91話
十年ぶりに映し出された映像に、神殿内は活気に満ちあふれていた。
人々は涙しながらも、近くに居た神官達に『神託の内容を教えてくれ』と頼んでいた。
『神託』
このクリスタルを最初に得た際、教団は信者獲得の『客寄せパンダ』に使おうとしていた。
(ちなみに、この世界にパンダはいない)
教団幹部達は、このクリスタルが映し出した映像を、丁度この年に起こった大規模な疫病と北から攻めて来た帝国との戦いに結びつけ『神からの神託』と言い出した。
それからも映像が出る度に、神からの神託を伝え、勢力を広げていった。
「それで法凰殿よ、我らが神からの神託は何と?」
法凰と呼ばれた男性の近くに居た、赤と金糸で装飾された豪華な衣装を纏った人物がそう言う。
年の頃は四十代、白くなりだした髭面で人の良さそうな雰囲気の男性は、このマーティーン神聖王国の国王だ。
国王としては気が弱く、周辺の弱小国家を武力で併合する事無く、対話でまとめ上げている人物だ。
市民からの信任は厚いが、軍部との軋轢は少々ヒドく、神輿として担ぎ上げられる人物がでてくれば、何時内乱が起こっても不思議では無いと言われている。
そんな国王からの質問に、ピクリと片眉を上げたが、笑顔を変える事なく返事を返す法凰。
この神聖王国では、法凰と国王の権威は同等、いや寧ろ信仰心の強さから法凰の方が上かもしれない。
とは言え、散々嫌味を言ってきた国王に対し、国を乱すつもりは『今現在』は無い為、そこは我慢をする。
問題は、そんな法凰の心をここに居る国王も信者も理解していない事なのだが…。
「記録係よ、此度の神託の解釈を国王陛下に伝えてよ」
「はい法凰様。それでは僭越ながら私から神託をお伝えいたします」
神殿奥から分厚い本を取り出すと、ページを捲りだす。
この本は、百年前の出来事を記録した物だ。
それぞれの時期とクリスタルの映像を合わせる事で、神託として信者へと伝えていた。
とは言うものの、そんなモノは後付の屁理屈だ。
映像と災害が一致すれば『神の御心』とし、一致しなければ『信仰心の欠落』とする。
この国はそうやって長い間、信仰を集めて来た。
今回も、今までと同じように神託を伝えるつもりだった…その時までは。
『ドン』と言う大きな音と共に、泥に塗れた兵士が大広間に飛び込んで来る。
「何事だ?!」「無礼な!!」と、国王達を守る騎士や神官の前で、兵士は倒れ込むように膝をつくと、大きな声で報告を上げ出す。
「申し上げます。上空を!!我が国の上空を巨大な岩が通過して行きました!!」
泥に塗れた兵士の一言に、大広間は騒然となった。
ただ一人、法凰と呼ばれた彼だけが不敵な笑みを携えて。
この日、マーティーン神聖王国に激震が走り、更に落下した物が岩では無く大陸であるとウワサが流れ、落下物の捜索が始まる事となった。




