8番地 魔法使いのイメチェン
8話目にしてようやくクロエの日本用装備が整います。
火曜日、夜。クロエと出会ってからは最初となるバイトをなんとか終えて帰ってきた俺は気づいた。
クロエが東京で着ても浮かなさそうな服がほとんどないことに。
「――ということで明日の夕方帰ってきたらお前の服を買いに行くぞ」
「……?服ならいっぱいある」
「"日本で着ても違和感ない"服な。今あるやつで大丈夫なの昨日のセーターぐらいだろ」
「…………ニッポンで目立つのがよくないのはなんとなく分かった。でもあのセーターは洗ったばかり」
「明日は俺のでとりあえず我慢してくれ」
翌日、学食で昼飯を食べながら牛込にその話を振ってみる。俺よりも服のセンスはよさそうだからな。
「あー……あのローブ姿だと最悪職質コースだわ。どうせならオシャレな店行こうぜ!クロエちゃんなら大体似合うっしょ」
「却下。予算も含めて敷居が高い」
「ああ、服を買いに行く服がないってやつ?まあユ○クロでも変な感じにはならないでしょ。4コマ終わったら一緒に行こうぜ。お前一人だと不安だからオレに話したとこあるでしょ?」
「参った、否定できない」
4コマの講義が終わり、俺は牛込を連れて帰宅する。
「ただいまー。服買いに行くぞ」
「おかえり」
クロエは既に俺のパーカーを着て待っていた。……やっぱりブカブカだな、うん。まあ……あのローブよりはマシだろう。
そんなこんなでユニ○ロに到着。
「どうよ初めての○ニクロの感想は」
「……広い。服が全部同じ形に見える」
「無頓着すぎだろ……」
クロエは目についた一着を適当に取る。が、そのサイズは「L」。
「いや、それ明らかにデカいだろ」
「ゆるい方が楽」
「だとしてもせめてMだろ……」
さらに店内を見て回る。
クロエはヒーt……暖かく感じる服を触っていた。
「……薄いのに暖かい。火系の魔力が、織り込まれている……?」
「何の変哲も……ないことはないけど化学繊維だ」
「ある意味現代の魔法みたいなもんだけどね〜」
まだまだ店内を見る。
「絶対これ似合うって!」と牛込が持ってきたのは、どこかのバンドがプリントされたTシャツ。
「おま、お前……俺よりはセンスあると思ったのにそれは……」
「えー?でもギャップあってよくね?」
「…………戦闘用の服もあるの?ここ」
「ほらファッションとして認識されてないじゃねえか」
脱線を繰り返しつつも、一通りのコーデを選び終え、クロエは試着室に入った。
「つってもほとんど小鹿のチョイスだけどな」
「お前が変な柄物とかばかり持ってくるからだろ」
「まあクロエちゃんビジュいいしそうそう変な組み合わせにはならないでしょ。それにしても遅くないか?」
「あんま急かすもんじゃないぞ」
それから数分後、なんとか着替え終えたクロエがカーテンを開ける。
……が、そこに立っていたのは、カーディガンのボタンが一つずつズレて留められ、裾が左右で段違いになっているクロエ。
「…………お前、ボタンもまともに留められないのか」
「……なんか、右側が短い。欠陥品?」
「くくく……プフッ……いや、掛け違えてるだけだから! あははは……クロエちゃん、面白すぎるでしょ!」
ボタンを外し、改めて格好を見る。
ゆったりとしたベージュのニットカーディガンに、シンプルな白のTシャツ。下はネイビーのショートパンツにクロエが元々持っていた黒タイツを合わせている。
一瞬、間が空く。
「……あれ、普通に可愛いな?」
「これ意外と動きやすい。あり」
「やっぱり重視するのそこかよ……」
クロエもお気に召したようなので、そのまま会計へ。
……一通り揃えようとするとユニク□でも結構するんだな……明日から節約しなければ。
「これ全部でいくらになった?」
「お前もそういうの気にするのか。大体8000円ぐらいだったから……260〜270バナぐらいか」
「………………!?!?!?」
クロエが宇宙猫みたいな顔になった(無表情だけど)。でもそれは「高い」なのか?「安い」なのか?
会計を済ませ、帰ろうとしたが……。牛込のテンションが高くなっていた。アカン。
「次はオシャレな雑貨屋行こうぜ!クロエちゃんの部屋に置く良さげな観葉植物を――」
「夜も遅いし予算オーバーだ!これ以上アイツに物を買い与えるな!」
「ちぇ〜」
牛込と別れて家に戻り、晩飯の後も新しい服で過ごすクロエ。
ふと鏡に映った自分を見て、「……別の人間みたい。ニッポン人に、擬態できている?」と、まるで自分が人間じゃないかのように聞いてきた。
「なんだよ擬態って……それ抜きにしても普通に似合ってるよ」
そう返した俺に対し、クロエが少しだけ満足そうにするのに俺は気づくよしもなかった。
普段服をあまり買わないせいで忘れがちなのですが、フルで揃えようとすると意外と飛ぶんですね……恐怖。




