開眼 ㉖
「侵入者が有ったのでしたか」
納得顔のノイエラさんが頷く。
サーシャさんが侵入してきたのは1の鐘を過ぎてからだったはず。
2の鐘が鳴るまでかなりに時間が有ったからね。
サーシャさんが搬出されていって、アレーナさんが“ガラス瓶の死体”を片付けるのを見届けて、明かりを落とされて真っ暗な上に、体温が高めのノーアに引っ付かれて湯たんぽを抱いているようにポカポカだったのに、なぜか眠れなかった。
私って繊細な人間じゃないと思ってたんだけどな。
考えられる可能性としては、やっぱりノーアの“私が死んだ報告”だろうか?
あれは一発で目が覚めるほどインパクトが強かった。
自覚しているよりもショックだったのかも知れない。
私が自己申告したならば、もちろん、ルナリアも自己申告する。
「わたしはちゃんと寝たわよ!」
「大物ですね」
「さすがです。ルナリア様」
「むふー」
エレーナさんとノイエラさんに褒められてルナリアはドヤ顔で反り返ってるけど、今のは本当に褒められたんだろうか?
ルナリアが喜んでるなら、それで良いけど。
「ほらほら。そんなに反り返ったら、後ろにひっくり返っちゃいますよ?」
「足腰を鍛えてるんだから、大丈夫よ!」
「本当に鍛えてるんですかぁ~?」
「ちょっ!? くすぐるのは無しでしょ!!」
いやいや。本当に褒めたのかも?
コチョコチョとくすぐられてひっくり返りそうになってるけど、土俵際の相撲取りもビックリな脅威の粘り腰でルナリアはひっくり返らない。
昨日のエイラさんを見て体の扱い方を覚えたんだろうか?
いつでもどこでも眠れる図太さは戦場での必須スキルだとか、従軍経験者の手記か何かで見たように思う。
そうすると、一度寝たら朝まで起きないルナリアの図太さは才能だと考えて良いのかも知れない。
距離感が近いから大雑把で雑な扱いをしているように見えるけど、お母様の側近たちは、みんなルナリアを可愛がっている。
それを思えば、今のも本心で褒めていたのだろう。
遊ばれているだけじゃないよね?
ルナリアをオモチャにして遊んでいるエレーナさんたちを横目で見たイディアさんが、小さく肩を竦める。
「それで、侵入者って何者だったんですか?」
「・・・知ってる人のところの人、かな。詳しくは、まあちょっと」
続々と私たちの馬を牽いてくる兵士さんたちに聞かれるのは、さすがにNGだろう。
チラッと兵士さんたちに目線をやれば、イディアさんは察してくれた。
「ああ。後で聞かせてくださいね」
「・・・分かった」
お母様の側近として、お母様と同じ教育を受けてきたイディアさんたちなら心配ないだろうけど、ピーシーズには宰相さんのことを教えておくべきなんだろうか?
私たちの後ろを固めているピーシーズを見回してみた。
目が合ったみんなが、ん? と首を傾げたから、ニコッと笑い返しておく。
真っ直ぐなピーシーズのみんなに腹芸は出来なさそうだな。
アリアナさんなんて、もっと無理だろう。
王都で駐留している間に、何か様子がおかしいと王宮貴族に勘付かれるんじゃないだろうか。
そう考えると、やっぱりエゼリアさんたちってすごいんだな。
まさに腹心って感じ。
そりゃあ、あっちこっちの貴族家から「嫁にくれ」って申入れが有るわけだよ。
イディアさんの視線に釣られて周囲を見回す。
もう全員の馬が厩舎から牽き出されたかな?
私の馬を連れてきてくれた兵士さんから手綱を受け取っていると、イディアさんが声を上げる。
「そろそろ行きましょうか。初日から遅刻しては示しが付きません」
「・・・あ。はい」
ルナリアの肘をツンツンと突っ突けば、ピーシーズと駄弁っていたルナリアがハッと気付く。
「みんな、騎乗よ!」
「「「「「はっ」」」」」
返事と共にピーシーズとディディエさんたちが散開して、兵士さんたちの手から自分の馬の手綱を受け取る。
ピーシーズは鐙に爪先を掛けると同時にヒラリと一挙動で鞍に跨がった。
1ヶ月近くも毎日乗り降りしていればディディエさんたちも慣れたもので、スカートの裾が捲れ上がらないように鞍へ跨がっている。
上手く出来ているもので、足首まで裾丈があるメイド服のスカートは、鞍に跨がっても膝下までしか裾が上がらない。
みんなが履いているブーツは脛が隠れる丈の長さだから、スカートの裾が上がっても肌が見えないようになってるのか。
うんうん。また一つ乙女の謎が解けたな。
スカートで真似できる気は、ぜんぜんしないけど。
私たち全員が騎乗すると、出発せずに待っていてくれたイディアさんたちが馬上でこちらを振り返っていた。
現場まで先導してくれるつもりなんだな。
「北門前に集合」とは聞いているけど、「北門前のどこ」とは聞いてなかったから気が楽になった。
開眼㉖です。
乙女の謎!?
次回、待機列移動!?




