20.「ミチ ――誘いの森の業者救出⑨――」
獣の少女が戻ってきた。
月の光が差し込まない森の中に隠れて、両の目だけが暗闇の中に浮かび上がっていた。
ミズハはその場から動かずにその目に話しかけた。
「俺はハンターだ。この森には人を探しに来た。危害を加える気はないし、すぐに帰るつもりだから勘弁してくれ」
「そのブキはなんだ? どうやってあのカベを上ってきた?」
返事もせずに、獣の少女がすぐに別の質問をしてくる。
彼女が言う『そのブキ』とは、ミズハが腰に差している二丁拳銃の事。
『あのカベ』とは、ミズハがチェーンワイヤーを使用して駆け上がってきた絶壁の事。
森の動物の一員ではあるものの、こちらの言葉が通じる相手。
ミズハはあくまでも相手を刺激せず穏便に対処すべく振る舞った。
「この武器はピストルだよ。えっと、めっちゃ硬い石をめっちゃ速く飛ばす道具だから注意したほうがいいよ」
ピストルを見た事がない獣の少女のために噛み砕いた説明をする。
そしてチェーンワイヤーの説明はピストル以上に面倒なので省略して話を進めることにした。
「さっきも言ったけど。俺はこの森で迷子になってる人間を助けに来ただけだ。獣人を狩りに来たんじゃない。もっと話がしたいけど、今回は人命救助が最優先。余計なことにまわす時間も体力もないんだよ。けど」
そこまで言って、ミズハは包帯が巻かれた両腕をだらんと下ろした。
脱力の構えとでも言うのか。
二丁拳銃に触ってはいないが、この体勢からなら拳銃を抜いてからトリガーを引くまでにコンマ一秒も掛からない。
視線だけが獣の少女を外さずに捉えたままのミズハが続けて言った。
「もう一度引っかきに来たら、今度は撃つぞ」
さっきはむざむざと両腕を切らせてやったが今は違う。
警戒している。
間合いもより長い。
それになにより、ケガを負わされた相手を前にしてちょっと怒っていたりもする。




