ゴブリンで無双
ルターナの頭を撫でまくった後、俺達は遺跡の入り口を探していた。
ルターナいわく今探している遺跡は地上ではなく地中にあるらしいので、地面の穴と言う穴を探しているが見つからない。
「変ね、間違っていないはずなのに」
そんな事を言われても無いものは無い。
「なぁ、ルターナ。俺はなこの世界に紛れ込んだとき最初にいたのは森じゃなくて洞窟なんだ」
「…………え?」
「だから、洞窟だよ。正確にはキラーアントの巣なんだが、あの岩山の中腹くらいにあるのよ」
「…………」
「こんだけ探して無いなら、あそこが関係してるんじゃないのか?」
「……それを早く言いなさい」
そう言ってルターナは深いため息を吐く。
「そこはキラーアントが作った巣じゃないわ」
そこまで言われて理解する。
「あーっなるほど、キラーアントは元々あった洞窟に住み着いただけで、あの洞窟の用途は他にあったと」
「ええ、そしてそれが入り口」
「なら、今日は止めておこう。あそこはあんなんで結構広い」
「そうね、ここの魔力偽造結界を見る限り全体は軽く10倍はありそう」
「んじゃ、冒険者の依頼をこなして帰るか」
そう言って俺はもう一度翼を広げ、ルターナを抱えて飛んだ。
▽▽▽
上空からゴブリンやウルフを探す。
そして俺は思った。
「いねぇ」
そう、まるでいないのだ。
ゴブリンやウルフと言えば常に狩らないと数が増えすぎてしまう魔物なのに見つからないってどういうことだよ?
「蓮って頭いいときもあれば、バカなときもあるわよね」
「失敬な!俺のどこがバカなんだ?」
「こんなレベルの高い森にゴブリンなんかがいるわけないじゃない」
・
・
・
「ゴブリンなんかがいるのは街の近くよ」
「いや違うぞ?言い間違えたんだ、ねぇなって言いたかったんだよ。や─」
「薬草やマナの葉もこんな過酷なところには自生してないわよ」
「…………」
「………ふっ」
ルターナがこれでもかってくらいドヤ顔をする。
「あーっ傷ついた、もーダメだー」
そう言って俺は翼をたたみ、空から垂直に落っこちる。
「え?わ!わっ!」
ルターナはやっぱりこう言うの苦手なんだな。
しがみついていた手がプルプルしてる。
地面ギリギリで止まる。
「しがみついちゃってまあ、そんなに怖かったのかい?」
「あっ、あなたやっぱりきやいよ」
「ブフォ!!」
……む…無理。この不意打ちは反則だ。
いいだろう、素直に負けを認めようじゃないか。
ルターナは顔を真っ赤にして、それが見えないように俺の胸におでこをグリグリしてくる。
「ぅぅぅー」
かわいいし面白いがここら辺でやめとこう。
そう思って、再度俺は飛んだ。
▽▽▽
「おっ、あれだな」
その後ルターナの助言通り街の近くを旋回してゴブリンの巣と思わしき場所を見つける。
ちなみにウルフと薬草、マナの葉はもう完了していて、今は異空間に放り込んである。
薬草とマナの葉はコツを掴めばすぐ見つかるようになるものだったので特に苦労はしなかったが、ウルフは基本的に30なんて数では群れを作らないので地道に集め無くてはならず、ちょっと面倒だった。
その点ゴブリンはいい、弱いし、群れるし、欠点は唯一汚いくらいだがそんなのはあの時の山賊もどきも同じだ。
さあ、殺そう。
皆殺しだ!
とは、いかないんですよねー。
せっかく見つけたのに、なんか先客がいたの。
最初は誰かが襲われてるのかと思ったが、魂の記憶を見るにそうじゃないらしく面倒くせぇのよ。
「どうするの?」
「放置でいいだろ、死んだら俺の番ね」
「よかった、邪魔だから殺そうとか言うかと思った」
「ルターナには俺がどんな風に写ってるのかね。傷ついたよ。とっても傷ついた。うっかり翼を仕舞っちゃいそう」
「嘘ね、仕舞うときはいつも突然仕舞うじゃない。あなた」
「なんて思ってて落ちたらどうする?」
そんな事を言いながら翼を仕舞う。
「だから………え?」
「はい。落ちるよ」
「あ、えっ?、ちょっと!」
今度は地面ギリギリで風魔法もどきで着地する。
「今思ったがルターナってば落ちる時悲鳴はあげないよな」
えらいえらいと言いながら頭を撫でる。
ルターナってばまだプルプルしてる。
「ほっ、ほらっ!突然仕舞った!突然仕舞った!」
「聞こえませんなー」
そう言いながらルターナをおろす。
しかし、ルターナはしがみついたまま動かない。
「どうした?」
「………」
「ルターナ?」
「こっ、腰が抜けちゃった」
「………」
「ひ、一人じゃ立てないの」
見ると足もプルプルしてる。
ちょっとかわいい。
「仕方ないな」
やれやれと言いながら今度は背負う。
「よく言うわよ、あなたのせいじゃない」
「聞こえませんなー」
そう言って洞窟に入っていく。
「先客がいるんじゃないの?」
ルターナが不思議そうに聞いてくる。
「………ああ…ちょっとね」
「………そう」
ルターナはこう言うとき何も言わない。
ただ、俺の首にかけている手の力が強くなった。
「ルターナ…」
「なに?」
「お前、やっぱりいい女だな」
ルターナはちょっと驚いてから。
「当然でしょ」
そう言って、寄りかかってきた。
▽▽▽
おっ、いたいた。
洞窟の中にいた先客を発見する。
あっ、こっちの存在は隠蔽してるから相手には分からない。
そんで、先客なんだがこれは別に死んだ訳じゃない。
なんとも迷惑な話だが、ゴブリンは全滅している。
問題はパーティーの裏切りだ。
「あぐっ!」
女騎士が周りの男共に痛めつけられている。
ゴッ!ゴッ!と洞窟の中で音が反響してるから見つけやすかったよ。
「な、なあ、もういいんじゃないか?」
「バカ言え、こいつはこんなんでも隊長格だ。手が1本でも動くなら俺達殺すくらい、わけねぇよ」
鈍い音が洞窟に響き渡る。
「まあ、こんなになっちまったらただの肉袋だけどな」
男共は全部で9人。
「それにしてもこんな手に引っ掛かるとはな」
そのうちの1人がガラスの小瓶のような物を拾い上げる。
ポーション的なものでも入っていたんだろう。
「特製の麻痺毒だ。3日は動けんだろうよ」
「じゃあ、そろそろお楽しみといくかぁ?」
ニタニタと笑いながら女騎士を囲んでいく。
彼女の顔はひどく腫れ上がり、頭を打ち付けたのか血がだらだら出ている。
「あ……う…く…」
「いつもならこんなこと出来ねぇけどよ。あんたが間抜けで助かったわ」
そんな事を言いながら女騎士に手を伸ばした
男は───
触れる前に、横から振り下ろされた剣で手を切り落とされた。
「………は?」
そして、それがその男の最後の最後の言葉となった。
後ろから飛んできた棍棒で頭を潰されたからだ。
グシャッ!っと生々しい音が響く。
「………え?」
周りも男を殺した相手をみて、唖然とする。
なぜならそいつは、ついさっき自分達が殺した
ゴブリンだったからだ。
「なっ、なんで!?」
『なんでと言われたなら答えてやろう。これは俺の固有スキルである魂魄強奪力のLV8、9で得た追加機能だ。したことは1度奪ったゴブリンの魂を魂魄改変でちょっといじくり、肉体付与でゴブリンの体に戻し使役している』
ちなみにいじくったのは戦闘技術があまりにも下手くそだったから、その辺を少し変えた。
なので、こんな風にこいつらを殺せる。
じゃなきゃ普通に負ける。
『聞こえないのに誰にしゃべってるのよ』
今ルターナが言っちゃったが、そうなんです。
偽造しているのは存在感なので、そもそも認識できない。
だから、声が聞こえることもない。
後ろからカンチョーしても本人は気づけない。
…考えてみるとおっそろしいな。
声をあげた男も、先ほど死んだ男のようにゴブリンに殺される。
しかし、状況が飲み込めてきた奴らにゴブリンは殺されてしまった。
「雑魚が!」
「さっき殺したばっかだろ!なんで生きてんだよ!?」
そう言いながら2度目の死をむかえたゴブリンを更に追撃する。
もう2度と起き上がってこないように。
まあ、いくら俺が弄ったとはいえゴブリンの体のスペックは変わらない。
なので、殺されてしまうのはある程度は仕方ないな。
しかし、ゴブリンは一匹なんて誰も言ってないぞ?
「ごぽっ」「ぐぺっ」
一人は矢が喉に刺さり、一人は剣が胸から生える。
あらたに起き上がった2匹のゴブリンによって。
お前達がたくさん殺してくれたお陰で残弾はまだまだあるぞ?
さあ行け!ポチ!
「なっ!!ぶべらっ!」
驚いた奴の顔が燃え上がる。
ポチ(ゴブリン)の火魔法だ。
「くそがぁぁ!!」
剣を滅茶苦茶に振り回しはじめた奴は、魔法で焼かれ、他のゴブリンに止めをさされた。
「じょっ、冗談だろ」
この状況でたじろいだバカは、音もなく肉薄してきたゴブリンに胸を剣で突かれ死んだ。
「う………嘘……」
色々覚悟してたらしい女騎士はポカーンとしている。
血が滴り、肉が飛び散り、骨が砕ける音が響き、あっという間に男共は皆殺しになった。
さて、再び骸骨マスクの登場です。
骸骨に拘るのは、ちょっと気に入ってるんですよ。
まあ、マスクそのものがカッコいいと思ってるんだけどね。
今回の骸骨マスクは、前回のように目や鼻の穴がなかったりはしない。
割とオーソドックスな形だが、モデルを前回と違い鹿にした。
しかし、物凄い残念なことに角がない。
そのため、角は自分のを使うことにして諦めた。
多分、巻角だし誤魔化せるだろ。
ちなみにまた木製だ。そろそろ本物か金属製にしたい。
そんな事したら言い訳できないくらい中2になってしまうが、こんな存在そのものが中2みたいな世界なら関係ないだろう。
大鎌とボロ黒ローブは、まだ作ってないので今回もない。とても残念だ。
角を出し、骸骨マスクを被り、闇魔法で全身を包んでから隠蔽を解く。
ルターナには掛けたままなので、相手は俺しか認識できない。
氷魔法で気温を下げ、風魔法で風を起こす。
何故こんな魔法を使ったかというと、ただの雰囲気作りだ。
やっぱ雰囲気は大事だと思うんだよ。
そして骸骨マスクを見えるように上から闇魔法を外していく。
出てくる服はお馴染み闇魔法のボロ黒コートもどきだ。
女騎士は突然現れた俺にビクビクしている。
まあ突然骸骨のマスクをつけた奴が現れたらビビるよなそりゃ。
しかもこんな状況だし。
「…あ…あなたは?」
それでも質問してくるのは根性がある証拠だろう。
俺は答えるために音魔法で声を出来るだけ低くする。
「我が名は、グリム」
自分でも威厳たっぷりに聞こえたので成功したと思う。
「なぜ…私を助けたのですか?」
女騎士はボロボロになりながらもそんな事を言う。
こいつにはただの善意と言うことが伝わらなかったようだ。俺はそれが少し気に入らない。
まあ、格好が格好なので文句は言えなさそうだが…
「………」
俺は女騎士の質問には答えず、無言のまま近づく。
「………」
女騎士は俺から視線を離さずジッと見つめてくるが、俺が近づくにつれ目の奥に恐怖が浮かんでいき、ついには目を閉じた。
俺はそんな女騎士の、腫れ上がった痛ましい頬にそっと触れる。
ビクッっと体を震わせ、女騎士は先ほどより目を強く閉じた。
心外だ。
「………え?」
ポウっと女騎士の体をあたたかい光が包む。
この光は俺の回復魔法だ。
傷や毒くらい簡単に癒せる。
はじめて使うが出来る……はず、たぶん。
ちゃんと傷が癒えたことを確認し俺は手を離す。
そして言う。
「助けたのは、この為だ」
「………」
女騎士はポカーンとしているが、もう付き合ってはやらない。
やることはやったしな。
俺は周囲を闇魔法で包み、ゴブリンや死んだ男共を異空間に放り込む。
闇魔法を消すと共に俺も偽造を使い、消える。
洞窟には呆けている女騎士だけが残った。
▽▽▽
「いって!」
洞窟から出るとルターナが脇腹をつねってきた。
これが結構痛い。
「何すんだ、ぼけ」
文句を言いながらマスクと角を仕舞う。
「別に…」
背負ったままなのでルターナの顔は見えないが、声から何かが不満なことはひしひしと伝わった。
しかし、それはいきなり横腹をつねられた俺も一緒だ。
なので、空間魔法でルターナ後ろにワープする。
「ひゃっ」
空中に放り出されたルターナは体を縮こまらせて、衝撃に備えていた。
しかし、俺はルターナが地面につかないよう後ろから高い高いのように脇を持つ。
「あはー、ビビったか?」
ニヤニヤしながら聞いてみる。
何かしら言うと思っていたが、足をプラプラさせるだけでルターナは何も言わない。
「どうしたよ?拗ねてんのか?」
流石に鈍い俺もここまで来ればなんかあったと分かる。
しかし、ここまで不機嫌になる原因が分からない。
「知らないわよ」
ポツリと呟くように言う。ほほぅ?
俺はとりあえずルターナを地面に下ろす。
後ろから見るとしょんぼりしてるのがよく分かる。
それを見て俺はルターナを後ろから抱き締めた。
「なぁ、ルターナ。俺達は夫婦なんだろ?なら不安に思うことは何もない。ちゃんと俺はここにいるし、別に何処にも行かないからな」
そう言いながらルターナの頭を優しく撫でる。
「……やっぱり…あなたはズルい」
そう言いルターナは、愛おしそうに俺の手を握る。
「でも、嬉しいと思ってしまう私も私ね」
そう言ってクスクス笑う。少しは元気が出たようだ。
それを見てから翼を広げ、ルターナを抱き抱える。
「じゃ、帰るぞ」
ルターナはこちらに体を預ける事で返事をしたので、俺は街の近くまで飛んだ。