精霊魔法というもの ㉞
「ねえ。聞いたことのない魔獣の名前がいくつも有ったんだけど」
「・・・ハッ! そう言えば!」
ツンツンと私の腕を突っついてきたルナリアの指摘に、レイクスさんが言っていたことを思い出す。
塩湖の情報に右から左へ聞き流しちゃってたよ。
いけない、いけない。話の腰を折っちゃってた。
塩湖も重要だけど、その塩湖を確保するためにも出没する魔獣の情報は重要だよね。
私たちの会話をちゃんと聞いていてくれたお母様がレイクスさんに目を向ける。
「バイコーンとバジリスクと、他には何だった?」
「パイアとステュムパーリデスとカルキノスかな」
自分の発言を思い出すようにレイクスさんが答える。
「・・・パイアは聞き覚えが有る気がするけど何だっけ? 残りの2つは初耳かも」
「パイアはレイジングボアの正式な名称だな。他の2つは私も知らん」
あ。そうだった。
レイジングボアって呼ぶ人しか居ないから忘れてたけど、前にも聞いたことが有ったよね。
お母様でも知らない魔獣が居ることにも驚く。
ケイナちゃんがピッと人差し指を立てた。
「ステュムパーリデスは鳥の魔獣ですよ。カルキノスは―――、えっと、テツさん。何と言ってましたか?」
「おう? ザリガニか?」
助けを求められたテツさんがケイナちゃんに答える。
「・・・ザリガニ!?」
「“ざりがに”とは何だ?」
「・・・えーっと。甲殻類かな。川エビを大きくした感じ?」
ザリガニってエビの仲間だよね?
カニとかエビは分類がややこしくて私もよく分かっていない。
タラバガニなんて蜘蛛の仲間だと言うし、甲殻類と答えるのが一番無難な気がする。
細かいことには拘泥しないっぽいテツさんが新情報を投下してくる。
「おう。めちゃくちゃデカかったぞ。一軒家サイズだった」
「・・・おおう・・・。塩水に棲む一軒家サイズのザリガニ?」
塩湖の塩を採掘するには巨大ザリガニを倒す必要が有るの?
危険度はハサミの大きさにもよると思うけど、一軒家ほどもある大きさとなれば頭やハサミを掴んで捕まえるのも難しそうだよね。
テツさんはケイナちゃんではなくレイクスさんに目を向ける。
「アレ、食ってみたのか?」
「生肉よりも1週間ほど干した肉の方が旨味が強くなって、何の味付けもしていないのに適度な塩味が利いていて美味しかったよ」
テツさん自身は食べていないのかな?
お肉の話をしているのだから、倒したのだろうってことは分かる。
「・・・へぇ~。干物かぁ。ちょっと食べてみたいかも」
水棲生物は生息環境のせいか水っぽくて淡泊な味のものが多いからね。
干して水分を抜くことで保存性を高めるだけでなく、成分変化で水産物の旨味を引き出す加工方法は古くから存在するんだよ。
小川で獲った川魚の干物も美味しかったなぁ。
ルナリアが首を傾げる。
「後は何だっけ? すてゅむ?」
「ステュムパーリデスですね。コウモリよりも小さな鳥ですが、肉が食べられるだけでなく、羽根や爪を燃やすと金属が採れるんです」
マジで!? 金属が採れる鳥なんて初めて聞いたよ!
「ほう? 鳥から金属が採れるのか。コウモリ程度の大きさなら、それほど大きくはないな」
お母様も初耳だったみたいだね。
悪名高いコウモリは人間並みの大きさなんだっけ。
私としては大きさよりも採れる素材の方が気になるけど。
「・・・何の金属?」
「あの色は多分、銅だと思うぞ。俺は魔獣の現物は見てねえんだが、採れた金属から作った刃物は見せて貰った」
「へぇ。刃物を作れるってことは、それなりの量が採れるんだね」
敵が少ない空中に活路を見出して体を軽くすることで種を存続させたのが鳥という生物なのだから、1羽の鳥から道具1つを作れるほどの量が採れるってことはないと思うんだけどね。
銅は使い道が多いから貴重だよ。
現代地球でも銅は需要が高くって、電線泥棒が世界的に流行ってたぐらいだし。
興味津々に聞いていたら、レイクスさんが並びの席に座っているお仲間さんに声を掛ける。
「タレース。鏃に使っていただろう?」
「お待ちを」
レイクスさんの指示を受けたターバンの1人が足元に転がしている矢筒へ手を伸ばす。
バケツリレーで手元へ届いた1本の矢をレイクスさんがテーブルの上へ置いた。
「ふむ」
「・・・この矢も魔法道具?」
お母様が腕を伸ばして手に取った矢を一緒になって覗き込むと、矢の胴体部分に細く回路のようなものが彫り込まれている。
長さが70センチメートルほども有る矢の本体―――、軸シャフト部分の呼び名は“篦の”だったかな。
直径5~6ミリメートルほどしかない棒の先端に金属製の鏃が付いていて、“筈はず”と呼ばれるお尻の方には青緑色の矢羽根が埋め込まれていた。
「その矢羽根がステュムパーリデスの羽根だよ」
レイクスさんの説明に、矢羽根にも目を凝らしてみる。
青色に緑色を混ぜたように綺麗な色の羽根は、指先で触れてみればそんなに硬くないのに、確かに金属的な光沢を持っている。
こんなのを燃やしても、やっぱりごく少量しか銅は採れないだろうね。
“塵も積もれば山となる”ってことだろうけど、気の遠くなるような蓄積で鏃1つを作るんじゃないかな。
テツさんが右手を立てて蛇のようにクネクネさせて見せる。
「面白い矢だぜ。こう、木の間を縫って飛ぶんだ」
「・・・へぇ~」
お母様は、といえば、目を皿にようにして本体の回路を観察している。
刃物の切っ先で引っ掻いたような細い線で構成された回路には、青黒い塗料のようなもので色が付けられているんだよ。
矢の上で手のひらを翳したお母様が首を傾げた。
精霊魔法というもの㉞です。
新たな刻印術式!
次回、人類最古の!?




