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部室にもう一人

 校舎の入口まで、俺たちはわいわいと戻ってきた。

 靴を履き替えていたひとりの少女がこちらに気付いて、知り合いを見つけたという顔をした。

 この中の誰かの友達だろうか? 長い金髪が美しく揺れていた。日本人離れした美貌だ。ハーフかなにかなのかな?

「ごりさん!」

「あれ、もっちじゃねえか。いま帰り?」

「ハイ!」

 驚いたことにごりの知り合いとは……紹介しろよ!と言おうとした俺の顔を、ごりがじっと見つめてきた。

 は? なんなんだ? こいつのこんなきもい、じゃない真剣な、なにかを言外に訴えてくるような顔は滅多に見ないが……そうだ。あのとき以来だろ、部室で俺が殴られたあのとき。

「バッキャロオオオオオ!!」

 それを思い出した瞬間、再び俺はごりに殴られていた。

「なっ、ごりさん何を……大丈夫ですか坂さん」

「けんか?」

 ぶっ倒れた俺に駆け寄ろうとする半兵衛といんかだが、それよりはやくごりは俺の上に馬乗りになり、胸ぐらを掴んで頬を数度平手で打った。痛ってえ……

「この後に及んでまだその態度とは救えねえ! おまえがそんなに腐ったク〇野郎だったとはな!!」

「待て、待て待てまったくなんのことかわかんね」

「もっち目の前にしてんだろがァ!」

「もっちってその子俺知らねーよ……」

「まだシラを切んのか!?」


「ごりさんが殴っている方、誰デスカ? 大丈夫デスカ?」

「へ……?」

 当のもっちと呼ばれた少女の小鳥のような声が、ごりの手を止めさせた。

「誰って、坂だよ」

「坂さんその人ではナイデス」

「は? いや坂だろどー見てもこいつは坂」

「うん、俺は坂だよ。君のことは知らないんだけど」

 きょとんとしたごりが俺の胸ぐらに

「どういうことだよ!」

「こっちが聞きてーよ!!」


 半兵衛になだめられてようやく俺から離れたごりだが、釈然としないという顔は変わらない。

「誰が嘘ついてんだよ、針千本飲ますぞ?」

「つーかおまえがいちばんわけわかんねーこと言ってるっつーのフザケごりら」

 金髪の少女は不思議そうにごりと俺の顔を見比べている。

「暴力よくないデスヨ? あでも、殴られるの好きな人、漫画で読みました! イッツヘンタイ、アナタも?」

「違うぞ、断じて違う、いや変態かもしれないが殴られるのが好きな方向性ではない」

「……ほんとにおまえら初対面なのか? もっち、だって坂と仲良くなったって言ってたじゃねえか」

「ハイ! 坂さんと私はその……仲良しみたいな複雑な関係デス!」

 一体どんな関係だよ……

「坂はこいつだろ?」

「イイエ、坂さんはこの人ではありません」

 ごりが変顔をさらに変なタイミングで一時停止させたようなくしゃくしゃの疑問顔でフリーズしてしまう。

 そこにおもむろに挙手したのは半兵衛だった。

「察するに……別人が坂さんの名前を騙ってその方に近付いたということではないのでしょうか?」


 少女はモッチ=キンチャックと名乗った。イギリス人とのハーフだそうだ。

 彼女が話したのはこういうことだった。

 映研の部室をある日用事があって訪ねると、一人の男子生徒がいた。世間話をしたところなかなか盛り上がり、その後数回部室に行くたびその男子生徒はいて、次第に仲良くなった。だがある日を境にぱったり見なくなってしまった。

「そいつが俺の名前を名乗ったのか」

「ハイ、板田谷さんと言いました」

「部室でひとりでゲームしてるいかにも根暗そうな目付きの悪い男子っつったら、おまえしかいねーじゃねえか」

 悪かったな……

「ゲームじゃないです、DVD見てました、小型のプレイヤで」

「動画見てることもあるだろ」

「いやほとんどゲームしかしてねえと思うけど俺……」

 うーん、ともっちが俺の顔を見つめてくる。

「こっちの坂さんの目つき悪いですけど、私の坂さんはもっとこう……刺さりそうな、険しい目デスヨ。こっちの坂さんは単にひねくれて無気力な目デス」

 傷付ける意図がないことは表情から見て取れる。が、そんなこと言われるとやはり多少俺でも傷付く……自覚はあるけど! あるけどな!!

「それでごりさんに相談したのですね」

「ハイ! ごりさんが映研の主なのは知ってマシタ! 有名なので! でも部室で坂さんと一緒にいたところは見てないデス……あの坂さんは坂さんではなかったのデスネ……では誰なのデスカ?」

 そこにいる全員、まったくその人物に心当たりはないのだった。

「やっだー、幽霊とかじゃない? 幽霊と人知れずラブなんて、ちょっと、ロマンチックすぎるじゃなーい!」

 どきんがなにか乙女チックな妄想をしてじたばたしている。だが幽霊というのも……


「あの、ラブなんて、あのその、そのー」

 もっちが頬を染めて顔を手で覆った。は? まさかそっちの俺とそんな展開!!?

「ら、らぶ? らららぶなのその坂と???」

 動揺してどもってしまう。

 ごりは険しい顔付きで

「その坂が、もっちに告白したんだってよ。もっちは返事を保留にしたらしいんだが、なんとそいつがその日から部室に来なくなったっつうじゃねえか! だからよお俺は! おまえはなんて男らしくないことをするやつなんだと、返事を聞くのが怖くなって逃げやがったんだと思ってよお! もうマジで怒り心頭だったわけなんだぜ! わかるかこの軟弱野郎!!」

 めっちゃつばが飛んでくる。きったね。

「だから俺じゃねーんだろそれ、かんべんしてくれよ……」

 話しながら俺たちは映研部室まで戻ってきていた。

「もっち、まあ上がってくりゃれ」

「おじゃましまスー」


 部室は無人だった。

「あれ、文は……部室に戻っていると言っていたのに」

「便所じゃね? 女子ってなんであんな便所長いんだろな? 便秘なのかね」

 デリカシーのない発言をするごりを気にもとめず、半兵衛は不審げな顔で気配を探っている。

「あっちから何か……すみません、文を探してきます」

「あ、じゃあ俺も行くよ」

 ただごとではない雰囲気の半兵衛に不安になった俺は、後について部室を飛び出していた。

転載に加筆修正分はここまでだよ!

けっこう長く書いてたんだね!

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