表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元死神のお嫁さんと行く異世界、流れに任せて生きていく   作者: ぽむぽむ
第1章 異世界転移初日の長い1日?
12/25

死神の恋

たくさん読んでいただいてありがとうございます!

これからも頑張るのでよろしくお願いします!






はじめて夢を見た。


まだ死神だった時のこと。

私は優しい父親と母親に囲まれ育った。


死神なのに、神様なのに、私は優しい人に囲まれ過ぎていた。


この世界は優しい人ばかりだと思っていた。

この世界にどうしようもない不幸はないと思っていた。

この世界に優しさを知らない人はいないと思っていた。


でも違った。


そう思っていたのは父と母のお陰だったと、大きくなるにつれて思い知った。

どうしようもない不幸に会う人も、優しさを知らずに大人になる人も、たくさん見てきた。


だけど私は、父様のようにどうしようもないはずの不幸な目に遭った人をを笑顔にしたかった。


母様のように癒えることのない傷を負った人を癒してあげたかった。


でも、出来なかった。


父様のようには、母様のようには、なれなかった。


妥協して


妥協して


妥協して


はじめに志した願いなんて、もう面影も思い出せなくなった時─


─彼にあった。


魂のない肉体を持つ、あまりにも異質であり得ない存在。


おおよそ人には思えず、ただの怪物であるはずの男は……それでも誰かを救おうとしていた。


その姿は、ただ滑稽で無様。


なのにどうしてか、強く、心を揺さぶられる。



▽▽▽



ある日のことだ。


私はいつも通り天界で下界を眺めていた。

その時たまたま異物がこの世界に入ってきた事を察知し、不審に思い調べてみると魂の無い存在だと判明した。

死神として長い間この世界を管理してきたがこんなことはじめてだ。

無くなったのではない、元から無いのだ。

アンデットやレイスとは決定的に違う。

なのに、まるで生きているかのように振る舞う。

気持ち悪い。

そう思った私は、下界に降りる準備をし始めた。

それを私の世界から消し去るために…



▽▽▽



下界に降りると、それはシーサーペントと戦っていた。

地面に降り立ったところで、この世界から切り離す。

すると糸の切れた人形のようにパタリと倒れた。

後はこの世界の強制力で存在が消滅するのを待つだけ。

一仕事終えた私は、それの消滅を清々しい気分で眺める。

しかし、手足から消滅をするはずのそれは苦痛に声をあげた。



「ぐぁぁぁぁ!!!あ、ああああ!!」



ッツ!!!


そんな!?

世界から切り離したのよ!?

つまりこの世界の法に異物として処理されてるのよ!?


すぐ消えなかっただけでも異常なのに、声をあげるだなんて、あり得ない。



「かはぁ!はぁ!はぁ!はぁ!」



私は目の前のそれに驚愕する。

今それがしていることは要するに意志の力のみで世界の法則に逆らっているのだ。

それも世界の法則でも最上級に位置する「因果の法則」に…


「ぐぶっ!…がぼ…ごほ…ごほ……あ…あぁ…ぐ…が…ああ!!…ぐっ!…は…ぁ…は…ぁ…」


だけど、やはりたかが人間が逆らうには、余りにも大きいものだ。


血が沸騰し


肉が焼け


骨が砕ける


それなのに、血反吐を吐きながらも、懸命にどこかに向かっていく。


「それ…でも…

愛し…て…いると…言わせて…くれ…

お前を…大切…だと…言わせ…て……くれ…」



本人も薄々無理だと悟っているようだ。

誰かの想いを呟きながら泣いている。


なのに、なんで?

無理だと分かって、無駄だと悟って…

それでも進んで、いったいどこに行くのよ。


なんで私は…

滑稽なはずのその姿にこんなにも強く、心を揺さぶられているの?




──醜い。


それほどまでに生に執着していったい何の意味があるの?


──無様。


そうまでして成し遂げたいことも結局出来なかったら意味無いじゃない。


──哀れ。


………もう、手遅れなのよ……




「この…想…い…は…嘘…じゃ…無い…って………」





そして、何も無いガラクタだけが……そこに残った。
















「ふふっ」


なんだろう。


「はははっ」


なんだろう、この気持ちは。


「あはははっ」


こんな人、見飽きるくらい見たはずなのに…


「あはっ…はは…」


視界がぼやけて前がよく見えない。







──いいかルターナ。死神とはたくさんの死者を弔うのが仕事だ。だから誰より平等でいなくてはならない。仕事に私情を挟むなど以ての外だ。しかし、それでも死神は情に厚くなければならない──





なんで、こんな時に父様の言葉を思い出すのだろうか。





─人とは心を持ち生きる生き物だ。だからこそ死神が人の心を忘れてならない─





知ってるわよ。

父様よく言ってたじゃない。






─何故なら死神は死者の魂に救いを与える─




「ヒーロー…だから……」




なのに、私は何をしているのだろう。

死神なのに、神様なのに、いっつも逃げてばかり…

妥協を繰り返した今の私は父様の言う死神でいられているだろうか?

ちゃんと誰かを見たことがあっただろうか?

一緒に向き合ってあげようと思った事が、1度でもあっただろうか?


なかった。


それだけでなく、懸命に生きる彼を殺してしまった。

せめて、話だけでもするべきだった。

彼は生きていたのだから。

死んでなど…いなかったんだから。

そんな事も分からなかった私は─


─ああ、私はなんて─



「ひどい神様なの」




そう言った瞬間、私の周りにあった草木が急に枯れ始めた。


「なっ、何!?」


その異様な光景に驚き、周囲を警戒する。


「あっ、あああああああああああああああああああああああ!!!!」


獣のような雄叫びが木々をざわめかせる。

先程まで彼がいた場所から物凄い風が吹き荒れる。


「なっ、なんで!!」


彼は生きていた。

いや、生きていたと言っていいものなの?


背中から黒緑の1対の翼が生え。

それが次第に大きくなり、羽が落ち、ごつごつした赤黒く禍々しい翼になる。


手足は靴や服を引き裂きながら膨れ上がり、ぼこぼこ血管が浮き出て来て、それにあわせ手足が末端から黒く変色する。


拍動にあわせて徐々に血管の隆起が首、顔と広がっていき、目が赤黒く変色した。


頭からはこめかみの皮膚を突き破って、メリメリと赤黒く大きな巻角が生えてくる。



「………あっ………悪魔?…」


唖然とする外ない。

その姿はまさに悪魔だった。


禍々しい翼。

黒く光沢を持つ皮膚。

大きな巻角。

そして─その威圧感。


「ぁ…ぁぁぁ…さきぃ…ど…こだ…」


彼は呻くように呟く。

先ほど言っていた人だろうか。


──こんな姿になってもそれを求めているの?


なんて、強い人だろう。


不思議と気がついたら私は彼に問いかけていた。


「…ねぇ、あなたは誰を探しているの?」

「さき…どこだ…どこに…いる…」


当然彼は答えない。

近づいて更に続けて問う。


「ねぇ、さき?ってどんな、人なの?」


彼の目が私をとらえる。

それは、とても優しい目だった。


「あぁ…さき…ここか…ここに…いたのか」


どうやら、さきと言う人を私と勘違いしたらしい。


「ふふっ、私じゃないわよ?」


何だかこんな姿なのに子供っぽくって笑ってしまう。

彼は近づいてきて私を抱き締めてくる。


しかしその力は強く、仮にも神である私の体が軋む。

なんだかそれが嬉しかったけど、だんだん恥ずかしくなってきて彼から顔をそむけた。

周囲に目をむけると森のほとんどが砂漠になっていて、彼と二人きりのようで余計恥ずかしくなる。


その光景を眺めていると、ポタポタと何かが私の頬に落ちてきてちょっとビックリしてしまう。


彼を見上げると、彼はまた泣いていた。


「………もう…どこ…にも…いかないで…くれ」

「…………」

「もう…お前しか…いない…ん…だから」


さき、いかないでくれ、さき、と彼は繰り返す。


「……バカね、全然強くないじゃない」


やっぱり私は死神に向いてないわ。

自分に呆れてしまう。


ぼぅっとしていると突然彼が寄りかかってきた。

ちょっとビックリしてしまう。


「わっ、わっ、どうしたのよ?」


よく見ると彼の体が崩壊を始めていた。

既に手は肘ほどしかなく、左足は太ももの辺りまで無くなっていた。

彼の少し後ろに崩れた左足が転がっている。


忘れていたけど、しっかり世界に存在を蝕まれていたようね。

それなら、そう遠くないうちに彼は死ぬ。

まず間違いなく、死ぬ。



私は1人で立つことも出来なくなった彼を抱き締めて言う。


「ねぇ、私、死神に向いていなかったみたいなの」



だから…



「あなたに、あげるわ」


そう言ってキスをする。


「………んっ…」


自分の体から大切な物が無くなる感覚を感じる。


これは死神の結婚の儀式だ。

永久の愛を誓うとき、キスと共に自身の魂の一部を分け与える。

そうすることで夫婦は魂で強く結ばれる。

片方が死ねば自分も死ぬくらいに。


「ふふっ」


彼の傷は癒えたようだ。

神になると世界からの干渉を受けなくなる。

今回は助けるならこれしか方法がなかったが、別に仕方無くやったわけではない。

そんな風に思われては心外よ。


あら?傷は治ったけど服がボロボロね。


「全く、世話の焼ける旦那様」


修復魔法で服を元に戻す。

うん。血の後も綺麗になった。




私はもう死神ではない。

苦労して今まで積み上げてきたものは全部ぱぁ。


だから見ていてください、父様、母様。

今度こそ立派な死神になって見せます。


待っていてください、父様、母様。

今度こそ憧れたあなた方に少しずつ近づいて行きます。


彼と一緒にね?


「今はあなたの魂が無いから無理だけど、いつか返してもらうわよ」


いとおしく頭を撫でる。




▽▽▽




「ゆっ、夢??」


はじめて夢を見たようだ。

少し、恥ずかしい…

隣のベットを見ると、蓮がすやすや眠っている。


(ふふふっ、こうしてみるとやっぱり子供みたいね)


「ちょっとくらいなら…大丈夫よね?」


自分のベットを出て、蓮のベッドに潜り込む。

あぁ暖かい、これで魂がないんだから驚きよね。


その後頬をぷにぷにしたり髪を触ったりしてルターナは思った。


(こっ、これじゃまるで乙女じゃない!)


まごうことなき乙女である。


(蓮のくせにぃ、なまいきよ)


あまりに理不尽なヘイトを知らずのうちに稼いだ蓮だった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ