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非幸福者同盟  作者: 相羽裕司
第二話「ジョーとアスミと志麻」
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30/277

30/ジョーの姉

「ぎゃー」


 陸奥の姿を見た姉のカレンの第一声であるが、主には、「可愛い」ということを言いたかったらしい。あとは、私も彼氏とかいないのに、何女の子連れてきちゃってるのよ弟よ、みたいな含みも少し感じられる。


 姉のカレンは、メイドの姿をしている。この六歳年上のカレンの仕事は主に三つ。


 一つ目はヘルパーとしての仕事で、これは資格を持っているが、実質母親に雇われている形で、家でアンナお祖母ちゃんの介護を担当する代わりに、両親の会計から少しの給金を貰っている。


 二つ目はいわゆるネットアイドルであり、メイド服姿でブログとか動画配信とかSNSとか、色々やっている。ジョーと同じクォーターということになるが、カレンの方がアンナお祖母ちゃんの血が濃いのか、綺麗な金髪である。そんなストレートの金髪を胸の辺りまで長めに流している姿は、好んで着ている英国系統のメイド服姿とも相成って、観る人に何かしらの正統性を感じさせるらしい。それでも人気はネットアイドルのランキングサイトの50位以上10位以下をうろうろしてる感じで、今一つブレイクしてない辺りが我が姉らしいとジョーは思っている。ちなみに深夜に起きているのは、その時間帯が、アンナお祖母ちゃんの夜の介助を兼ねつつ、ネットアイドルの活動をするのに都合が良いから。逆に日中のどこかで寝てるので、その間はジョーか母親がアンナお祖母ちゃんをみている。


 三つ目は週二回ほどの、駅方面にあるメイド喫茶でのバイトである。こちらはバイト代目当てというよりは、家に籠りがちになるのを避ける意味合いが大きくて、本人も楽しんでやっているようである。


「私も瞬間風速の時は、陸奥ちゃんくらい愛くるしかったのよ」


 七階からお盆で運んできた人数分のお茶をすすりながら、しばし語らい合う。


「姉ちゃんの瞬間風速って、巨乳事件の時?」

「あれじゃなくて! 私にも乙女だった学生時代とか、あったでしょ!」


 カレンは一度かなり大きい企業が主催するネットの動画配信番組に出たことがあったのだが、その時アクシデント的な事態が起こった。今は削除されてしまっているその動画の再生数はこれまでのカレンのネットアイドル歴でも群を抜いており、ジョーも印象に残っている。起こったアクシデントは大衆向け週刊誌のような言葉で言うのなら「ポロリ」であり、視聴者がコメント投稿できる動画の画面に「巨乳」という言葉が躍ったのが鮮烈だった。ジョーは何やってるんだ、姉ちゃん、と思ったものだった。


 テーブルを囲んでお茶をしている間、陸奥はよくできた客人を演じているかのように、カレンの会話を拾って簡素に、そして丁寧に返している。大人しく微笑をたたえている姿は、これまでの動的で幼さが残る印象とは、少し異なっている。


 車椅子に座ってテレビを観ていたアンナお祖母ちゃんが、トイレに行ってから少し横になるというので、カレンが介助に立つ。


 陸奥の横を車椅子で通っていく時に、”So Cute(超可愛い).”と、アンナお祖母ちゃんはつぶやいた。


 トイレからベッドで横になるまでは、介助付きでもかなりの時間がかかる。本日のアンナお祖母ちゃんとカレンの様子を確認し、まずはいつも通りだと判断したジョーは、席を立って次の所へ移動することにする。


「じゃぁ、俺、ひぃじーじのこと見てくるから」


 アンナお祖母ちゃんを抱えるようにして介助中のカレンにそう声をかけて、目で陸奥に行くぞ、とうながす。


「陸奥ちゃんもまたおいでねー」


 カレンは陽気な様子で方目をつむってウィンクしてみせる。


「カレン姉さまは、凄い人です」


 そう丁寧にお辞儀を返した陸奥の姿が、また何かこれまでのノリに比べて淑としてるな、とジョーは意外に思ったのだった。

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