迫る影 ⑥
そのまま勇王国が、クーデター後の旧エクラーダ王国を吸収併合しているって話だったから、実際には勇王国が策略で侵略したわけだけど、併合した旧エクラーダ王国の土地を支配するに当たって住民が問題になるってこと?
敵国の支配を受けた国の国民がどう動くか、ってことかな?
第二次世界大戦で国境線が変わった被支配地域で何が起こったかに置き換えてみる。
レジスタンス運動やパルチザンの抵抗・・・?
現代風に言えば反政府武力闘争。
要はテロリズムだ。
「・・・ああ。一度裏返った敵兵が、もう一度裏返るのが怖いのか。叛逆軍のことも全く信用していないんだね」
「どういうこと?」
コテリと首を傾げてルナリアのが訊いてくる相手は、なぜか私。
いや。訊く相手は合ってるのか。
私が至った答えを、解説を求めるルナリアに説明を試みる。
「・・・占領したは良いけど、100人で1000人を押さえ付けたら反抗されたときに抑えきれないよね? だから500人に減らそうとしたんだよ。逃げ出した500人が戻って来たら困るから、1000人に戻らないように逃げ出した平民を出来るだけ殺そうとした、ってこと。寝返った500人しか残っていなければ勝てると思ってるんだよ」
「ほーん?」
あ。コレ、伝わらなかったな。
ルナリアは首を傾げながら返事をする。
私の貧しい表現力ではルナリアに勝てなかったよ。
敗北感にガックリと打ち拉がれていたら、お父様が慰めるように私の頭を撫でた。
「極端な例えだが、そういうことだ」
「狂気の沙汰だがな」
未だご機嫌ナナメのお母様が追加で吐き捨てる。
あれ? ちょっと待てよ?
「・・・でも、それなら、5万人しかウォーレス領へ来ないのって、おかしくない?」
「1000キロメテルは遠いんだぞ? 1日10キロメテル歩いて100日間も掛かる」
クイッと片眉を上げたお母様が私の認識の誤りを指摘する。
1000キロメートルと改めて考えれば、挑むのを躊躇う距離だな。
歩けと言われれば全力でご遠慮したい距離だ。
「・・・あー。そうだね。じゃあ、残りの人たちは? どのぐらい難民が発生したの?」
「恐らくですが、エクラーダを出た民は100万人ほどかと」
「・・・100万人?」
私の首が傾ぐ。
それって、どこから出てきた数字なんだろう?
ウォーレス領に来る難民は5万人ぐらいなんだよね。
私の疑問を察したらしいエバンさんが言葉を繋ぐ。
「王家直轄領と王家に近い高位貴族領の大雑把な推定人口です。老若男女を問わず惨たらしく殺して回る様子を見れば、逃げ出したくもなります」
「・・・あ。そういうこと」
「そのほとんどは小国連合諸国内に分散したのではないかと」
はー。100万人かあ。
ウォーレス領まで来た人たちって5%しか居ないじゃん。
近場の国に散ったわけか。
それって距離かな?
私だって躊躇うのだから、誰だって躊躇うのだろう。
「・・・距離の問題ってことだよね?」
「そういうことです。長い距離を歩き続けるのは辛いものですから」
残りの小国連合諸国が危うくなれば、そのうち王国にも、西部国境地域には流入してくるのかも。
違うな。すでに流入してる?
推定100万人っていうのも、どこまで信じて良いか分かったものじゃないし、もっと多い可能性も有る。
せっかく西部国境地域の人口を減らしたのに、難民でまた人口が増えちゃったら意味ないじゃん。
情報の遅さはどうしようも無いけど、また問題になるかもなあ。
新たな問題の予感はさておき、不思議に思ったことをストレートに訊いてみる。
「・・・じゃあ、どうしてエバンさんたちはウォーレス領まで来たの? 同胞が多くいる地域の方が定住しやすくない?」
変わり者の自覚が有る私に一般的な感覚が理解できるのか怪しいものだけど、私が想像する一般論では、木の葉を隠すなら森の中?
そうじゃないな。
みんなで渡れば怖くない?
どうなんだろう?
私が一般的感覚を理解しようとする方が間違ってるのか?
私だったら山か森で一人で自活しようと考えるだろうしなあ。
私が首を傾げているのをどう受け取ったのか、エバンさんは首を振る。
「東の地に“輝く宝石”がいると聞いたからです。しかも、ウォーレス領と言えば大国リテルダニア王国の中でも最強―――、いいえ。大陸最強と謳われる、強者の中の強者です。いつの日か他の小国連合諸国も勇王国と神教会に飲まれると思えば、小国連合諸国には留まれなかったのです」
「・・・なるほどなあ」
やっぱり私が原因か。
本当にそのうちもっと来そうだな。
でも、私の情報って、そんなに詳細なものだったんだろうか?
迫る影⑥です。
ほーん?
次回、あの男!?




