精霊種 ⑤
止めろ! 今は考えるな!
心の準備が出来るまでは棚上げだ!
私たちに誰かを暗殺する予定はないんだよ!
深呼吸を1つして、気持ちを切り替える。
それよりもだ。
よほどイメージが不鮮明で損失が多い場合を除いて魔力消費量の大きさと魔法の効果は比例する。
今、ごっそりと持って行かれた魔力量に比例するなら、相応に魔法の効果が現れるはずなんだけど・・・。
改めて麻袋の中を覗き込む。
「・・・その割に何も起こっていないね」
「さっきと変わったところは無いわね」
一緒に覗き込んできたルナリアも首を傾げて同意する。
固い殻を被ったオリーブの種子たちに変化が起こったように見えないのは私だけじゃなかったらしい。
うーむ・・・。
私はケイナちゃんの助言に従って精霊にお願いしてみただけで、ケイナちゃんの言う「精霊にお願いするだけ」って精霊魔法がどんな効果をもたらす技術系統なのかを知らない。
何がどうなったら成功で失敗なのかの判断基準も持たないし、判別しようがないんだよね。
タイムアップというか、明らかにタイムオーバーらしくて、ミセラさんから強めの圧力を伴った声が掛かる。
「ルナリア様。フィオレ様。そろそろ参りましょうね?」
「「あ。はーい」」
ヤバい。また時間を食っちゃった。
「皆はフィオレ様のご指示通りに」
「・・・お願いね」
「承知たしました」
ミセラさんに急かされて、下働きさんたちに後をお願いしてから浴室へと急ぐ。
廊下を歩いている内に私たちの姿を発見したメイドさんたちが集まってきて、無事、浴室へ連行されて丸洗いされた。
多少なりとも時間短縮が試みられて、雑というか手荒というか、ワッシャワッシャと洗われることによって数分間程度のタイム短縮には成功したらしい。
このままでは朝食の時間に遅刻するのも間違いなし、ということで、椅子に座ったルナリアと私の周囲にだけ弱く小さく抑えた風バリアーを発生させてみたら、濡れた髪は早く乾いたんだけど肌に触れる風に体温を奪われて、かなり肌寒かった。
アレはダメだね。
早く乾くのは良いけど、風邪をひきそうだから冬場に使うのは止めておこうとルナリアと2人で投票して決めた。
そして、遅刻は遅刻だけど朝食の時間には間に合って、ギリギリお説教の回避には成功した。
「サーレーン殿とタレース殿はどうされた?」
「朝一番に郷へ向かわせました」
ナイフでベーコンを口へ運ぶ前に問うたハインズお爺様に、柔和にレイクスさんが答える。
どうやら、件の2人は私たちがジョギングしている頃には出発していたらしい。
レイクスさんの答えにお父様が小さく首を傾げた。
「徒歩で行かれたのか?」
「ええ。いくら南部の森とはいえ、“魔の森”ですからね」
頷いたレイクスさんに答えに、今度はマルキオお爺様が難しい顔で唸る。
「ふむ・・・。たった2人で森へ入らせて大丈夫なのか? せめて馬を使った方が良かったのでは?」
「テツがもたらしてくれた情報のお陰で僕らも多少は強くなりましたからね。魔獣との交戦を避けて逃げるだけなら問題ないでしょう」
マルキオお爺様の気遣いにレイクスさんが首を振り、視線を向けられたテツさんが頷く。
「アイツらの力量なら大丈夫だろう。隠形術も使えるから、たぶん、馬が居るよりも安全じゃねえかな」
「護衛を付けて人数が多くなると移動速度が遅くなるしな。無事を信じるしか有るまい」
「それもそうか」
お母様もレイクスさんの判断を支持して、お父様とマルキオお爺様が納得する。
確かにそうだよね。
馬が居ると歩かなくて良いから楽では有るけど、休憩が必要だからそこまで移動速度が速くなるわけじゃない。
その半面、水は魔法で出せても下草が少ない森の中では飼い葉が足りない。
その上、魔獣に狙われたら馬を守って戦うしかなくなるから、隠形術が使える人なら馬を連れているよりも徒歩の方が安全になるというテツさんの意見は理に適っている。
遠足や修学旅行と同じで、人数が増えると移動速度が遅くなるという理屈にも頷かざるを得ない。
集団行動というものは人員の点呼だけでも時間が掛かるから、小グループの方が効率的に移動できるんだよ。
「今夜は採掘場に留まるのだったな?」
「ただの状況把握だ。普段の回収作業と大して変わらん」
「むしろ、謎を謎のままにしておく方が危険でしょう」
確認するようにルナリアと私へ心配そうな視線を向けてきたハインズお爺様に、お母様とシェリアお婆様がポンポンと反論を返す。
「それは分かっておるのだがな」
「一昨日も急な泊まりで帰って来なかったしな」
「ひと度、問題が起こったとなれば、帰って来ないのは貴方たちも同じでしょうに」
情けなく眉尻を下げたハインズお爺様とお父様に、セリーナお婆様が追い打ちを掛ける。
シェリアお婆様の目は、お父様たちと同じように眉尻を下げているマルキオお爺様に向いている。
「エゼリアやアンリカのように嫁へ出すわけでもないのに大袈裟ですよ」
「わ、分かっとるわい」
武力では圧倒的に強いお爺様たちが、お婆様たちに言い負かされてタジタジになっているんだから面白い。
お父様に至ってはお母様に言い負かされる前に撤退して黙っちゃってるしね。
複雑そうにお爺様たちとお婆様たちのやり取りを見ているのは、アスクレーくんだよ。
賢明なアスクレーくんは最初から余計な口出しをしないし。
私はアスクレーくんの自主性を尊重しているつもりなんだけど、最近は執務室へ行ってお父様たちと一緒に居ることも増えているから、男同士で何か通じ合うものが有るのかも知れないね。
精霊種⑤です。
家庭内の力関係!
次回、増えた!?




