ともだちに、なれそう
いんかに身体は大丈夫か聞いてみたが、まったくきょとんとするばかり。
さすがに根元からぶっちぎった羽は再生しないようだが、特に痛くもなさそうだ。
動けそうならごりたちと合流するべきだろう。
俺達は最初に半兵衛に連れられていったマンホールへと向かった。
「!!」
たどり着いたとき、ちょうどマンホールから人影が出てきた。
俺はとっさに身構えるが、その人物はこちらへ複雑な一瞥をくれただけで、一言残して去っていった。
「また来るわ」
《極北紅玉》の悲しむような哀れむような視線。いんかに向けられたものだった。
目が合ったのだろう、いんかがはっとして一瞬追いかけようとする。
まさか覚えているのだろうか?
「いもばばあ! いもばあ! あれ!」
……その呼び名はもう忘れてやれ……
しばらく《極北紅玉》の去ったあとを指さして、じたばたといもいも言っていたが
「あれ……だれ?」
やがてもぐもぐと口ごもってしまった。
やはり覚えていたわけではないらしい。
「誰だろうな」
俺も答えられるわけもなかった。
マンホールからのぞき込み、俺は中へと声をかけてみた。
「だ、大丈夫かみんな?」
「坂さんですか、全員無事で……」
ガシャガシャガシャとけたたましく音を立てて、半兵衛のセリフを遮ってごりが穴から飛び出してくる。はしご壊れてねーか、大丈夫か。
「坂! 坂よ坂!! 俺はもう感無量だ! あー! あーも、あーも坂、おまえもムフフン❤幼女村をプレイしてさえいればこの感動をわかち合うことができたのに!! あんなに薦めたのになぜやらなかったのだ貴様は一生後悔するであろう、そんなビッグイベンツ的なこの出会いよ! 神はいる!!」
興奮しきってなんか俺にハグしてくる。目に涙さえ浮かんでいる。
「あー、なんだ、俺落ちゲーはからっきしだからな……」
「派生作品のRPGや格ゲーも小説も漫画も出ていると言うのに!」
「原作知らないで派生にはまるのは主義に反するんだ……ていうかなにがどうなったのかをまずは説明してくれないか……そして離れろ湿ったゴリラ」
「えーと我々がここに来たときは既に……和解とまではいかないのですがとても打ち解けて《極北紅玉》とごりさん真子さんはお話をされていてですね……」
続いて上ってきた半兵衛が、抱き合うむさい男二人にやや引き気味に状況を話し出す。
「私も、わだじもかんどうじで……っく……っっ……」
真子もガン泣きしていた。ハンドタオルを握りしめて、涙と鼻水を拭いながら息を切らして上がってくる。こいつら……
最後に困惑した表情のどきんが出てきて、マンホールのフタを元のとおりにふさいだ。
「しばらくあたしたちにも気付かなかったほどよ。こっちもあっけにとられちゃって」
「そして、やっとこちらに気付いて……一時撤退を決めたようでした。戦力差と、それから……」
「わだじど、ど、どもだちになれそうだで、言ってぐでたでず……」
「戦う気分ではなくなったということなのでしょうね……今回は真子さんに免じて引いてあげると言って。まったく感心しますお二人には」
「ごり、一体何話したんだよ……」
「もちろん、ぺろりんちょの存在意義、必要性、そして讃美だ! ありったけの! ぺろりんちょへの愛を語った!! おまえも聞くか?」
「いやいい……」
なんだったんだ、俺の恐怖心を返せとごちる俺を尻目にごりは滔々と語り出した。聞かねえぞ!
「とりあえず部室に戻りましょう、文が心配です」
「そうだな」
歩き出した俺たちの後ろで有頂天で愛を吹いていたごりが、突然奇声を発した。
「キョエエエエ! なんだこの黒きロリヰタは!!!!」
そういえば紹介してなかったな。
「この子はそのー」
「俺はいんか。坂のともだちだ。おまえは……人間? ゴリラ? さてはハーフか、めんような……」
「とぉーむぉーどぁーつぃぃーー? だぁーとぉーーー!?」
ごりが俺の首を絞めながら、いんかを血走った目で熱く見つめながら、ハアハアとよだれを垂らし出した。パブロフの犬も顔負けだな。
「おまえ、けものくさい。でも、なかよしか、さかと」
「ああ、そうだよ。お兄さんは坂くんとは大親友なんだよ」
声だけはイケボをつくっているが、それはきもさが増すだけだ、ごり……
だがいんかにはとくに「きもい」とかいう感情はわかなかったようだ。
小首をかしげて俺とごりを見比べてから
「さかの、ともだち、なら、俺の、ともだち、だな。よろしく、くさいごりら」
笑っているわけでもないが、悪意のない純粋な瞳でいんかはそう言った。
ごりが放心して地面に転がった。
「……いも子姐さんの次はロリヰタとおともだちだなんて……まじで神様いるぜ……や、やばい俺いま高価な壺とか売り付けられたら喜んで買ってしまう自信がある……」
「うん、なんでもいいけど壺だけはやめとけ」




