12. ついに実を結ぶとき
医務室に運ばれたエドモンドは、早々に学院を去り、挨拶もそこそこに帰国した。
なぜ急に帰ることになったのかは誰も知らない。
彼の帰国で、ほっと一息をついたのは私だけではなかった。
オスカー殿下もその一人だったのだ。
オスカー殿下は、他の男性がエリザベスに興味を示したことが面白くなかった。
(エリザベスは今頃、あいつといるのか? 「あなたの前では月の女神アルテミスも恥じいってしまう」だ? よくあんな恥ずかしいセリフが言えたものだ。それにエリザベスもエリザベスだ。あんなお世辞を喜ぶなんて)
エリザベスとエドモンドの姿を思い出し、ムカムカする。
「珍しいな、おまえがイライラするなんて。何かあった?」
エミールの言葉に苦笑する。
「ああ、よく自分でも分からないんだが、エリザベスがエドモンドと仲良くしていると、なぜか心が落ち着かない。いや、公務として接していることは分かっているのだが、何もあんなに一緒にいなくてもいいんじゃないかと」
苦し気なオスカー殿下に、エミールはこともなげに言った。
「オスカー、それは嫉妬だよ。エリザベス嬢を愛しているんだな」
「え?」
自分が彼女をどう思っているのか、自分の心を改めて見つめなおす。
10歳の頃からずっとそばにいて、将来、共に国を支えていこうと互いに励ましあってきた。
彼女の隣は心地よく、笑うと嬉しくなるし、悲しむと心が痛くなる。
いつしか一緒にいることが当然のように感じていたが、そうか、それだけじゃない。自分は彼女を愛おしく思っていたのだと気づく。
「自分の気持ちに気付いたなら、彼女にも伝えるべきだ。何も飾った言葉じゃなくていい。素直な気持ちをそのまま言葉にして伝えればいいさ」
「そうだな」
オスカー殿下は「ちょっと出てくる」と言って、エリザベスを探しに行った。
(行動早っ! まあそれがあいつのいい点でもあるけれど、それにしても早すぎ。それだけエリザベス嬢が好きってことか)
エミールは苦笑しながら、その背中を見送った。
彼女は学校の温室にいた。
「エリザベス」
「オスカー殿下、ごきげんよう。急いでどうかされましたか?」
「いや、君に会いにきたくなっただけだよ」
「まあ」
エリザベスは頬を染める。
オスカー殿下はそっとエリザベスの頬に触れた。
「エリザベス、君に伝えたいことがあるんだ。君とは10歳の頃からずっと一緒に生きてきた。いつの間にかそれが当たり前になって、君が側にいてくれることのありがたさに鈍感になっていた。でもそれじゃあダメだと思ったんだ。
エリザベス、僕は君を愛している。これからもずっと僕の側にいてくれるかい?」
オスカー殿下の言葉に、エリザベスは遠い目をした。
「エリザベス?…あれ、聞こえてる? おーい、エリザベス」
「…あうっ! し、失礼しました。あまりのことで天に召されるかと…」
エリザベスの慌てっぷりに、オスカー殿下は楽しげに笑う。
「それで、さっきの返事は?」
「はい、勿論、私はずっとオスカー殿下の側にいます。愛していますもの」
「エリザベス」
二人はそっと唇を交わした。
***
「おめでとう。良かったわね」
その様子を遠くから見ていたティアナは小声で呟いた。
「で、あなたたち、また来たの?」
ティアナは自分の目の前で正座する魔王様と上級魔族サーブレスを見据える。
「先日は申し訳ありませんでした!」
「先日?」
「サーブレスが歯向かった時と、どこぞの皇太子を失神させた時であります」
魔王とサーブレスは、魔界一美味しいと評判のスイーツと、サーブレスの全財産が詰め込まれたケースを恭しく掲げた。
「どうかこれでご勘弁願えないでしょうか」
魔王様の言葉に、ティアナは少し考えてから言った。
「そうね。今日の私は機嫌がいいから、今回だけは不問に付しましょう。でも次はないわよ。それがどういうことか、わかるわよね」
ティアナはにっこり笑った。
ヒロインの笑顔は、いろんな人を魅了するはずなのだが…
「ひっ!!」
魔王様とサーブレスは、この世で一番怖いものを見たと言う顔で慌てて逃げ帰った。
「なに、その反応」
ティアナはぼそっと呟くと、魔界一美味しいスイーツを口に放り込んだ。
***
後日譚
最近、なぜか魔族の襲来もなく、平和な日々が続いていた。
(実は魔王様とティアナとの不可侵条約のお陰だけれど)
学院を卒業したオスカー殿下とエリザベスは 今日、予定通り結婚式を挙げた。
エリザベスはもう幸せすぎて、身も心もとろけてしまいそうだった。
そんな彼女を、やはり幸せそうな顔のオスカー殿下が見守っている。
二人のラブラブぶりに、エミールはやれやれとため息をつき、眼鏡をポケットにしまった。
「これぐらいがぼやけていて、ちょうどいいな」
「なになに、見ているのが辛くなるほど羨ましいのか?」
アレンがエミールを肘で押す。
「それはアレンの方だろう? まあ、僕は婚約者がいますから、羨ましくも何とも」
「く~っ、いいよな、相手がいる奴はよぉ。ああ、誰か俺を慰めてくれ~」
アレンは女子の集まる方へフラフラと行った。
ミリアはもうオスカー殿下のことなんてどうでもいいようだった。
様々な男性との人脈をフル活用して、ちゃっかり実家の商売を成功させており、今日もせっせと宣伝にいそしんでいる。
「可哀そうなアレン君には、これ、差し上げます。今度発売予定なんです。私の愛と光の魔力をたっぷり注ぎ込んだ自慢の一品です。うふふ。これでアレン君も癒されますよ。間違いありません。もし気に入ったらここに連絡ください」
商品の入った袋と一緒に名刺を渡す。
「7日以内に購入希望の連絡をくれたら、10%割引にしちゃいますよ。2個以上購入で、おまけも付けちゃいます。これアレン君だけの特別サービスですからね。みんなには内緒ですよ」
ミリアはにっこり笑うと、次のターゲットを探しに行った。
アレンは袋を開ける。
「なんだ、これ」
そこにあったのは、食虫植物ハエトリグサ。
「なんか俺が捕食されているような気分になる…」
アレンはがっくりと項垂れた。
結婚式は大きな問題もなく、無事お開きとなった。
「おめでとうございます」
「末永くお幸せに」
祝福の声が国中にあふれた。
その頃ティアナは…
旅に出ていた。
そして彼女は今、旅先で出会った無礼な堕天使の胸倉をつかんでいる。
「吹っ飛ばそうか?」
ティアナはそう言うと、にっこりと微笑んだ。




