開眼 ①
「えっ!! ノーアが1人で侵入者をやっつけたの!?」
「・・・うん。アレーナさんが駆けつけて私が目を覚ましたときには、もう倒してたよ」
今朝も顔を横にしたり縦に戻したりと忙しいルナリアに答えて、湯気をふぅっと吹き飛ばしたティーカップに口を付ける。
ルナリアの背後で櫛と濡れ手巾を手にしたマーシュさんが寝癖と戦ってるけど、寝癖を倒しきるまで後もうちょっとかな。
「すごいじゃない、ノーア! さすが、わたしの妹だわ!」
「にゃ」
手を伸ばしてきたルナリアに撫で回されて、むふー、と両手で暖かいティーカップを持っているノーアも得意顔をする。
うんうん。仲良しだねえ。
良きかな良きかな。
ふぁぁふ。大口を開けないように欠伸を噛み殺しているところをルナリアに見られた。
「それでフィオレは眠そうなのね!」
「・・・結構大騒ぎだったのに、ルナリアはぜんぜん起きなかったね」
「にゃ」
泣き疲れたノーアが眠った後、不寝番の兵士さんたちを引き連れたアレーナさんが戻って来て、侵入者の少女が搬出されて行ったからと、すぐに私は眠れなかったんだよね。
だから、1人だけ朝までぐっすりだったルナリアにジト目を飛ばしておく。
ほら。ノーアもウンウンと頷いている。
知らない誰かが部屋に近付いてくる気配を察知したノーアは、ルナリアと私を起こそうとしたけど起きなかったらしんだよ。
それでノーアは寝ている私たちを守ろうと一人で奮闘してくれたそうなのだ。
不安だっただろうに、ノーア1人に頑張らせた反省が足りないんじゃないかな。
しかしルナリアはへこたれない。
「寝ている間のことなんて知らないもの!」
「・・・まあ、ルナリアだものね。ね?」
「にゃ」
同意を求めると諦め顔のノーアもヤレヤレと首を振る。
ルナリアが一度寝たら起きないのは周知の事実だしね。
寝癖に勝利したマーシュさんが道具を片付けているところへ、部屋の扉をノックする音が聞こえた。
扉が開いて顔を覘かせたのはミセラさんだ。
「おはよう! ミセラ!」
「にゃ」
「・・・おはよう」
それぞれに挨拶した私たち3人にニコリと笑い返してミセラさんが綺麗なお辞儀をする。
「おはようございます。―――それと、フィオレ様。フレイア様がお呼びです」
「・・・分かった」
来るだろうな、とは思っていたけど、朝の内に済ませるんだな。
私も雑念を抱いたまま住居建設作業のお手伝いを続けるよりも、その方が良い。
それに、あの侵入者の女の子については、私も気になってることが有るんだよ。
ティーカップとソーサーをテーブルに置いて腰を上げる。
お呼びが掛かるだろうと予想していた私はすぐに用向きに気付いたけど、首を傾げるルナリアは何の用向きかに思い至らなかったようだ。
「こんな時間にお母様が呼ぶのって珍しいわね」
「・・・たぶん、侵入者の件じゃないかな」
「はい。地下牢に参りますので、外套をお召しになってください」
私が挙げた予想にミセラさんが頷く。
外出用に用意されていた私の外套がレヴィアさんの手からミセラさんの手へと渡る。
「・・・地下牢・・・。そんなの有ったんだ?」
「元は砦なんですから、そりゃあ有りますよ」
「・・・そりゃそうか」
始祖レティア卿が建てたレティア砦は、500年前も今も変わらず軍事施設だ。
今は領主館としての機能が主だけれど、領軍の本拠地でも有る。
領軍は警察権を持つ治安組織でも有るのだから、当然、犯罪者の収容施設の機能も持っているだろう。
犯罪者の収容施設とは、まさしく牢屋のことだ。
たぶん、その牢屋こそが、バルトロイ様たちが“大人の時間”をした場所なのだろう。
コーニッツ元子爵とムーア元男爵が尋問を受けていた場所って、「そんなもの知らなくていい」って誰も教えてくれなかったんだよね。
私も彼らに会いたいわけでも無かったから、それ以上訊くことも無かった。
会ったところで不快な思いしかしなかっただろうし、そもそもお母様たちが私たちと彼らを必要以上に会わせる気が無かったのは明らかだったしね。
「私も行くわ!」
「にゃっ」
だろうねえ。
ミセラさんが広げてくれている外套に袖を通していると、ルナリアが席を立った。
ルナリアが立つならノーアも席を立つ。
きっとそう言うと私は予想していたけど、ミセラさんは付いてくる気満々な2人に目を丸くする。
「え~? 本当に行くんですか~?」
「そんなの、行くに決まってるじゃない!」
面倒くさそうなミセラさんの声を、ルナリアは反り返らせたペッタンコな胸で弾き返す。
もちろん、朝までぐっすりで危機感を感じなかったルナリアは興味本位で言っている。
だからといって、一応は御当主様なルナリアに、面倒くさそうに返して許されるキャラクターはミセラさんの持ち味なんだろう。
エゼリアさんたちも雑な感じがミセラさんと似たところが有るけど、口に出すことは少ないからね。
開眼①です。
にゃふ!
次回、プリズン!?




