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蒼焔の魔女 ~ 幼女強い 【感謝! 8000万PV・書籍版第1巻2巻同時発売中・コミカライズ企画進行中!】  作者: 一 二三


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初めての出征 ㊸

「・・・来た」

 立て続けに蜘蛛たちが水面から姿が消し始めたところで、私の関心は水面から対岸へと移っていた。

 これでラクネが諦めてくれれば―――、なんて甘い願望を抱いていたんだけど、そこには予想通りで在りながら私の予想を裏切る結果が起きていた。

 仲間の死を察知したのであろうラクネが自ら川へ飛び込んだんだよ。


 それはもう、今の今まで渡河できる場所を探してウロウロしていたのは何だったのかと首を傾げたくなる勢いで、まさに、飛んで火に入る―――、いや。水に入る森の虫なのだと感じさせる本能の発露だった。

 1匹や2匹じゃないよ。清々しさを感じさせるほどの捕食本能は生存本能を塗り潰し、死の予感に酔ったのであろう狂奔は静かに、そして確実に大きく、遠くまで広がっていく。

 声なき虫たちの本能は潮騒のように、ザザザザザザと大気を震わせて押し寄せる。


「・・・うわぁ・・・。これは酷い」

 1つの死がいくつもの死を呼び、いくつもの死が無数の死を呼ぶ。

 地表そのものが波打ったと錯覚するほどの密度で“死を求める”大蜘蛛たちは、躊躇う素振りもなくナーガ川の流れへ駆け込んでくる。


 複数の脚を持つ姿形は多脚という意味でアメンボに似ていても、蜘蛛という種は地上の生物なんだよ。

 水中に棲息するミズグモなんて稀少な種も居るけど、生存競争の場を競合が少ない水中へ移した特殊事例に過ぎない。

 99割の種は適合しない水面を地上のように歩くことは出来ず、ジタバタと脚を動かすことで川面を波立たせながら水面近くの水中を泳ぐ。

 その挙動こそが水中を棲み家とする捕食者に獲物の来訪を報せる喇叭(らっぱ)となり、食物連鎖の頂点たちを呼び寄せる。


 水中で時折、煌めくように青白い光が奔る。

 死を捕食する地上の捕食者たちはネズミ算的に増えていく仲間の死に狂い、水中で犠牲者を待っていた捕食者たちは爆発的な勢いで文字通り飛び込んできた獲物に狂う。

 養殖場の生け簀にエサを放り込んだように、沸騰するような激しさで川面が沸く。

 無数に水中から浮き上がってくる気泡のひとつ一つが命の終わりを示しているけど、そんなものは自然の営みの一つに過ぎない。


「「「「「ひええ・・・」」」」」

「むぅ・・・」

「何だこれは・・・」

「酷い有り様だな」

 恐るべき淘汰と食物連鎖の実態にピーシーズや新人さんたちは顔色を悪くして、大人たちは眉を顰めて自然のダイナミックさを眺めている。


 うんうん。分かりみー?

 上手くぶつけられたなー、なんて私は考えてるんだけど、すぐ傍で人間が傍観している最中での魔獣たちの殺し合いに、あんな場所へもしも自分が飛び込んだら、と若い子たちは想像しちゃったんだろうし、大人たちは気が狂ったとしか思えない出来事に呆れているんだろう。


「なんかすごいわね!」

「にゃっ!」

 ルナリアとノーアは賑やかな川面に目を輝かせていて、普段目にすることのない騒ぎを純粋に楽しんでいるみたい。

 私の思い付きが引き起こした大自然の狂騒で、私ですら想像を超える絵面の酷さに引いてるのに、2人とも大物だな。


 私としてはラクネの魔石が回収できそうにないところに不満を覚えざるを得ないけど、膠着状態を突き崩して押し寄せたラクネを処理すること自体には成功したんじゃないかな。

 まあ、働いたのはヤゴたちで、川にエサを放り込んだだけの私は大した労力も支払っていないんだけどね。

 群れ対群れの対決はヤゴの勝利で大勢は決まっただろう。


「「おお~」」

 再び水中で青白い光が奔ってルナリアとノーアが歓声を上げる。

 あれって雷蜻蛉の名前の由来になった放電かな?

 あの光、もっと小さな光だったけど小川でも見た記憶が有るなあ。


 この実験で明確になったことが3つ有る。

 1つ目は、ラクネよりもドラゴンフライの幼虫の方が強いということ。

 2つ目は、ラクネは本能のままに活動する生物で思考力を持たないということ。

 3つ目は、ラクネは“死を感知する”生物だということ。


 ついでに言えば、ラクネでヤゴが釣れそうだから、どこかで使えるかも知れない。

 あのサイズを釣り上げようとすれば、かなりゴツい釣り針が必要になりそうだけどね。

 ともあれ、ガルダを呼び寄せることもなく膠着状態は解消され、危機は去った。


 長い道草になったけど、これで目的地に向けて再出発できる。

 結果的にラクネの大群はほとんどがヤゴの餌食となって、ほんの2割ほどだけが正気を取り戻して南岸の森の奥へと帰っていった。

 蜘蛛って産卵の季節は有ったっけ?


 アシダカグモは卵が詰まった繭をお腹に抱いて生活するタイプの蜘蛛じゃなかったかな。

 季節までは覚えてないなあ。ゴッソリと個体数が減ったと思うけど、どうせ死を迎える獲物が多い夏か秋には大繁殖するんだろうし、まあ良っか。

 多少減ったところで生態系のバランスが崩れるなんてことは起こらないだろう。


「フィオレ!」

「・・・はい!」

 私と同じように大勢が決したと判断したらしくナーガ川に背を向けたお母様に呼ばれた。


 また何か有った、なんてことはないだろうけど、腕組みで顎先に延ばした人差し指を添える考え中ポーズってことは、解決しないといけない問題が有るんだろうね。

 お母様の傍へ急げば、ぐりぐりで迎えられた。



初めての出征㊸です。


状況終了!

このお話で本章は最終話となります!

次話より、新章、第43章が始まります!

次回、学者肌!?

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― 新着の感想 ―
誰か誤字報告してるでしょ
ここまで99割へのツッコミ無し
習性を利用して元々いなかったこちら側のラクネは絶滅させちゃおう
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