再会 ⑦
「ふぅん? 面白いことを考えてるんだね」
「・・・協力してくれますか?」
コテリと首を傾げて訊いてみれば、レイクスさんはクスリと笑っただけだった。
あ、痛。やらかしたか。
「考えておくよ」
「・・・ぜひ、前向きに検討してください」
レイクスさんの返事に深追いをせず、この場は1歩退いて話題を終えておく。
この「考えておく」を関西型回答と受け取るか関東型回答と受け取るかで意味が180度変わるんだけど、過去の経緯を踏まえて関西型のニュアンスじゃないかと私は予想した。
関西型とか関東型とか、何? って思うよね。
これ、営業職に就いていた頃にノウハウとして先輩から教えて貰ったんだけど、商売人の関西人タイプは「嫌だ」という意志を伝える断り文句として「考えておく」と答えることが多いんだよね。
そう答える理由? 商売人だし、敵を作りたくないとかそんなのじゃない? 知らんけど。
これが合理的で無駄な回り道を嫌う関東人タイプだと「考えておく」という返事は文字通り「検討してくれる」って意味だから、短期間での営業成績に繋がりやすい。
どこまで本当かは分からないけど、確かにそういう傾向は有ったかも知れない。
じゃあ、私がなぜ関西型回答だと考えたのかと言えば、ヒト族のエルフ族に対する所業が酷すぎたからだよ。
ヒト族に知識を与えると言うことは、エルフ族にとっては危険が増す結果になるかも知れない。
かと言って、今、私たちは交流を持とうとし始めたばかりだ。
私がレイクスさんの立場だったら敵を作るような真似はしたくないと考えるはず。
そりゃあ言葉を濁した返事になるんじゃないかな。
軽々しく協力を要請した時点で自分の配慮が足りなかったことに気付いたから、レイクスさんの柔らかな拒絶の可能性に私は深追いしない判断をした。
性急な要求は始まったばかりの関係を壊しかねないのだから、気を付けなきゃ。
とはいえ、私は諦めたわけじゃないよ。
こっちの意向は伝えたんだから、後は自分たちの目で私たちがどんな人間かを確かめて貰って、私たちに協力して貰える気になったときは喜んで受け入れることにしよう。
なんてことを考えていると馬列の前方がざわつく気配がした。
「伝令―――っ!!」
遠くから複数の馬が駆ける蹄の音と一緒に男性の叫び声が聞こえてきた。
おや。伝令?
お仲間のドワーフ族たちが見つかったかな?
テツさんも馬列の進行方向へ視線を向けているから、伝令の内容を気にしているんだろう。
声が遠くて聞き取れなかったけど、何やらお母様たちと言葉を交わした領軍の騎士様が馬列の後方へと馬を進めてくる。
「フィオレ様!」
「・・・ここだよ~」
姿を探すように掛けられた声に手を振って所在を示せば、私を見付けてパッと表情を明るくした見覚えの有る騎士様が馬を進めてくる。
伝令を務めてくれたのはビルさんだったらしい。
ビルさんといえば、アレだよ。
レティアの領主館で勤め始めて間も無い頃に、男性恐怖症を発症させたディディエさんとダーナさんが暴言を吐いた相手だね。
チラッと後ろを見れば、ディディエさんたちもビルさんに気付いて会釈している。
まだ20代半ばのビルさんはピーシス家系傍系の騎士様で、頭蓋骨の中身の半分ぐらいまで筋肉に浸食されてる脳筋だけど、気の良いお兄さんなんだよ。
さすがに何度も顔を合わせていればビルさんが害のない男性だとディディエさんたちも理解した様子で、今は馴染んで和解しているらしい。
最近、朝の基礎訓練で見掛けないと思っていたら、ビルさんはマリッドさんの直属だから新領地勤務なんだね。
蓋を開けてみれば思った以上に領民たちから好意的な受け入れられ方をしたみたいだけど、新領地へピーシス領軍が進駐した当時は敵地を占領しに行くぐらいの警戒度だったと聞いている。
そろそろ新領地の領軍でも新規募集が掛かるはずだから、その内、レティア勤務へ戻ってくる可能性も有るんじゃないかな。
ウォーレス領方面から対抗する形で接近してきたビルさんは、一旦、私たちと擦れ違ってから馬を180度方向転換させて追い付いてくる。
「お疲れさまです! ルナリア様も、お疲れさまです!」
「・・・伝令、ご苦労さま」
「ご苦労さま!」
並び掛けてきた馬上のビルさんを労うと、脳筋らしい明るい笑顔でニッと笑い返してきた。
「・・・探し人は見つかったの?」
「はい。北門の手前で馬車を停めて慰霊碑を見物しているところを領軍が発見しました。一旦、領主館へ入った後、レティアの町を見物すると申しておりました」
やっぱり伝令内容は私たちが待っていた情報だった。
ヨシヨシ。良い具合に見つかってくれて良かったよ。
「・・・大きな問題は起きなかったみたいだね」
「最初はずいぶんと警戒したようですが、頭目の名前を出したところ大人しく従ってくれました。伝令は以上です」
苦笑気味に答えたところを見ると、いくらかの抵抗をされたのかな?
全員が亜人種族だから、ヒト族の軍隊に身柄を拘束されるかも、と思えば多少の抵抗が有ってもおかしくないものね。
客人扱いでの手配だったはずだから、ビルさんも答え方に気を使ったんだろう。
荷馬車の荷台から私たちへ視線を向けている頭目―――、テツさんも、安心したように肩の力を抜いている。
「・・・そっか。ありがと」
「それでは、私たちは本隊へ戻ります」
感謝を伝えると任務を終えたビルさんは右拳を胸に当てて敬礼を返してくる。
「・・・私たち?」
首を傾げる私にニヤッと笑みを向けたビルさんが、「来い」と言わんばかりに前方へ向けて大きく腕を振る。
30秒も経たない内に馬列の前方から5騎の騎馬がやって来る。
おお? 出世したってことかな?
街道脇の空地で馬首を巡らせた騎馬たちがビルさんの傍へ並び掛けてきた。
再会⑦です。
関西風エルフ族!?
次回、不要品!?




