19.「銃と獣人 ――誘いの森の業者救出⑧――」
俺「日曜日なんだから、連続三話掲載くらい余裕ですよねぇ」
俺「はい」
月明かりに照らされた丘の上で、二人は対峙した。
鋭い牙を向けて鋭い爪を突き立てる獣の少女。
対するのは金属製のピストルに指を掛けるハンターの青年。
その均衡は一瞬で崩れた。
「まさか。君、獣人か?」
ミズハがすぐさま二丁拳銃をホルスターに戻して話しかける。
敵意がないことを示すためであったこの行動は、残念ながら獣の少女には伝わりはしなかった。
恫喝とともに飛び込んできた獣の少女の目にも止まらぬ引き裂き攻撃に反応できず、ミズハは両腕を負傷した。
切り抜けて背後に回った獣の少女はそのまま森の奥へと走り去っていく。
ひざをつくミズハ。
血が滴り落ちるものの軽い切り傷で済んだ。
「獣人だよな今の。初めて見たな」
初めて遭遇した未知の生物への感想を述べながら、すぐさま止血して包帯を巻きに掛かる。
獣人については解明されていない点が多い。
外見は獣寄りだったり極めて人間に似ていたりと十人(獣人?)十色だが今の子は、八割方人間寄りだったとミズハは思った。
仕草や運動神経こそ人間離れしていたが、顔や身体つきなどは明らかに人間そのもの。
巷でよく耳にするような『獣耳』でもなくいたって普通の人間の耳が付いているのも確認した。
白い毛皮を全身にまとっていたため遠目では分からなかったが襲われた瞬間に、体毛が『少女にしては濃いレベル』であることも分かった。
一部の人間にはありがちな程度の量であり、全身体毛の動物とはやはり違う。
人間に近い方の獣人は人の言葉を理解し、話すこともできるらしい。
「それでも。再三の呼び掛けに耳を貸さずに無抵抗な人間を襲って逃げたということは、所詮は動物だったということか」
手早く応急処置を済ませたミズハ。
ずいぶん時間をロスしてしまった。
「これ以上ボヤボヤしてたら本当に危ないかもしれないな。早く行かないと」
ミズハは立ち上がり、獣の少女が走り去った方角に背を向けて森を見下ろす。
この場所は道中に比べて静かなので耳を済ませてあらゆる情報を探ろうと試みる。
せめて水の流れる音でも聞こえれば、その周辺で助けを待っている可能性もあるからだ。
すると意外と早く成果が現れた。
「お前ナニモノなの?」
「やっぱ喋れたんか」
木々の隙間から顔をのぞかせている、二本の足で立つ獣の少女。
ミズハは振り返って一定の距離を保ちつつ、それでもピストルには手を触れずに話をしようとした。