31/ジョーのひい祖父
続いてのジョーの任務は、近所の古びたアパートの一室に住んでいる、ひい祖父の様子を確認してくることである。
最後まで自立と自由を貴ぶひい祖父の一人暮らしだが、マンションの方には既に介護が必要なアンナお祖母ちゃんがいることもあり、家庭の負担を減らそうという意志もあるのだろうとジョーは思っている。とうに平均寿命は超えて、いくつかの重篤な病もした。一緒には住んでいないが、両親から言い使って、定期的にジョーが様子を見てくるのが日常になっている。
ひい祖父は、いつものように板張りの床に敷いた布団の上に寝転がって、ゲームをしていた。
「これか?」
陸奥を見るなり、小指を立てて聞いてくる。半分はスマートフォンのゲーム画面を見ながらだ。
「そういう訳じゃないが、ちょっと縁がある人だ」
ジョーは答えた。もっとも、陸奥本人が言っていただけで、ジョーと陸奥にどんな縁があるのかジョーはまだ分からないのだが。
「陸奥、と申します」
「陸奥?」
正座して、右手、左手の順に何かの儀礼のように床に手をつき頭を下げた陸奥に対して、ひい祖父はその所作というより、名前に反応するように、ぴくりと眉をあげた。しばし沈黙して、髭の跡を撫でている。
「ふーん、ほぇー」
しばし、陸奥とひい祖父が見つめ合っている。
「お前さん、ヒマリちゃんみたいな萌え声しとるのう」
「ヒマリちゃん?」
「ゲームのキャラの名前だ」
よくひい祖父にその時々のハマってるゲームの話を聞かされるので、ジョーが解説を入れる。ヒマリちゃんは確か、今ハマってるアイドルを育成するゲームのひい祖父のお気に入りである。
「レッスン中とかライブの時にさ、体力ゲージがなくなってピンチ! ってタイミングで、通信で回復アイテムが送られてくるんだが、これが、誰が送ってくれてるのか、わし、分かってないんだよ」
「ひぃじーじ、陸奥はたぶんゲームの話は分からないぞ」
「いえ、分かります」
陸奥はそっと左胸に手をあてると、こう続けた。
「兵司に心当たりがないのに、誰かが助力を送ってくれることがあるとしたら、それは素敵なことです」
兵司というのはひい祖父の名前である。あれ、ひぃじーじの名前を陸奥に教えたかな。俺の魂を介して陸奥が得ている情報とは、どの辺りまでなのだろう。そう思いを巡らせながら、陸奥は自分にもそんなことを言っていた事をジョーは思い出した。
「ふむ、そりゃそうじゃのう」
特に不調な所もないというので、ひい祖父のアパートを後にしようと玄関まで戻ると、ひい祖父は手を振りながら、こんなことを言った。
「『戦艦陸奥』ってーのはな、豪気を備え、栄華を生きて、そして悲しい最後を向えた戦艦であったよ」
ジョーは、ひい祖父は戦争の時代を実際に生きていた人間だったことを思い出した。
◇◇◇
ジョーの自宅のマンションでの光景を、ひい祖父のアパートでのやりとりを、遠方の上空を旋回しながら監視している存在がいた。
山川志麻が放った機械鳥である。
午前中を睡眠に費やすことにした志麻は現在夢の中。
出会いの時までは、まだもう少しだけ時間がある。




