精霊種 ㉜
「・・・うん。表面上、お父様とお母様は隠居したことになっているけど、まだまだ現役なことは誰でも知ってる。つい最近にも王国中に武名を轟かせたからね」
「よほど怖がられてるんだな」
何とも微妙な表情になったテツさんに苦笑する。
西部国境地域から逃げてきた移住民もたくさん増えたしね。
内戦終結から日にちが経って落ち着けば、西部国境地域を通ってきた商人も人口が大幅に増えたウォーレス領まで来るようになっている。
そうなれば、戦場でのウォーレス領軍がどう見られていたかも耳に入ってくる。
王国側から見れば、瞬く間に叛逆者を討伐して国家の分裂を防いだ英雄だけど、国外と取引が有って外国寄りの立場―――、“融和派”寄りの人たちからは悪鬼のように言われているらしい。
特にお母様たち9人が“準備砲撃”で最後に攻め落とした領地では、叛乱軍に組みした領民諸共、城塞都市を半壊させたせいで、領民の犠牲者もそれなりに出たそうなんだよ。
そっち寄りの立場の人たちからは苛烈すぎると予想通りの反感を買っているらしくて、お母様たちの隠居処分とドネルクさんの引責辞任でそれ以上の反発を抑え込めている状況なんだって。
ほんと、自分たちの所業を棚に上げて何を言ってるんだろうね。
いつだって道理を曲げてでも自分の利益しか考えない人たちというものは現れる。
向こうから見れば私たちも同じに見えるのかも知れないけど、意志を通すには押し通せるだけの力が必要になる。
“歴史は勝者が作る”という言葉も有るんだよ。
負け犬根性で最初から敵に迎合するしか知恵も力も無かったくせに、敗者は敗者らしく黙ってろっての。
腹は立つけど、落としどころが現状の着地点で有る以上、私の私情でひっくり返すわけにも行かない。
お父様もお母様も私たちを守るために、汚名を被ってまでメチャクチャ頑張ってくれたんだからね。
いつか分からせてやろうとは思っているけど、今は口に出せない。
「・・・そりゃあね。2ヶ月間も掛からずに10個近くの領地を攻め落としたんだから怖いでしょ。ウォーレス領の名前を前面に出して王宮や貴族からの干渉を封じ込めてしまわないと、あちこちから狙われて王都に居ても危険だと思うよ」
エルフ族が持つ技術にはそれだけの価値が有る。
敵は外にばかり居るんじゃないよ、と伝えれば、レイクスさんは納得顔で天を仰いだ。
「そういうことかぁ。王宮の内側や遠くの貴族領の情報までは、僕らでは知りようがないものね」
「・・・王宮内にはミリア叔母様たち―――、アスクレーくんのお父様とお母様が影響力を持っているから、何とかしてくれるとは思うんだけど、それでも、最初から手出しを躊躇う状況を作って行くに越したことはないから」
同胞として守ると決めた以上、あらゆる人脈を駆使して守り通してみせる。
アスクレーくんの名前が出たことでレイクスさんが首を傾げた。
「彼のご両親も親戚なんだ?」
「・・・ミリア叔母様は、お母様の妹だよ。結婚前はピーシス家の次女。今は王妃様の右腕として社交界に強い影響力を持っていて、王妃様はお母様の親友。テレサのお母様でもあるね」
そういや、アスクレーくんは私の許婚でファーレンガルド家の次男坊としか紹介していなかったっけ?
何気にアスクレーくんの人脈もすごいからね。
次男坊では有っても侯爵家のご令息だし。
未だ出荷作業が続いているキャットウォークをテツさんが見上げる。
キャットウォーク上では、ご機嫌なアスクレーくんが部隊のみんなと一緒にシカと戯れているはずだ。
「王妃って人はドネルクとも血縁が有るんだったか」
「・・・ドネルクさんは王妃様のお兄さんだよ。テツさんたちが仕事で行ったクローゼリス公爵領にはアンリカ叔母様が次期当主夫人として近く嫁ぐから、アンリカ叔母様とも仲良くしておくと良いよ」
「貴族令嬢だろ? 仲良くと言われてもなあ」
困ったように眉尻を下げるテツさんの左手薬指には結婚指輪が嵌められている。
結婚歴が有るくせに、相手が美人の貴族令嬢だからって対応の仕方が分からないなんてことは無いだろうにね、―――と思ったら、ケイナちゃんが横目にジトッとテツさんを見ていた。
これはヤキモチかな?
仕方ないから答えを教えてあげよう。
「・・・簡単なことだよ。そのうち模擬戦を挑まれると思うから相手をしてあげると良いんじゃないかな。ウォーレス領では挨拶みたいなものだし」
「お、おう。分かった」
模擬戦と聞いてケイナちゃんも安心したみたいだね。
ケイナちゃんがジト目を納めたことでテツさんが安心した様子で溜息を吐く。
レイクスさんもしみじみと息を吐いている。
「こうして聞いてみると、凄い人脈のド真ん中に僕らは居るんだね」
「・・・縁を繋ぐために動いてくれたのはドネルクさんだよ」
「そうだね」
レイクスさんも分かってくれている様子だけど、それだけドネルクさんも事態を重視していたのだろうね。
王国全体の“保守派”をまとめる首領と言われるだけ有って、目立たないようにウォーレス家と繋いでみせたのは、さすがじゃないかな。
私たちの出会い方は想定外の形になったみたいだけど、結果的にはキッチリと目的を果たしている。
そりゃあ王様もドネルクさんを信頼するわけだよ。
想定外なしに上手く事が運べば良いけど、予定通りに行くことばかりじゃないのが世の中だもの。
予想を超える事態が起こっても目的を達成してみせられる力量は、それだけで信頼に値する。
エルフ族の代理人としてドネルクさんとの繋がりを作ったテツさんも、ドネルクさんを軽視はしていない様子で、エルフ族とドネルクさんの間を取り持つ立場を放棄する気はないみたい。
「どうする? 不味いようなら、ドネルクを通じて国王とも交渉するが」
「いいや。作ることも売ることも構わないよ。そうなるだろうことは最初から分かっていたんだし、それは良いんだよ」
テツさんの申し出にレイクスさんは首を振った。
言葉通りに受け止めるなら、魔法道具が交渉材料になることは想定通りで、交渉結果に不満はないのだろうね。
交渉結果を受け入れた上で対価の提供を躊躇う理由が有るのかな?
それは理由を聞いて障害を排除する必要が有るね。
精霊種㉜です。
内なる敵!
次回、生産能力!?




