迫る影 ⑭
私に対しては雑なツッコミが多いし、よく遊ばれるけど、こうして見ると、ミセラさんはサラリと大人の対応を取ることが多い。
デキる女っぽいかと思えば甘いものが好きだったりと可愛らしい面も有るし、属性モリモリか。
でも、やっぱり、洗練された印象の対応が自然体で出来るところは、さすが王城への出入りを許されていただけのことは有る。
「次は食料倉庫ね!」
「・・・うん。行こう」
ルナリアに手を取られて退出しようとした私の背中に声が掛かる。
「フィオレ様」
「・・・うん?」
顔を振り向ければ、エバンさんとエイラさんが深々と腰を折っていた。
「何から何まで、ありがとうございます。このご恩、決して忘れません」
「・・・分かった」
これ以上の言葉は要らないだろう。
父娘で支え合って1000キロメートルの道のりを乗り越えたんだものね。
再び背中を向ければルナリアに手を引かれる。
「行くわよ!」
「・・・行こう」
レヴィアさんとマーシュさんの2人と伝道師3人を引き連れて、厩舎側の出入口から領主館の館外へと出る。
ルナリアと私はレヴィアさんたち2人だけを伴って食料保管庫へと向かい、チーム伝道師は難民たちを監視する任務に戻った。
外套を着てくるのを忘れた私たちは、冷蔵庫並みの冷気に満たされた倉庫内へ強行突入して短期決戦に臨み、急ぎ足で処理方法を決定して回る。
「こっちの穀類はどうしますか?」
「・・・植え付けする春先まで保管」
トウモロコシが詰まった麻袋の口を開けているレヴィアさんに指示を出す。
「種子も同じで良いですか?」
「・・・うん」
質問に答えると、イチゴっぽい謎の種子が入った小袋を手にしていたマーシュさんが、小袋をトウモロコシの麻袋の中へポイと放り込む。
問題はここからだ。
「傷んだ野菜類は傷んだ部分を徹底的に切除、ですね?」
「・・・傷んでいない部分だけを水を張った木桶に浸して」
「承知しました」
木箱を覗き込むレヴィアさんに答えると、マーシュさんがサラサラとメモを取る。
「・・・木桶の管理は―――、どうしようかな」
「下働きにさせますので、どうすれば良いかのご指示をいただければ」
んん? 3ヶ月以上、領主館で暮らしてきたのに初耳なんだけど。
「・・・裏方作業の人? そんな人たちが居たんだ」
「そりゃあ雇っていますよ。領地の発展のための実験ですから使っても問題ありません」
そうなのか。ていうか、そりゃそうか。
領主館内と宿舎と兵舎を合わせれば、領主館の敷地内には1000人ぐらいの人が暮らしているらしいし。
掃除に洗濯に食事の用意に後片付けまで考えれば、領主館の中には多くの仕事が有って、仕事の種類も多岐にわたるだろう。
私たちの目に触れるメイドさんたちだけで消化できる仕事量じゃないだろうし、私が気付いて居なかっただけだったのだろうね。
頼める人たちが居るなら、まあ良いや。
ちょっと体が冷えてきたし、次、行こう、次。
「・・・じゃあ、その人たちにお願いして、日中は直射日光を当てて貰って、夜間は風の当たらない屋内に木桶ごと避難させて貰えるかな」
「指示しておきます」
簡単そうに言ったけど、こっちの世界の一般家庭ではガラス窓が有る家も希なんだよ。
ガラス張りの温室どころか、ビニールハウスも空ペットボトルも樹脂フィルムのラップも無いからね。
ウォーレス領だけじゃなく、露地栽培の農家しか無さそうなのは王都までの往復でも確認済みだ。
農作物のために暖かい環境を作るのは現実的じゃないし、作れたとしても維持するのが難しいだろうな。
水の交換も含めて人力で対応して貰うしかない。
実験栽培用の温室を立てた方が良いんだろうか?
いやいや。待て待て。一般の農家に普及させられる栽培方法じゃないと産業にはならないよね。
需要の有る作物を、安い初期投資で、出来るだけ簡単に。
その作物と栽培方法を探るのが私の仕事。
そうじゃないと、農家さんも手が出ないはずだ。
「・・・水が濁ると腐敗するから、定期的に水を交換して貰ってくれるかな」
「注意喚起しておきます」
人力に依存すると決めて指示を出す。
私の知る再生栽培の環境と違うから成功率の予想が付かないけど、成功すると信じて突き進むしか無い。
1種類を残して一通りの処置を指示し終え、麻袋の前に立つ。
迫る影⑭です。
産業化への道!
次回、水虫!?




