時代はギャラクシー
俺と半兵衛が大変な目にあっていたそのころ。
俺たちのいない間にはこんなことが繰り広げられていた。
「もっちいるー?」
「あっ、ごりさん!ハロー!なにかご用事ですカー?」
「映画で使う衣装で困ってんだけど力を貸してくれんかね、もっち」
「オフコースですヨー!」
「かくかくしかじか……なんだけれども」
「ポニーテールの女の子の着る服ですか……ふむです、ひらめきましたヨー」
「はやっ」
「時代はギャラクシーです!」
「ぎゃらくしー???宇宙ってこと?」
「イエス!」
もっちはスマホで宇宙柄の洋服をぐぐってすぐに見せてくれた。
黒地に青や紫のグラデーション、その上にキラキラとたくさんの大小の星が浮かんでいる。
「こんな感じの宇宙柄の布で、シンプルなワンピースつくりましょう。Aラインワンピなら簡単だから、被服の授業くらい出てればすぐできますヨー」
さらさらと、ワンピースのイラストをノートに描いていく。
「なるほど、柄が派手なら見栄えはするな。形はシンプルだからポニーテールにも合いそうだ、なるほどなあ」
ごりは気に入ったのだろう、感心してうなっている。
「あー、しゃべってたら私も欲しくなってきまシタ!
おそろいでつくりましょう!オーケー?」
「一緒につくってくれるなら心強いです〜」
ぐっと握手する、もっちと真子。
「ところでポニーテールはそれだけなのですカー?」
「ゴムのみ!シンプルイズベストである!」
もっちは小首を傾げて
「うーんでも、シュシュとかつけると絶対イマっぽくなりますヨー?」
「しゅっしゅしゅー?それはなんぞや」
これですね、ともっちは手首につけていた、もこもこの布のリングを指差す。
「だって絶対つけた方がキュートですヨー?
同じ宇宙柄でオソロでつくるんですよ!絶対かわいい!」
「いやいや、だがな……」
「真子さん、ちょっと髪触ってよいですか?」
「はい、かまいませんけど」
もっちは手際よく真子の三つ編みをほどくと、手櫛だけでラフな感じに後頭部でまとめた髪をくくりあげ、あっというまにポニーテールをつくってしまった。
「おっ!ポニーテール!やっぱプレーンなのが最高じゃないか!」
「これをつけるんですヨー?」
手首につけていたもこもこ布をくるんと根元にはめた。
「ほら!どうですか一気に華やかになったでしょう!それでいてポニーテールの見た目も揺れも邪魔しない!髪の根本をそっとサポートするだけデース。これが服とオソロだと、全体の統一感も増して、もう、メリットしかありませんヨー!」
「……たしかに……かわいいな……」
10分ほど四方八方から眺めた結果、ごりは折れた。
「ワンピースと同じ柄のシュシュ、採用!」
ごりの視線からやっと解放された真子は、緊張で真っ赤になった顔をごまかすように話を戻した。
「あともう一点、文さんのはぎれなんですが……」
「これはですね、中にチューブトップ着ましょ」
「ちゅぷちゅっぷ?」
首を傾げるごりに、もっちはまたさらさらと、女性の上半身と胸を覆うものの絵を描いた。チューブ状に胸に巻くものだ。
「下着?」
「下着にする人もトップスにする人もいますね。
これにはぎれを貼り付けた方が脱ぎ着もしやすいし脱げにくいですヨー」
「でもそのまま巻いてる感じの方がリアリティがないか?」
もっちは真剣な顔で、顔の前に人差し指を立てた。
「ごりさん。そう言いつつあれですよネ、ごりさんの目当てはぽろりですよネ。でもそれは誰のためのぽろりですか? ぽろりしたら完成品には使えません。つまりごりさんにしかメリットがありません。でもそんなことを続けていたらどうなりますか? まともな女優が内輪ぽろりをしたがりますか? ごりさんのところに集まってくる女優さんは、ぽろりで監督の気を引くような、演技力で勝負できない女優ばかりになるでしょう。それがよいことに思えるならそのようにしてください。私にはそうは思えません」
「アッハイ……非常に……ごもっともです……」
「ごりが言いくるめられてるとこなんて、なかなか見れないわね、あの子すごいわね」
文が感心している。
「そして文さん! ぽろりしづらい服になって安心しているかもしれませんが、ハプニングはどうやったって起こるものです。その覚悟はしておいてください。チューブトップも派手に動けばずれてきます。偶然外れることもあるでしょう。それは女優の糧になると思って受け入れてください。ぽろりするから演技ができない!なんてことのないように」
「は、はい……女優志望なわけではないけど、心に留めておくわ……」
「お説教は以上ですヨー」
もっちは指をしまって、にっこり、笑った。
「あっ、この雑誌ってもっちさん、載ってるやつですか?」
ふと机の上に広げてあった若い女性向けの派手な雑誌に興味を持った真子が、訊ねた。
「こういう雑誌って買ったことないんですけど、最近はアニメのコラボしてたりするのでちょっと気になってます……」
「オウ!真子はアニメが好きなのですね」
「あ、はい」
「こないだコスプレしましたよ!見てくださいかわいかった!」
ぱらぱらとページをめくる。
「うわ、これですか?めっちゃめちゃかわいい〜〜!!」
「こっちの服もかわいいわ」
「文さんにはこういうのが似合うと思うんですけど」
「えっ、そうなのかな、太って見えない?」
「このブランドは胸の大きい人用のサイズを出していて、わりと評判がいいらしいんですよネー」
「そんなのあるんだ!」
「あっ、こっちのコスはミクさんじゃないですか!」
「あまり詳しくないんだけど、有名なので勧められて着てみました、衣装どの子も、めっちゃかわいかったですヨー」
「ああ〜コスプレか〜」
「いっそ幼女村のコスプレする?真子やりたいんじゃないの?」
「文さんがまさむぬやってくださるなら!!」
「キャラコスは映画では使わねえぞー。なんかイタイし」
「わ、わかってますよ、なんかプライベートでですよ!」
「よし。やるなら俺にも見せたまえよ」
「映画と関係ないならごりに見せる必要なくない?」
「えっ……世知辛い……」
「じゃあごりさんもコスプレしましょう」
「なに着せるのよ……」
「あっ、それだったら……」
真子はいったん教室を出ると、部室からキャラクターブックをもって戻ってきた。
「これとか着せるとネタ的に……」
「全身タイツの人もいるんじゃなかったかしら?」
「えっ、いますけど、ごりさんの全身タイツ見たいですか?」
「ごめん、却下で。羞恥心の高い選択をしようとしたんだけどこっちのダメージの方が大きそうだわ」
「見た目に恥ずかしいものより、ごりさんをはずかしめたいならむしろ押しキャラを着せた方がいいのではないでしょうか」
「うわ!やめろ真子!それだけはいやだ!」
「ほら……」
「待って、こっちが見るに耐えるかって問題で選ぶべきな気がしてきた……動物キャラのきぐるみは?」
「これが真子とごりの好きなゲームのキャラですか!
どの子もかわいいですネー」
「あっ、もっちさん、まさむぬ、見てくださいよこの子なんですけど!」
「オウ!文さんたしかによく似てまスー!」
「はー、もっちさんいい方ですねえ、オタクに偏見ないし」
「たしかによくできた子だわ」
「そうだなあ。よし、もっち、おまえも映画出ねえ?」
「えっ、いいんですカー?」
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もっちとみんなはそれはそれは盛り上がってずいぶん仲良くなったようだった。
下校時間が過ぎてようやく、戻らない俺たちを不審に思ってみんなが探しはじめ、夜の雑木林で気絶していた俺はやっと発見された。




