生態系の覇者 ⑥
「・・・あとは煙突を生やして、っと」
高さ12メートルの天井部分は地上に居る私たちからは見えないけど、脳内に3Dモデルが出来上がっている私はモデル通りに出来ているかが魔力の感触で分かるし、目視する必要が無い。
粘土細工を弄るように天井の真ん中に丸く穴を空けて、穴の淵を上空に向けて高く伸ばしていく。
頭上の枝葉を押し退けて10メートルぐらいパイプ状に煙突を伸ばせば、炎と煙が吹き出すだろう煙突が原因で枝葉が燃えることも無いだろう。
おっと。空気の取り入れ口を忘れてた。
垂直に立った4面の燃焼室の下部に、空気だけが通れる直径2センチメートルぐらいの小さな穴をぐるっと空けて回る。
「・・・ヨシ。完成」
腕組みで焼却炉を見上げて頷く。
構造上は、これで必要な機能を果たすはず。
実際に火を入れてみないと、ちゃんと機能してくれるのかは分からないけど、納得のいく出来には仕上がったんじゃないかな。
細部に拘りだせばキリがないからね。
必要最低限の機能さえ果たしてくれればそれで良いんだよ。細けえこたあ気にすんな。
終わったと安心したところへパチパチと拍手が向けられる。
「お見事!」
「上達しましたね!」
「・・・え、エレーナさんとノイエラさんの土魔法を見せて貰ったお陰だよ」
これはアレかな?
さっき私が褒めて伸ばす派だとか言ってたのを私に向けてきたのかな?
今までも上手く出来たらほめてくれていたけど、いつもより称賛が過剰な気がする。
嬉しくは有るんだけど、自己評価よりも過剰に褒められるとお尻がムズムズするというか恥ずかしくなってくるんだね。
もしかして、さっきアスクレーくんが逃げて行ったのはコレが原因か?
やり過ぎて困らせたかも知れないから今後は気を付けよう。
森の中に鎮座することとなった場違いな人工物を見て回ったエレーナさんとノイエラさんが首を傾げる。
「これって家屋ではないですよね?」
「・・・うん。焼却炉だから」
日本の感覚が抜けきっていない私の感覚では「焼却炉」といえば簡単に伝わると考えていたんだけど、何の用途で使うものなのかが2人には伝わっていない感じ?
「炉ですか。鍛冶に使うような?」
「・・・そうだよ。ゴミを燃やすためだけの炉だね」
ああ。そっか。こっちではスライムが有機物を食べてくれるから、ゴミを燃やして処理するって考えがなかったのかも。
「構造的には、どうなってるんですか?」
「・・・んとね。火の足元から新鮮な空気が入って、炎を大きくして煙突から真っ直ぐに外へ抜けるんだよ」
口頭で説明を加えながら、取り込みから漏れて転がっていた小枝でカリカリと地面に簡単な断面図を描く。
「燃やした後の灰は仕切りの穴から下の空間へ落ちて、炉の中には魔石だけが残ると」
「・・・理屈上はね。上手くいってくれれば、灰の中から魔石を探し出す手間が省けるんだけど」
「それは楽が出来て良いですね」
エレーナさんもノイエラさんも「楽が出来る」という部分が気に入った様子だけど、そこはイマイチ自信が無いなあ。
篩みたいに左右に揺すったり振動を与えて分離を促せられれば良いんだけど、イメージに依存する魔法は機械的で複雑な機構を組み込むのに向かない。
歯車一つの大きさまで緻密に計算し尽くす機械設計者にならイメージで機械的な機構を創造できるのかも知れないけど、とてもじゃないけど私の想像力では無理だ。
現代日本で生きていた私からすると、有れば便利だと考えるものには機械的な機構や電子回路的な機構が含まれていて魔法では再現できないんだよね。
魔法そのものに無限の可能性が有ったとしても、魔法を使おうとする人間の想像力が先に限界を迎えてしまう。
本当にままならない。
魔法道具でなら再現できるのかも知れないけど、関連情報が記述されていると期待されるエルフ族の文献を読み解こうにも、文字一つも解読できていない現状では全く目処が立たない。
魔法道具の研究よりも優先順位と緊急性が高いことだらけで、まるで手を付けられていない状況だしね。
「・・・ただ、ラクネの魔石は小さいから、灰と魔石を上手く分離できるかは改良が必要かも。そこは、あんまり期待しないでね」
「何事も試行錯誤ですよ。簡単に出来ることばかりなら誰も苦労しません」
「・・・そうだね」
柔らかく笑いながら諭すエレーナさんに同意を返しつつ焼却炉を見上げて、ふと思い出した。
そう言えば、この焼却炉を建てる前に基礎工事をしなかったな。
慰霊碑や“獰猛くん”に較べれば遙かに軽いのは分かっていても不安を覚える。
だって、内部で火を使っている最中に倒壊されたら大惨事じゃん。
基礎を補強するのに地盤を調べようと縦方向に魔力の手を伸ばして気付いた。
「・・・あれ? ここ、地下に空洞が有る?」
「洞窟ですか?」
ノイエラさんの確認に首を傾げる。
何となく存在することは分かるのに、靄が掛かったように詳細な形状が分からない。
掴み所がないというか、思い切りボカシが掛かったというか、距離感もハッキリしないし変な感じ。
今まで、こんなことは一度もなかったんだけどな。
「・・・どうなんだろ。地盤を補強した方が良いかと考えて地下を調べたんだけど、たぶん、そうじゃないかな?」
「結構、深い場所、ですね?」
「でも、ちょっとおかしくないかしら。魔力が通らないわ」
奥歯に物が挟まったような私の口振りに、自分でも調べてみたのだろうエレーナさんとノイエラさんも自信が持てないように首を傾げる。
生態系の覇者⑥です。
謎の存在!?
次回、鴨肉!?




