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90話


その画像を近くで見てしまった神官は、身動き一つ取れず固まってしまう。

巨大なクリスタルに潰された、仲間の神官の身を忘れてしまう程の衝撃を受けて。


それは、彼の後ろから走って来た神官仲間も同じだった。

全員が画像に釘付けになってしまった。


彼ら神官だけでは無い、その後ろから様子を見ようと近付いて来た一般市民に騎士達も、全員が息を飲んで固まってしまった。

それは十分とも一時間とも思える時間だった。


暫くすると画像は消え、周囲には静寂が漂う。

ハッとして動いたのは、クリスタル近くにいた神官で、彼は仲間の神官達に『司祭様に助祭様‥いや、兎に角、この街に居る信者全員を呼んで下さい!!早く!!』っと叫び出す。


彼の目的は、この不可思議なクリスタルを自分達の教団で『確保』する事。

この時の行動全てが、『ただの偶然』でありながらも『絶妙な運』によって進んでいった。


一つ目の運は神殿までの距離。

彼らの教団ミトゥラ教の神殿が、落下地点から数百メートルの所だった為、クリスタルの持ち込みが他の教団よりも容易だった。


二つ目は信者の数と住所。

ミトゥラ教の信者は、この神聖王国でも最多であり、神殿近くにより集まって住んでいた為、クリスタルを運ぶ人員を短期間で大量に得る事が出来た。


三つ目は当時の国王が熱心な信者であった事。

その事によって、騎士団や貴族による介入を阻止し、教団の物とする事が出来たのだった。


更に、このクリスタルが数日毎に映像を流してくれた事により、ミトゥラ信仰者が増大し、何と国の政治にまで食い込める勢力へと発展したのだった。

この時、最初にクリスタル確保へと動いた神官は数年後、教団最高権威者となり、王をも超える存在として君臨する事となる。


それと同時に国名も『マークス王国』から『マーティーン神聖王国』に変更される事となる。

そして、その騒動から百年が経ち、最高権威者も三代目となったが、その彼はこの現状を嫌悪していた。


理由は『クリスタルの映像がここ十年、映し出されなくなった』からだ。

心無い信者や神官からは『德が無いからだ』と言われ、裏では敵対的対応をしてくる騎士団からは『神の名を騙る不届き者』と言われる。


彼は敬虔なミトゥラ教の信者でもあったが、こんな周囲からの悪意ある言葉に心が擦り切れ、教団最高位の法凰になった今では、信者を含めた全てを憎悪する身となってしまっていた。


そんな彼の目の前で、十年ぶりに映像が現れた、そしてそれを見た信者も神官も騎士達も、全てが一斉に手のひらを返し、法凰である彼を『素晴らしきお方』と持ち上げて来た。

法凰となった彼の憎悪は最高潮にまで膨れ上がった。


『愚か者共が!!何が神か!!何が偉大なる法凰か!!貴様らが今まで何を言ってきたか分かっているのか!!そして神よ、私の信仰を無視にしてきた神よ、私の信仰心無き今、神託を下さる愚かな神よ、呪われよ!!』


その場に居る者達は全員気が付いていない。

信者達の目の前に居る最高位の人物が、感涙の涙を流し神の御業に感激している彼が、この世の全ての不幸を願っている事を。

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