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70.「好き嫌い ――暴走ハンターを取り押さえよ⑩――」
最後に順番が回ってきたファルの一言。
「辞典よ。この家を元に戻して」
その一言で場の状況がガラリと変わった。
どこからともなく風が吹き、乱雑に積み重ねられていたページがバラバラとめくれ上がる。
紙の山と化していたそれが見る見る膨れ上がり、次第に紙の合間から見覚えのある鉄骨の階段やレンガの壁が見えてきた。
ものの一分間。
たったそれだけの時間ですっかりいつものマンションに戻っていた。
「完全に元に戻ったな」
壁をコンコン、ペタペタと触りながらミズハが確認する。
「えーっ。これって、最初から持ち主が言ってればよかったってオチ?」
ドナはすっかり脱力し地面に座り込んでしまった。
そして驚いていいやら喜んでいいのやら分からない様子のファルに話しかけるミズハ。
「なにはともあれ。ファルちゃんお疲れさま。住民に連絡してくるからそれまで部屋で待っててよ」
こうして、目の前の大きな問題がようやく解決した。
マンションに再び人が戻り、扉の前に電気がともる。
騒々しい目覚めから動きっぱなしだったミズハもやっと一息つけるとなれば、階段を上る足取りも軽やかになるというものだ。
ファルのバースデイも満足に祝えていないのだからなおさら早足になるのだった。




