開眼 ㉔
なんだアレ・・・?
体内保有魔力量が少ないって言ってなかったっけ?
身体強化魔法も使わずにアレなんだろうか。
見る間に遠ざかっていくサーシャさんの背中を、私と一緒に目を真ん丸にして見送っていたルナリアの口から、独り言のような感想が漏れる。
「意外と速いわね・・・」
「・・・思ってたのと、ちょっと違う」
ドジっ子だと思っていたのにサーシャさんの身体能力は想定以上に高そうだった。
あれだけのスピードで走れるのなら跳躍力もそれなりに有りそうじゃん?
伊達に忍者を名乗っていないということなのかも知れないけど、だったら、何でアッサリと捕まってるの。
いや待て。ドジっ子だからか?
「・・・うーん? ま、いっか」
初めて顔を合わせて、まだ数時間。
言葉を交わして1時間ほどしか経っていない。
私もサーシャさんの何かを判断できるほどの付き合いが有ったわけじゃないからね。
サーシャさんの一族がどういう判断をするかも未知数だから、様子を見るしか無いだろう。
私が指示を出し終えるのを待っていてくれた猟師さんたちが近付いてくる。
「どういう状況か聞かせていただいても?」
「・・・ごめんね。驚いたよね」
「まあ、何か事情が有るんでしょう?」
猟師さんは苦笑しながら首を振る。
やっぱり、厄介事を押し付けられると予想してたか。
非常招集要員である猟師さんたちは領軍の内部事情も、ある程度は知ってるからね。
話が早くて、とても助かる。
そういう人たちだからこそ、私も本音で話そう。
「・・・あの子たち、領軍に入りたいって子たちなんだよ」
「随分と幼い子供も混じっているようですが」
猟師さんたちの目はエクラーダ人の子供たちに向いている。
日本みたいな価値観の大人たちなら、危険な仕事に子供を携わらせるなんて! とか、子供は仕事の邪魔だ! とか言い出しそうだけど、ルナリアや私を見慣れている猟師さんたちは、くだらない綺麗事や決め付けでものは言わない。
獲物を吊したり荷馬車に積み込んだりと力仕事が必要だから適材適所になるだろうけど、狩猟の作業には、獲物の痕跡を探したり状況に合わせて道具を用意したりと、力仕事以外の作業もたくさん有るからね。
「・・・エクラーダの人たちは、元々、体内保有魔力量が少ないらしくてね。領軍に入れる年齢になるまでは回収と出荷の作業に携わらせて鍛えようかと」
「フィオレ様を見ていると、とてもそんな風には思えませんが、お国柄なんですかねぇ」
猟師さんの言い草にクスリと笑う。
比較基準が私だと、そう思うのかもね。
逆に言えば、あの子たちも今の私のように育つ可能性が有るってことじゃん?
もちろん、本人の努力が有って育つものだから、今の時点ではどこまで育ってくれるか予想も付かない。
そんなことは百も承知だけど、努力できる機会ぐらいは与えてあげたい。
「・・・そうらしいよ。今までは、だけど」
「儂らが指導すりゃあ良いんで?」
猟師さんが首を傾げる。
それは、他にも適任者は居るんじゃね? って意味かな?
「・・・人手は多い方が良いよね?」
「そりゃまあ。何人か猟師として継続的に残ってくれりゃあ助かりますが」
私の確認に猟師さんたちが頷いている。
崖下だけでなく、崖上まで回収範囲が広がったせいで、猟師さんたちの仕事が増えちゃってるからね。
猟師さんたちも人手は欲しいはずなんだよ。
崖下の獲物回収数が50頭前後と、平均して続いている状況から推測するに、私がどうのこうのじゃなく、元々、崖下エリアだけでも毎日それだけのシカが徘徊していたのだろう。
毎日、それだけの個体が失われても群れが滅びないなんて、普通の生態系では考えられないことで、これが「ダンジョン説」を私が唱える論拠の一つとなっている。
何て言うんだっけ。リポップ?
今思えば、そんなのが徘徊している場所で半年間も一人で暮らしていたなんて背筋が寒くなる環境だけど、それが地域経済を支える地場産業の一部に組み込まれてしまった以上、私に獲らないという選択肢は無い。
それ以前に、お肉が無限に獲れる以上、獲らないなんて有り得ない。
肉食を喜びとする人類文明を否定する新興宗教は、やりたい人が勝手にやれば良いだけで、私は人類の大多数が抱く肉食の喜びに寄与し続けるだろう。
清貧を美徳とした修道士だって、肉食を禁忌とした江戸時代の日本人たちだって、何のかんのと理屈を付けてお肉を食べたのが人類というものだ。
魚はお肉じゃないとか教会が認定していたから聖職者でも魚を獲って食べたし、日本語でウサギを1羽2羽と数えるのは、”鳥や魚はお肉じゃないから食べてもOK”って屁理屈の名残だしね。
肉食を禁じる日本の精進料理の食材で高野豆腐が定番なのは、”食感がお肉に似ているから”だとする説も有る。
中国仏教の精進料理にも高野豆腐と同じように湯葉を使った“素鵝”とかいう料理が有るんだけど、そっちなんて「不殺生? 俺はガチョウが食いてえんだ!」ってお坊さんの願望がダダ漏れなんだよ?
人類というものは、そのぐらいお肉を愛して止まなかった。
お肉は正義!
お肉こそが人類を幸福へと導くのだ!
お肉を供給し続けるためなら、私は子供たちを狩猟の底無し沼へ引き摺り込むことだって厭わない!
モリモリ食べて、みんな大きく育つんだよ?
開眼㉔です。
人類のお肉愛!
次回、生きる道!?




