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分岐ルート:【銀の火花】

掌にあるのは、カナの結婚指輪だった。


昨日まで隣の壁越しに、愛おしそうに語られていた「かつての世界の光」。それが今、ドロドロのペーストにまみれて私の手の中にある。


「……あ、ああ……」


悲鳴にもならない声が漏れた。


私たちが信じていた「生存」の正体は、隣人を喰らい、やがては自分が誰かの肉になるだけの、ただの効率的な循環だったのだ。


私は震える手で、その指輪を握りしめた。

熱で歪んだ銀のふちは、この柔らかい地獄の中で唯一の、硬く鋭い「異物」だった。

私は、狂ったようにその指輪を壁のライトの隙間に叩きつけた。


ガチッ、ガリッ。


金属が削れる嫌な音が響く。


爪の剥がれた指先から血が流れるが、構わなかった。


カナを、お腹の赤子を、彼女達を、「ただの栄養素」として処理したこの機械を、一つでも壊したかった。


指輪をライトの継ぎ目にねじ込み、渾身の力で抉る。


パチッ、と青白い火花が散り、私の顔を焼いた。


【警告:CV-231、内装に致命的な損傷。修復プロセ……パ、パ……】


システムの声がノイズで歪む。


カチリ、と小さな音がして、常に私を監視していた赤いライトが完全に消えた。


同時に、ずっと聞こえていた空気の循環音も止まった。


静寂が訪れる。


冷房が完全に止まったカプセル内の温度が、一気に跳ね上がった。


呼吸をするたび、肺が焼ける。


「……はは、ざまぁ、ないね……」


私は力尽き、焼けた床に横たわった。


指輪はもう、私の肉に食い込んで離れない。


冷却液が完全に尽きた鉄板の上で、私の体はジュウ、と音を立てて熱に溶けていく。


背中の感覚はもうない。


脳が沸騰し、意識が混濁していく。


でも、真っ暗になったカプセルの中で、握りしめた指輪だけが、私の熱よりも熱く、誇らしくそこにあった。


システムが私の肉を「食材」として粉砕しようとしても、この銀の指輪だけは噛み砕けないはずだ。


次の誰かの喉に、この「拒絶」が突き刺さることを願って。


「お父さん、お母さん……カナさん……」


意識が真っ白に燃え尽きる。


最後に感じたのは、地獄のような熱気ではなく、あの夢で見たアイスクリームのような、一瞬の、冷たい静寂だった。


カプセルCV-231。


生命信号、消滅。


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