初めての出征 ㉒
「ヨシ。お前たちは明後日に備えて体調管理に気を付けておけ。ノーアもだぞ」
「・・・はい」
「わかったわ!」
「にゃ!」
お母様にビシッと指されて背筋を伸ばして答える。
一つ仕事が終われば、また次の仕事とばかりに、お父様も凝った肩を回しつつソファーから腰を上げた。
「さて。私たちもクローゼリス卿の持て成しに参加せねばな」
「お前たちは湯を使ってこい。晩餐は正装で行うからそのつもりで準備しろ」
「「「はーい」」」
本当にお父様って激務だよね。
それに付き合っているお母様も何だかんだで激務をこなし続けている。
サッサと行けと促されて執務室を出れば、待ち構えていたメイドさんたちに捕まって浴室へ連行された。
お母様から事前に指示を受けていたらしく、丸洗いされた後は3人揃ってドレスに着替えさせられる。
ルナリアと2人でノーアの手を取って食堂へと着いた頃には、まあまあ良い時間で、微妙に早めの晩餐へと突入した。
席について和やかな空気の中、会話に耳を傾けてみれば、養父母となったハインズお爺様とセリーナお婆様に実父母のライアスさんとリエンナさんが立ち会って、無事にアンリカさんとバルトロイさんの婚約は成立し、実力と実績と悪運と強運で掴み取った超絶玉の輿は現実のものとなっていた。
「騎士爵家の長女が公爵家の長男に見初められる」なんて、普通に考えれば滅多に無いシンデレラストーリーなんだけど、ウォーレス家側は誰もが当然と言わんばかりの態度だし、クローゼリス家側でもバルトロイさんがアンリカさんを射止めたと聞いて諸手を挙げての大絶賛だったらしい。
王都でもお母様の側近と言えば全員が有名人だと聞いていたけど、本当だったんだね。
クローゼリス家の大奥様はセリーナお婆様の派閥に属する重鎮だそうで、お母様とも面識が有るそうだし、エゼリアさん共々、安泰だね。
これでお父様とドネルクさんとバルトロイさんは義兄弟になるわけで、北部と東部と南部の“保守派”には強固な横の繋がりと連帯が成立することになった。
内戦による粛清で西部は空白地域に近い状態だけれど、叛逆した貴族家が排除された西部地域は王家直轄領として王家の手元に戻った形になっているし、王家の領地に攻め込む勢力が現れた場合には北部と東部と南部の3方向から援軍が押し寄せて来ることになる。
元々、お父様とドネルクさんは仲が良かったし、お母様とバルトロイさんは気の置けない友人というか盟友のような関係だったし、王都騎士団と魔法術士団は仲が悪くても、ドネルクさんとバルトロイさんの関係は悪くなかったらしいしね。
王様はドネルクさんと仲が良かったし、お父様ともお母様ともバルトロイさんとも関係は悪くなかった。
というか、余程の信用と信頼が無ければ特務魔法術師の任務に就くことはないんだし。
王妃様とドネルクさんは実の兄妹だし、お母様は王妃様の親友だしね。
エゼリアさんとアンリカさんの輿入れで表の連係はガチガチに補強されたと考えて良いんじゃないかな。
長年の懸念事項だった“融和派”とは、王様と宰相さんの関係が強固であることが判明していて、ウォーレス家と宰相さんは裏で繋がっている。
治癒魔法術師の件で“融和派”自体が軟化の気配を見せているし、エゼリアさんとアンリカさんを起点に新たな作物の生産を広めて利益を落とすことで“融和派”そのものを取り込んでしまえば、王国は盤石になるはずだ。
まだまだ道半ばだけれども、見通しは立ったと言えるんじゃないかな。
最悪、十字軍的な西方諸国連合軍と戦わなきゃいけなくなる可能性を考えれば、王国内は一枚岩でなきゃ脅威に対抗できない。
もっと繋がりを強固に。もっと王国内を強くしなきゃ。
私が王国内統一の野望に燃えていると、横合いからツンツンと肘を突っつかれた。
「フィオレ、フィオレ」
「・・・どうしましたか?」
何かと思えば隣の席に着いているアスクレーくんだった。
お行儀の悪い形でアスクレーくんが私に接触してくるのは珍しいね。
お行儀が悪いと言ってもアスクレーくんはまだ7歳で、やんちゃ盛りの男の子だ。
日本の子供を見てきた私からすれば小学校へ上がったばかりの男の子なんてものは、お行儀が悪い方が自然だと思える。
難しく眉を顰めたアスクレーくんが声も潜める。
「あのゴーレム、壊すんだって?」
「・・・いいえ。残す方向になりそうです」
“獰猛くん”にも興味が無いと思ってたんだけど違ったのか。
“獰猛くん”生存ルートの情報を得たアスクレーくんが男の子らしく目を輝かせる。
「そうか!」
「・・・巨大スライムには興味が無さそうだったのに、ゴーレムには興味が有るんですね」
男の子が巨大合体ロボにロマンを感じる的な?
本当に興味の基準が分からん。
意外だと感じて訊いてみれば、アスクレーくんは不思議そうに首を傾げた。
「スライムはスライムだよね?」
「・・・スライムですね。全長が70メテルも有りましたけど」
事実を事実のままに、再確認の意味を込めて言ってみれば、潜めていたアスクレーくんの声が大きくなった。
「そんなに大きかったの!?」
「・・・知らなかったんですか?」
“巨大”って、みんな言ってたよね? なんで今さら驚いてるの?
「昨日は目が覚めたら領主館だったし。僕も見たかったなあ」
「・・・そ、そうだったんですね」
興味が無いことにはトコトン興味が無いアスクレーくんらしい反応なのか?
あれだけ大きいものに気付かないわけがないと思っていたから、アスクレーくんの無反応に興味が無いと私が決め付けていただけなのかな?
あれ? そうだったっけ?
初めての出征㉒です。
巨大ロボは漢のロマン!
次回、闖入者!?




