開眼 ⑤
「私は連絡員です」
「・・・連絡員? あれ? ちょっと待って」
キーワードに刺激されたエピソード記憶が、私の脳内に物忘れを訴えてくる。
「えっ? は、はい」
左手で彼女を制して、右手の人差し指で自分のおでこを押さえる。
困惑の声を上げた彼女は大人しく待ってくれている。
どこかで、そんな話が有ったよね?
何だっけ?
まだ最近の話だった気がする。
「・・・連絡員、連絡員・・・。あっ! 宰相さんか!」
「ふぃ、フィオレ様!?」
思い出した閃きにポンと手を打つと、彼女が焦った声を上げる。
「・・・ああ、ゴメンゴメン。でも、大丈夫だよ」
「は? あの・・・、大丈夫とは?」
ヘラヘラと笑ってヒラヒラと手のひらをお辞儀させる。
あー。スッキリしたー。
そんな話、有ったねぇ。
連絡員の人が「それは私です」と来るにしても、表向きには伏せておきたいのは当然だろう。
その結果が夜中の侵入だったわけだ。
着任の挨拶をしに来た人に害意が有るわけがない。
この子も挨拶しに来たつもりが、その場で撃退されるとは思わなかっただろうしね。
夜間の戸締まりでほとんどの扉が閉め切られている領主館に侵入できるぐらいだから、素人っぽく見えて、この子もそれなりの技術は持っているはずだ。
鈍臭いとは思うけど。
この子を送りつけた宰相さんも予想していなかったんじゃないかな。
「・・・牢屋から出してあげるから、ちょっと待ってて」
「ちょっ! フィオレ様!?」
彼女の声を背中に聞きながら、軽くなった足で心配顔のお父様たちのところへ行く。
「何者か分かったのか?」
「・・・うん。宰相さんが私に付けてくれた連絡員だよ」
私の答えにお父様が首を傾げ、お母様が目を怖くする。
「宰相だと?」
「・・・言わなかったっけ? あっ。王城の中だったから、誰が聞いてるか分からないと思って言わなかったのか」
直接話して何を考えているのかを確かめて、私の中の敵認定リストから宰相さんは外れてるからね。
すっかり忘れてたよ。
「待て。分かるように説明してくれ」
頭痛を堪えるようにこめかみを揉むお父様が私を手で制する。
うんうん分かる分かる。
”内なる敵”のボスだと思ってたんだから、そりゃあ説明が必要だよね。
「・・・一度、宰相さんと話してみたいなーって思ってたら、たまたま王城の廊下で会って、しばらく立ち話をしたんだよ。そのときに、協力してやるから、いつでも連絡できるように連絡員を付けるって宰相さんが言ってた」
確か、そうだったよね。
「王家居住区画でか。いつの話だ?」
「わたしも知らないけど、そんなことが有ったの?」
変わらず厳しい表情のお母様だけでなく、ルナリアも怪訝な表情で首を傾げる。
だって、ルナリアが知ってるわけないじゃん。
「・・・王城に泊まった最後の夜にね。テレサとルナリアが先に寝ちゃって、ノーアの様子を見に行こうかなーって、廊下を歩いてたら鉢合わせた」
「わたしが寝ちゃった後かー。寝ちゃった後のことは知らないわね!」
でしょ? 私の答えに眉根を寄せながらもお母様が小さく息を吐く。
タイミング的には私たちがレティアへ向けて帰る直前だったから、色々なことに決着が付いた後だし宰相さんがウロウロしていても不思議じゃなかった。
お母様は“お気持ち”で動く人では無いから、文句を付ける部分ではないことを分かってくれたようだ。
お父様も理で判断する大人な人だから、エンカウントした状況に問題が無ければ話の焦点は今現在の状況に繋がった理由に移る。
「サリトガ宰相が、なぜフィオレに協力をする?」
「・・・宰相さんが“保守派”の敵じゃないから、かな」
お母様と顔を見合わせたお父様が、私へ目を向け直して掘り下げに掛かる。
「どういう意味だ?」
「・・・言葉通りだよ。宰相さんは王国を存続させることしか考えていなくって、“融和派”はどうでも良いみたい」
こういうときは訊かれたことの結論だけで良い。
結論だけでも分かる人には分かるし、分からなければ、さらに掘り下げて訊かれれば包み隠さず明らかにすれば良い。
そして、お母様は結論を明かしただけで問題の本質を察してしまう人だった。
「そういうことか。あの狸親父め」
「私にも分かるように説明しろ」
溜息雑じりに首を振るお母様に、置いて行かれたお父様は怪訝な顔をする。
「“融和派”の首領というのは陛下と宰相の演技ということだ。大方、“融和派”の暴発を抑えるため宰相に掌握させたのだろうよ」
盛大に苦虫を噛み殺したような表情をしていたお母様が、広げた両の手のひらを見せて肩を竦める。
開眼⑤です。
謎は全て解けた!(じっちゃんのry
次回、鷲掴み姉妹!?




