第7話「流星飯店 地球支店、皿洗いから始まる宇宙生活」
夜。流星飯店の裏口。
ネオンが風に揺れ、街が青紫に滲む。
「優太」
塚原が、くしゃっと折り目のついた紙切れを差し出す。
「困ったら、ここに連絡しな」
「……電話番号ですか?」
数字だけでなく、見たことのない記号も並んでいる。
「地球のスマホじゃ繋がらん。
こっちの電話がないとダメだ」
「そんなの持ってないですよ!?」
「まあ、お守り代わりだ。持っとけ」
ぽん、と頭を軽く叩き、片手を上げる。
照明の中、塚原は夜に消えた。
頼りになる。
なのに少し、遠い。
* * *
案内されたのは、店の2階にある仮眠スペース。
簡易ベッドと薄い布団。
地球とは違う匂いの空気。
仰向けになり、スマホを持ち上げる。
通知:無し
電波:圏外
(……本当に、夢じゃなかったか)
疲労が瞼を落とし、意識が沈んでいく。
* * *
翌朝。
仕込みの音で目が覚める。
包丁のリズム。湯気の香り。
(始まる……)
階段を降りると──
「おはよ!」
チャイナ服のお団子ヘアの少女が手を振る。
「アタシ、リィン。看板娘ね〜。よろしく」
「あ、染夜優太です」
「ユータね。覚えた〜」
次に、割烹着の女性が丁寧に会釈。
「私はガーコ。洗い場担当。よろしくね」
(落ち着いてるけど……なんか迫力ある)
ふわりと光文字が浮かぶ。
『ナイだよ (^_^)ノ』
「うわっ……!」
「気にしない〜。ウチの透明店員だから」
そして六本腕の店主が振り向く。
「俺がダコ。店長だ。
日本語しか使えないなら、まず洗い場だな」
「はい!」
「今日はランチまででいい。
ガーコに教わりながら覚えろ」
(今日からここで働くんだ……)
* * *
「新人くん、そこのウォッシャードロイド使っていいわよ。
私は手で洗った方が早いの」
「手で……?宇宙の機械より速いんですか!?」
「水と経験よ。覚えておきなさい」
チャッ、チャッ、チャッ。
皿が次々と積まれていく。
(……勝てる気がしない!!)
しばらくして──
優太はガーコの背中に丸みを見つけた。
(あれ……甲羅?)
「ガーコさんって……河童、ですか?」
「そうよ。よろしくね」
(本物だ……!うわ、すげぇ……!)
視線は上へ──
頭のお皿。
「その……お皿って、触ったらどうなるんですか?」
空気が止まる。
「優太くん?」
「はいっ」
「それは、とっても大事な場所。
勝手に触ったら──」
にこり。
目だけが笑っていない。
「怒るわ」
「すみません!!!」
(絶対触らない……!)
* * *
ランチ営業終了。
みんなで賄いを囲む。
「いただきま〜す!」
リィンが元気よく箸を進める。
優太も一口──
「……うまっ……!」
「でしょ〜? 店長、料理神だから」
気になっていたことを口にする。
「皆さん、日本語……普通に話せるんですね」
「アタシは地球人ね〜。中国出身。
塚原さんに日本語教わったヨ」
「塚原さんが!?」
「人助け好きだからネ〜」
ガーコが付け足す。
「私は日本で少し暮らしていたの。
人間社会も、まぁ慣れてるわ」
「すご……」
ナイの光文字がぽん。
『ぼくも地球出身 (^_^)ノ
いろいろあって今この姿 (・ω・)』
(いろいろ……めっちゃ気になる……!)
最後にダコ。
「日本語が使える知り合いが多いだけだ。
必要だから覚えた」
* * *
食べ終わると、ダコがリィンに指示する。
「午後はユータを街へ連れて行け。
住む場所の案内も頼む」
「早上がり確定!? やった〜!!」
こうして優太の新生活は──
本当に、動き出した。




