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ドナシアン・グレゴワール=バルガング






牢獄を出て、階段を駆け上がり、その先にあった扉を海斗さんが消滅結界で消します。


そこからまた駆け出し、走って、走って、走る。



走って実感しましたが、体がとても軽い感じがします。

これがステータスの恩恵なら、本当に凄いですね。

この世界にあっという間に順応した海斗さんも凄いんですけど……



私の手を引き私の前を走る海斗さんは、後ろ姿が兄さんによく似ています。


そんな海斗さんを見てると、兄さんを思い出してしまうのか、胸が締め付けられるように痛いです。


いつも迷わなくて、泣いたところを見たことがなくて、頭がよくて、運動も得意な、自慢の兄。


でも、ちょっとドジで、変なところがお馬鹿で、肝心な時は大体締まらない、世話の焼ける兄。




(あぁ…会いたい……会いたいよ…兄さん)




ここにいない兄の事を考えていると、かなり開けた場所に出て、すごく変な感じがしました。



空気がねばついているみたいで呼吸が苦しいです。


それに胸がざわつく感覚が、決定的な何かを強く訴えかけてきて、自然と足が止まってしまいます。





「どこへ行く」




威圧感のある声がし、見ると5人の白騎士を連れた一人の男がいました。


屈強な肉体に、黄金に輝く短い髪と目。

豪華な赤いマントを羽織り、その中には頑丈そうな白銀の鎧を着込んで、腰には1本の長く太い両手剣をさしている。


召喚された時、1番最初に話しかけてきた男です。




「逃げ場などないぞ?」




鋭い目で睨まれ、足がすくんでしまう。

しかし、海斗さんは毅然とした態度を崩しませんでした。




「ないなら作ればいい」




海斗さんは、チラッと私を見て「逃げろよ?後で行く」と呟いた。



「転移結界」



瞬間、景色が変わる。




「………え?」


ここは…さっきまでいた牢獄?


周囲に海斗さんは、いない。





────まさかっ!?



「自分を…囮に?」



私を逃がしたんですか?







▽▽▽






「これは少し予想外だ……やってくれたな」


男は苦々しく呟く。


「へぇ?何したか分かんのか?」


海斗はヘラヘラとした態度で問う。


「結界魔法……3代目勇者が得意にしていた魔法だ」


忌々しそうに吐き捨てる。

海斗は自分以外にも少なくとも3人は異世界人がいたことに驚く。

ちなみに先程海斗が使った結界魔法、転移結界は、あらかじめ用意しておいた結界と、使うときに生成する結界の中身を入れ換える魔法である。

牢屋でぶつぶつしていたのは、これを行っていただけで、別に気が触れていた訳ではない。

結界魔法は熟達すればするほど、規模、距離、発動速度などが向上する。



少し考えてから男は命令を出す。


「そこの男は生かせば邪魔になるだろう、殺せ」


「……」


その命令に従い、二人の白騎士が剣を抜く。


二人とも剣は構えず、海斗に踏み込んだ。


瞬く間に海斗に肉薄し、一人は海斗の左脇腹を下から切り上げ、もう一人は海斗の右脇腹を上から切り下ろす。




────が。



「転移結界」


剣が空を切る。


海斗は転移結界で切り上げた白騎士の背後を取り、大盾でぶん殴る。


殴られた白騎士は、もう一人を巻き込みながら吹き飛んだ。


「よく飛ぶ」


壁に叩きつけられ、沈黙した白騎士達を見て海斗が感心したように呟く。


その右手には海斗の身長ほどある白に黒のラインの入った大盾があった。

服も、大盾と同じ色合いの鎧になっている。


聖盾と聖鎧だ。


海斗が白騎士を吹き飛ばした後、間髪いれずもう二人が剣を抜き海斗に迫る。


「転移結界」


またも白騎士の剣は空を切る。


今度は攻撃により体勢の崩れた白騎士の一人を、大盾で地面に叩きつけた。


白騎士は地面にめり込み沈黙する。


残っていたもう一人の白騎士が剣を上段から振り下ろす。

それを体を半身にして右に避けながら、大盾を横薙ぎに振り吹き飛ばす。


「後二人だな、おっさん」


「ほう、数も数えられんのか?」


疑問に思う暇もなく、海斗の周囲を5人の白騎士が囲うように渾身の切り込みを見せる。






─────が。



「屈折結界」


今度は白騎士の剣は空を切らず、味方を切りつけた。

屈折結界により不自然な軌道を描いて。



「ふむ……」


白騎士達が同士討ちで戸惑っている間に、蹴り飛ばし止めを刺した。




「これで後、一人だな」


「……」


「どうした?驚いて声も出ないのか?もう守ってくれる騎士はいないぞ?」


「……なに、知識の重要性を再確認していただけだ」


そう言って男は不敵に笑う。


「気が変わった。殺すには惜しい知恵者だ」


そう言って男は右手で剣を抜く。


「安心しろ、死ぬのはお前だ」


海斗もまた盾を構えた。




「くっ…くくく……くはははははははっ!!」


海斗の言葉を聞き、何故か男は大笑いした。

男はひとしきり笑ったところで、ポツリと呟く。


「───まぬけ」


「……なんだと?」


「お前達は知らないだろうが、ここは帝国、バルガング帝国だ。そして俺はこの帝国の皇帝、ドナシアン・グレゴワール=バルガング」


いまいち要領の得ない話に、海斗は眉をひそめる。


「何が言いたい?」



「帝国とは実力主義の弱肉強食。単純に、強い奴が偉い。故に───」



バルガングは一瞬で海斗との間合いを詰め。



「───皇帝とはこの国で最も強い者に与えられる称号だ」



体を半身に、右下から斜めに切り上げた。


「ッッツ!!!」


咄嗟に大盾をはさむ。

しかし、衝撃を押さえきれず、重心を弾かれて体勢を崩す。


「ほう、今のを防ぐか」



追撃を警戒し、海斗は慌てて体勢を立て直した。


直後、今度は右薙ぎの攻撃を防ぐ。

しかし、2撃目は両手で持たれたため先程より速度も威力もあり吹き飛ばされる。




剣撃の衝撃が腕の骨までビリビリ響く。



「………マジかよ」



動きは速い、力は強い、体さばきも素人目ですら格の違いが分かる程と来た。



まさに絶体絶命。



(こりゃ、やべぇな)


ツーっと冷や汗が頬をつたった。


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