迫る影 ⑦
異名というか、“輝く宝石”なんて小っ恥ずかしい呼び名は、純血のエクラーダ人って意味だっけ。
エクラーダ人と接触した経験のあるお母様たちもワールターさんもバルトロイ様も、今まで誰一人として、そんな単語を口にした人は居なかったのに。
他国の風習というか極めてローカルな異国文化的なものなのだろうし、そんなの知ってる人が、どれだけ居るんだろう?
同じ疑問を持ったらしいお父様が新たな質問を投げ掛ける。
「フィオレがウォーレス領にいると、誰から聞いた?」
「詳しくは分かりません。ただ、リテルダニア人の商人が言っていたと、噂で」
「・・・王国民の商人がねえ」
ははぁん? 小国連合諸国方面まで足を伸ばす商人で、私の詳細な容姿を知ってる人ねえ。
「心当たりが有るのか?」
「・・・たぶん。セリーナお婆様が使ってる間諜じゃないかな。西方諸国や南方諸国まで足を伸ばしている行商人で、他国の間諜も兼ねてる」
たぶん、あの人だろう。
魔法道具のブローチを売っていた、確か名前はハンスさん?
「ああ。そんなのが居ると母上が言っていたな」
「お前が引っ掛けてきた奴だな」
納得したようにお父様とお母様が頷く。
いくらお母様でも、今のはちょっと聞き捨てならないな。
「・・・引っ掛けてきたとは失礼な。テレサのお土産をその人から買ったんだよ」
「殿下の? 装飾品のアレか」
お母様は華麗にスルーし、心当たりが有ったらしいお父様が頷く。
セリーナお婆様と情報共有してたんだな。
そりゃそうか。
テレサに安物は持たせられない、っぽいことをお婆様たちは気にしてたものね。
「・・・そうそう。レティアの市場で光属性のヤツを売ってたんだよ」
「随分と簡素な作りだが補助用の魔法道具、だったか」
「・・・うん。偽物じゃないかと疑いながらも、テレサが気に入ったから買ったんだけど、シェリアお婆様は低品質だけど一応は魔法道具だと言ってた」
私の証言にお母様たちの目が厳しくなる。
連想するものといえば、アレだろう。
「西方諸国―――、いや。神教会絡みか?」
「・・・神教会かどうかは分からないけど、魔獣素材を直接買い付けられる伝手を探しに来たんじゃないかとは疑ってる」
お母様の口から出た予想通りの推察に、私が抱いた所見を添える。
王都で話した推察を覚えてくれていたお父様が首を捻る。
「ふむ? 冒険者ギルドを通さない流通経路、というアレか」
「・・・確証は無いけど、可能性は高いかな」
「ドネルク閣下にも伝えておこう」
私が頷き返すと、お父様も頷き返してきた。
ちょっと心配だな。
気付いたときに報告しておけば良かったか。
「・・・情報が漏れると拙かった?」
「二重の間諜なら情報を漏らしても不思議ではないからな。奥方殿も想定内だろう」
「フィオレの存在は秘匿情報でも何でも無かったしな」
私の心配をお母様もお父様も一蹴する。
良かったあ。
ハンスさんの話題なんて出ることは無いし、すっかり忘れてたとは言い辛いよね。
向こう側の都合か、それともセリーナお婆様の命令か、あの人、レティアの市場で見掛けなくなったし。
来なくなったと思ったら、西部地域まで戻ってたんだな。
思った以上にフットワークが軽いし、それだけ移動速度が速いと言うことは寄り道が少ないと言うことだろう。
決まった商品の買い付けでもなければ、あっちこっちへ立ち寄って物を売り、同時にめぼしい物を買い付けて次の場所へ移動するのが行商人ってものだよね。
寄り道が少ない行商人?
それって行商が目的じゃなく、目的は別に有ったって言ってるようなものじゃん。
何が目的だったかは明らかじゃないけど、状況的に産地直送ルート開拓の可能性が一番高いだろう。
あっちこっちで喋っているのなら私の情報は副次的なもので、主たる目的では無かったはずだ。
内輪の話でもない内輪の話に置いて行かれていたエバンさんが遠慮がちに訊いてくる。
「あの。テレサ様というお方は?」
「・・・アリストテレジア第三王女殿下だよ」
「わたしたちと同盟している親友なのよ!」
仲良しの友だちが話題に上がってルナリアも参戦してくる。
「なんと! 次期国王と目されていると噂の」
「そんな噂になってるの?」
目を丸くしたエバンさんが喜色を表し、ルナリアが首を傾げる。
そりゃあねえ。
旧エクラーダ王国で暮らしていたエバンさんの口からテレサの噂話が出てくれば驚くよ。
迫る影⑦です。
スパイが生み出した人の流れ!?
次回、理由!?




