開眼 ②
「・・・ダメなの?」
「ダメとは仰られないでしょうが、あまり気分の良い場所では有りませんよ?」
ああ。そりゃあそうだろうね。
西洋式の牢屋というものは犯罪者を留め置くだけでなく、犯罪者の心をへし折って抵抗する気力を挫くために、わざわざ不快なように作られていると何かで読んだ記憶が有る。
ただ単に留め置く軟禁部屋―――、座敷牢とは根本的に性質が違う。
ファンタジーでよく有る、お姫様が幽閉される尖塔の最上階なんかは座敷牢の類いだよ。
逆に地下牢は、西洋式の牢屋そのもの。
しかも、領主館の牢屋と言えば“大人の時間”の舞台だったわけだから、快適な場所のはずがない。
「平気よ!」
「にゃっ」
「仕方ありませんね」
ルナリアとノーアの意志が固いと見て取った、というよりも、時間を掛けたくなかったっぽいミセラさんの合図で、レヴィアさんとマーシュさんがルナリアたちを着付ける。
「では、参りましょうか」
ミセラさんの先導で部屋を出た私たちは、領主館の北面側へと廊下を回って階段を1階まで下りる。
兵員区画が有るこっち側の階段を私たちが使うことは滅多に無いんだけど、造りは南面側と変わらない。
1階の廊下から地下へ下りられる階段が有るのかと思えば、そうではなく、中庭へ出て、中庭に面した扉へと向かった。
「こちらです」
ゴツい金具で補強が施された扉の前で足を止めたミセラさんは、扉の枠の上部から下がっている紐を引いた。
程なくして、扉の内側からガチャガチャと金属がぶつかり合う音が聞こえて、ガチャンと解錠された音が響いた。
「お疲れさまです」
蝶番の金属が擦れ合う重たい軋みを上げて内開きに引き開けられた扉から、警備に就いている兵士さんが顔を出した。
さっきミセラさんが引いていた紐は呼び鈴か何かだったんだろうね。
「・・・こんなところに階段が」
兵士さんが端に退いて道を空けてくれた向こうには、数メートルほどの石畳の廊下が有って、その向こうの石畳が途切れていることから地下へ下りる階段だろうことが予想できる。
扉が開いた時点でヒヤッとした冷気が漏れてきて、湿気った空気が肌に感じられることから、「不快な場所」というミセラさんのニュアンスが的を射たものだったと再認識する。
「地下牢って、ここから入るのね!」
「・・・ルナリアの家なのに、何で知らないの」
私の横からヒョコッと顔を出したルナリアは好奇心に目を輝かせている。
私の問いに対するルナリアの回答は実に明快なものだ。
「牢屋なんて入ったこと無いもの!」
「・・・そりゃあ入ったこと無いだろうねぇ」
この場合の「入ったこと無い」は「入れられたことが無い」って意味だろう。
公爵家の―――、侯爵家でも、その家の御令嬢が牢屋に入れられた経験を持っていたら、それはそれで問題だと思うよ?
「滑りますから、足元にご注意を」
「「「はーい」」」
ミセラさんの先導に付いていくと、廊下の先は予想通り地下へ続く石造りの階段だった。
磨り減り具合から長い歴史を感じさせる階段と、みんなが壁に手を突くせいで磨り減ったのだろう石壁は、ミセラさんの忠告通りにツルツルで滑りそうだ。
床と同じように石材を組み上げて作られたアーチ天井の壁に点々と灯された明かりは、獣脂の灯明っぽいかな。
焼き肉っぽい臭いが朝食前の空腹を刺激してくる。
足音を響かせて階下へ下りると、両側に鉄格子が嵌まった小部屋が並ぶ廊下にお父様とお母様の姿があった。
「おはよう! お父様! お母様!」
「おう。来たか」
パタパタと駆け寄ったルナリアの頭をお母様がぐりぐりしている。
「・・・おはようございます」
「おはようございます」
「おう」
私とノーアも挨拶すれば、2人揃ってダブルでぐりぐりされた。
「うむ。おはよう。朝からこんなところに呼んで済まないな」
「・・・いいえ。それで、どうなりましたか?」
「ううむ・・・」
真面目に返してくれたお父様に訊けば、困惑顔でお父様が唸ってお母様が肩を竦める。
「抵抗する様子はないんだが、お前と2人で話をさせろ、の一点張りでな」
「・・・私と?」
ふぅん? 侵入の目的は私だったわけだ。
しかも、ご指名ってことは明らかに背後関係が疑われる。
私に会いたいなら、侵入する必要なんて無かったはずなんだから。
お母様たちが尋問だけで拷問に至らなかった理由は、コレかな?
要求は「話をさせろ」の一点のみで、反抗の様子もないとなれば、敵か味方かも分からないのに、迂闊に暴力的手段にも出られないか。
私と話す目的が分かんないな。
開眼②です。
侵入の目的!?
次回、特徴!?




