紙置いていくね」


 いまだ痛みで動けないでいる俺の手に無理やり封筒を握らせる。


「じゃあよろしく」


 手を振って去っていってしまった。


 その間5分もなかったろう。

 あっという間に半兵衛は連れ去られてしまった。

 何もできない自分がつらかった。


 ああ、どっかの神様がチートパワーを授けてくれないかな、そうすれば俺だって八面六臂の大活躍を見せるのに。

 かといって文みたいな悪魔は無理だ、どっかに善意のかたまりみたいな神様落ちてねえのかな。

 そんなことばかりを考えていた。

 違うだろ、そこはいまからでも身体を鍛えて俺も自力で戦えるように特訓するべきだろう、と内心のツッコミが入るけれど、そんなことをしたいかと言えばそんな欲求など微塵も湧いてきやしない。というかできるわけねえじゃん、あんなやつら相手に。貧弱な俺がどれだけがんばったって。

 何もできないこと自体より、そのことを自覚することの方が数倍つらかった。

 ぼんやり願うだけ、ひしひしと身にしみる自分の駄目人間加減。

 ああ、世界の逆位置か、そういうことなのかもしれねえな……


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