再会 ⑩
「・・・人の手ではしないよ。風車を使って風の力で勝手に汲み上げて貰うの」
「“ふうしゃ”?」
聞き慣れない言葉だったのかルナリアは首を傾げる。
そういや、レティア周辺では見た記憶がないな。
恐らく、風車を使う必要がないぐらいに地下の水位が高かったってことだろうけど。
「・・・うん。風を受けてクルクル回るものでね。そのクルクルの力を使って水を汲み上げることができるんだよ」
「ほぇ~」
「ニャ~」
想像できなかったらしいルナリアが、よく分かっていないので有ろうノーアと一緒に感心の声を上げた。
例えば、某超大国の西部劇に出てくるような、風でカラカラと回る小さな風車が付いた櫓だよ。
あれって、井戸から汲み上げた地下水を櫓の上に乗っけた大きな樽に貯める風力ポンプ装置なんだよね。
電動ポンプほどの揚水能力はないけど、自然の力だけでも地下水は汲み上げられる。
風車と言えばチューリップ投資でバブル経済を引き起こした国だけど、あの国なんかは、もっと大規模な風車で灌漑していた。
西部劇の舞台になった地域ほどウォーレス領周辺は風が強い地域じゃないけど、何とかなるんじゃないかな。
あっちでもこっちでも地下水を汲み上げるとなると地下水の水量が気になるところだけど、大きな水源であるナーガ川からの距離はたかが数十キロメートルだ。
何なら地下の地質を水が通りやすい砂礫なんかに土魔法で変えて、こっちの地下水脈と繋げてしまえば良い。
地球では地下水路で有名な旧大帝国の歴史を持つ産油国が、地下水を汲み上げまくったせいで滅亡しそうになっていたはずだけど、私たちは重工業や半導体産業にまでバカスカ地下水を使おうってわけじゃない。
原野の緑化が進めば保水力も上がるはずだしね。
“魔の森”という途方もなく巨大な保水地を持つナーガ川の水がそう簡単に枯れるとも思わない。
専門知識を持っているわけじゃないけど、大雑把な理屈は間違っていないはず。
新たに開拓する農地に何を植えるとか、夢一杯の雑談を続けていると、荷馬車の荷台で聞いていたテツさんが感心したように唸る。
「何か色々と考えてるんだな」
「・・・農業面の食料生産能力向上だって、国力を引き上げて神教会を倒すためだもの。そりゃあ考えるよ」
物騒な目的だけど、あの連中をどうにかしないことには、私たちに平穏な暮らしを手に入れられない。
それが分かっているのだから妥協することはないよ。
必ず豊かさを王国全体に波及させて、王国一丸となって侵略者から私たちの居場所を守ってみせる。
だんだん目標が大きくなってきてる気はするけど、やるしかない。
「フィオレは頼もしいですね」
「為政者ってのは大変なもんだなぁ」
感心するケイナちゃんと一緒になってテツさんが頷く。
荷台の奥でアスクレーくん部隊の男の子たちも一緒になって頷いている。
「それが私たちの務めだもの!」
「スゲえな。まったく大したもんだぜ」
褒めすぎじゃない?
テツさんに褒められて得意顔のルナリアがさらに反り返っている。
あんまり反り返ると鞍から落ちるよ?
ルナリアを落ち着かせるために前方の景色を指して話題を変える。
「・・・ああ。ほら。慰霊碑が見えてきたよ」
「おっ。着いたか」
荷馬車の中で御者の背中越しに全員の視線が進行方向へ向いた。
緩やかに街道がカーブしているお陰で、私の位置からでも御者の背中に隠れず慰霊碑の巨大な全景が見えている。
「見えてきたばかりだから、まだしばらく掛かるわよ!」
「しかし、ありゃあゴーレムよりもデケエな」
「こんなに離れていても見えるなんて。森の木の倍ほども高さが有りますよ」
景色に中に慰霊碑の姿を認めたらしいテツさんが呆れた声を上げた。
相槌を打つケイナちゃんの声は驚きに満ちている。
「どのぐらいの高さだと言ってたっけ?」
「50メテルよ!」
轡を並べて馬の背に揺られている私たちをテツさんが返り見れば、慰霊碑登頂記録保持者のルナリアがドヤッと平たい胸を張る。
「ああ~。そうだったな」
テツさんも17階建て相当だと言ってたっけ。
王国内に慰霊碑を超える高さが有る建築物は王城の見張り塔しかないからね。
国内2位だよ。
テツさんとケイナちゃんは王城を見たことが有るはずだけど、それでも慰霊碑の高さに驚いてくれている。
ああだこうだとテツさんたちも一緒になって雑談している内に、馬列はレティアの目の前まで帰ってきていた。
「「「「「おお~」」」」」
夕陽を浴びてオレンジ色に染まっている巨大慰霊碑を見上げて、レイクスさんたちまで荷台から身を乗り出して感嘆の声を上げている。
そんなときだ。
聞き覚えの有る大きな男声が前方から聞こえてきた。
「クァタル!? クァタルじゃないのか!?」
「うん? クァタル」
「・・・んん? 今の声、エバンさん?」
テツさんの声と私の声が重なる。
再会⑩です。
エクラーダ絡み!?
次回、再会!?




