31番地 三つ子の魂と縁は百まで
帰省回の始まり始まり〜
クロエの師匠・ジャクリーヌの墓参りから3日後、俺とクロエは帰省のため新幹線に乗っていた。
……もっとも、車内で食べるための弁当選びにクロエが時間をかけすぎたせいで危うく乗り遅れるところだったが。
「……で、時間かけて選んだサンドの味はどうだ?」
「もぐもぐ……パンの質もリュンヌとは段違い。あとイチゴを挟むのは斬新」
「色々口の周りについてるから、食い終わったら拭いとけよ?」
ちなみに俺が食べているのは焼売がメインに入った弁当。値段に対して中身のバランスも良く、好きな駅弁を聞かれれば真っ先に挙げるくらいには気に入っている。
……流石に普段の1食分よりは高いので、こういう時でもないと手を出さないが——と、いきなり口にパンを突っ込まれた。
「そっちのシューマイも美味しそう……これは前払い」
「…………まず詰め込む前に言え。1個ぐらいはいいけどな」
弁当を食べ終え、やがて新幹線が実家の最寄り駅に滑り込む。ホームに降り立つと、東京とは少し違う、地元特有の湿った空気が頬を撫でた。
改札を抜けた先のロータリーには、迎えに来ていた両親の車が既に停まっていた。
「2人共長距離の移動お疲れ様! 特にクロエちゃんは新幹線初めてだったでしょ?」
「……リュンヌにも鉄道はあるけど、あの速度で移動する技術……非常に興味深かった」
助手席から身を乗り出してくる母さんに、クロエは真面目な顔で頷く。相変わらずだな、と思っていると、父さんがルームミラー越しに真剣そうな声を出した。
「……クロエさん、母さんが『ユキコママ』と呼ばせているそうだな。ならば……こちらも『義照パパ』と呼んではくれないだろうか?」
「父さん?」
「縮めて『義パパ』か『照パパ』でも構わない」
「父さん??」
「じゃ『ヨシパパ』で」
「クロエ???」
あっさりと承諾したクロエに、父さんは片手で小さくガッツポーズをした。この親にしてこの子ありというか、完全にクロエのペースに乗せられている気がする。
「ふふっ、お父さんも久々にクロエちゃんに会うのずっと楽しみにしてたのよ。——そうそう、実家のおじいちゃん達にもね、クロエちゃんが『うんと遠い別の世界』から来たってことはちゃんと話してあるから、無理して取り繕わなくて大丈夫よ」
「……お世話になります」
そんな律儀な言葉出るんだな……とクロエを見ていると、「なんか失礼なこと考えてる気がした」と肩を軽く小突かれた。なんでバレた。
駅から車に揺られること十数分。見慣れた実家の玄関扉を開けると——。
「おおっ、明久帰ったか! そしてこっちが噂のクロエちゃんだな!」
「おいおい、抜け駆けはずるいぞ。僕にも挨拶させてくれよ。よく来たねえ、長旅で疲れなかったかい?」
出迎えてくれたのは2人の老人だった。
丸太のように太い腕を組んで豪快に笑う老人と、アイロンの効いた襟付きシャツを着こなす、柔和な笑顔の眼鏡の老人——俺の父方と母方、それぞれの祖父だ。
直前まで時間を潰していたのか、縁側の近くにはチェスボードが出しっぱなしになっていた。……そこは将棋じゃないのか。
「……アキヒサの、おじいさん?」
「おうともよ! ワシが父方の小鹿二雄で……」
「僕が母方の相馬末八。それにしても、本物の魔法使いに会える日が来るとはね」
「長生きはしてみるもんだな! わははは!」
クロエは2人の顔を交互に見比べ、小さく首を傾げた。
「……両親の父親同士が、同じ家にいる? 今日は特別な集まり?」
「まあ今日は特別といえば特別かもしれんが、ワシらが集まるのはいつものことだな!」
「僕らは元々幼馴染でね……それぞれの連れ合いも含めた4人、小学校からの腐れ縁というやつさ」
「数年前にお互いカミさんを亡くしてからも、こうして毎日のようにどっちかの家に集まっては、茶をすすりながら盤を囲んだりしてるってワケだ」
爺ちゃん達が説明すると、クロエの目が僅かに見開かれた。
「小学校から……つまり半世紀以上の交友関係。極めて強固なネットワーク……」
「わはは! なんだか小難しい言い回しをする嬢ちゃんだな。義照とユキちゃんから聞いてはいたが、本当に綺麗で可愛らしい子だ!」
「全くだ。ほら、こっちで冷たい麦茶でも飲みなさい。甘いものが好きだって聞いたから、爺ちゃんたちが奮発して美味い羊羹を買っておいたよ」
「……羊羹。糖分摂取は長旅の疲労回復に最も合理的。いただきます」
「おうおう、いっぱい食え食え」
すっかり目尻を下げる2人の爺ちゃんに挟まれ、クロエは大人しく縁側に座って羊羹を口に運ぶ。
孫である俺への労いよりも、完全にクロエを甘やかすモードに入っているが……まあ、あの2人が楽しそうならそれでいいか。




