93.「有像無象 ――獣人探索+⑫――」
「ド…ハイブリッジ!」
ついに追いついた。
だいぶ足元が乾いた場所に出る頃、木のそばで静かに佇んでいる相棒の姿を見つけた。
言いかけた彼女の名前を苗字に呼び直し背後から近づくミズハ。
ここまで来る頃には木に擬態した生物も、頭上を徘徊する怪物もいなくなっていた。
辺りは静かだ。
霧も少しばかり薄くなってきている。
目の前には相棒、つまりは人間の女がいる。
これらの状況が疲労困憊の彼の判断力を鈍らせた。
「これは!」
肩に手が触れる寸前まで近づいてようやく気付いた。
そこにいたのはドナではない。
ドナの姿を映した像だ。
慌てて飛び退くと同時に周囲の木々がザァーッとざわめき立つ。
そして四方から飛んでくる無数の針がミズハの全身に次々突き刺さっていく。
一つ一つは裁縫用の糸針よりも細いが数が尋常じゃない。
しかも厄介なことにただの針ではなかったようだ。
「くそっ、体中の力が抜ける…」
吹雪のような針攻撃が収まった。
全身の至る箇所を毒針に覆われたミズハは立っているのがやっとだった。
うかつにひざを付くこともできない。
「ヒザにも刺さってるからな。それにしてもケモノめ、好き勝手やりやがって」
動けないままでも見開いた瞳がユラユラ動くドナの像を捉えていた。
それは一枚の絵を、森のスクリーンに立体的に見えるよう上手く映し出している。
「体の形と光を組み合わせていろんな像を映し出し、油断させる。集団で狩りをするネズミの話を読んだことがあるが。まさかこんな子供騙しに引っかかるとはな」