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sixty and nine
もう電車をやり過ごして何本目だろう。雨の平日の午後、利用者様も少ない駅。濡れたソメイヨシノが心にしみる。
自分は父親というものを知らない。会って話をしたことがない。抱っこして可愛がってもらったのかな。
兄貴は父親のことを覚えている。幼稚園の送り迎えを父親がした。その折に神父様と立ち話をしたのも父親だったそうな。でも自分の頃にはおばあちゃんが送り迎えした。今のようになった原因もそのへんにあるのかもしれない。ものの本を見れば、片親がいないと自分のような人間が出来上がる可能性があるんだとか。たしかに、溺愛されてわがままに育った ─ 母親もおばあちゃんも「この子は不憫な子だ」と言って。別段自分を不憫のように考えたことはないけれど。




