精霊魔法というもの ⑪
「出発!」
森の入口から撤収して街道に戻り、壊れたままの城門跡から町へ入って衆人環視のド真ん中を馬列は進む。
お母様の指示で移動を促され、テツさんたちはアスクレーくん部隊が乗ってきた領軍の荷馬車に便乗することになった。
ルナリアが寝てしまったことで総指揮官はお母様が代わって、マリッドさんと轡を並べて馬列の先頭に立つ。
運搬役の私は、ルナリアを背負ったまま獲物と一緒にフワフワ浮きながら馬列の半ばにいる。
テツさんたちが乗ったアスクレーくん部隊の荷馬車は、馬列の後半に続いている。
領民たちの注目を私が一身に集めているけど、そんなことはどうでも良い。
領民から掛けられる歓声に手を振り返しながらも私の頭の中は思考に占有されていた。
「・・・うーん・・・」
どうするかなぁ・・・。
渡河地点のダンジョンのことも有るから、魔獣討伐の戦力は1人でも多く欲しい。
ドワーフ族も含めてメッチャ欲しい。
ウォーレス領で囲い込んでしまいたいぐらいだよ。
でも、強い冒険者を囲い込んでしまいたいのは、どこの領地だって同じだろう。
私たちが一目で勇者だと判断したぐらいだから、他の領地でも同じ判断をする可能性は高いよね。
それは、つまり、テツさんたちを取り込もうと争奪戦が始まるってことだ。
テツさんは平民の身分だろうし、貴族の強権で無理やり身柄を押さえようとする連中が出てきてもおかしくないよね。
テツさん自身は強いから貴族の干渉を撥ね除けられても、お仲間のケイナちゃんたちは?
簡単に撥ね除けるのは難しいんじゃない?
テツさんたちの自由を確保しようとすれば、貴族家でも簡単に手出しできない後ろ盾は必要になるよね。
他の貴族家が怖れて手出しを躊躇う後ろ盾?
王様が付いていれば手出し出来ないんじゃないの?
でも、王様がそうしない理由が有る?
いや。どうすれば良いか知恵を貸せって言ってきて居るぐらいだから、王様としてはテツさんたちを取り込みたいんだろう。
“しない”んじゃなく“できない”理由が有るってことだよね。
再確認だけど、ここまでは確定情報と見て良いかな。
てことは、恐らくまだ他にも“できない”理由が有るんだな。
その理由は、話し合いで訊き出せば良いだろう。
「・・・勇者に、ドワーフ族か・・・」
亜人種族の1つであるドワーフ族も神教会勢力に国を滅ぼされて、今は迫害対象になっていたはず。
ヒト族が持って居ない技術を持っているんだから何としても保護しなきゃ。
今、必要なのはテツさんたちを守るための具体策だ。
噂を広げないためだけじゃなく、テツさんたちを守る意味でも、本当ならウォーレス領から出さないようにしたいけど、ドネルクさんや王様と先に接点を持ってしまっている以上、ウォーレス領で取り込むのは難しいだろうなぁ・・・。
あ。待てよ? テツさんたちは王都を拠点に冒険者活動をしているんだよね。
すでにテツさんたちの噂は王都で広まっている可能性が高いのか。
だとしたら、もう、テツさんたちの噂は西方諸国へ伝わってるんじゃない?
じゃあ、情報統制の段階は通り過ぎてる?
名目上ではなく実効力を伴う後ろ盾が必要な段階なのだとすれば、早急に神教会対策をどうするのか方針を決めておかないと。
勇者絡みの問題で王様が判断に困っているのは確定として、私の問題も出て来ちゃったから第三者のスタンスで居るわけに行かなくなっちゃっているし。
観察者オブザーバーとして意見を出すだけのつもりで居たのに、私もガッツリ当事者じゃん。
覚悟を決めて取り組む必要が有るなぁ、なんて考えている内に大通りの角を曲がって、金ピカの柵に囲まれた成金趣味全開の悪趣味な領主館が目の前に迫ってきていた。
「お帰りなさい!」
「おう。皆、ご苦労」
歩哨に立っている兵士さんたちの出迎えに応えながらお母様が鞍から下りる。
魔力の手で掴み上げた魔獣からポタポタと血の雨を降らせている私のところにも、明るい表情の兵士さんたちが集まって来る。
「お帰りなさい。こりゃまた大物ですね」
「・・・ただいま。こっちの領地って食肉加工場は有るの?」
「無かったはずです」
ふーん? 顔を見合わせた兵士さんたちの答えに私の首が傾ぐ。
「・・・お肉や素材は、どう処理してるんだろう?」
「獲物を狩った者が自分で捌いてから、肉屋や素材屋に売るのが普通です」
ははーん。森で暮らしていた頃に想像していた感じかな。
加工済みの干し肉だったらお肉屋さんに売るか、市場でお店を開いて自分で売ったりするのだろうね。
私もそうやって生活費を稼ぐつもりだったんだし。
流通が個人単位で完結していて、領主が領民に仕事を与える形になっていないわけだ。
それって個人で捌ける程度しかお肉を獲れていなかった証拠なのかも。
ウォーレス領が軍馬生産を主要産業に数え上げているように、こっちの世界にも畜産の概念は有って、まだまだ小規模とはいえ家畜化に成功した豚の飼育も行われている。
そもそもが、家畜の飼育とは安定的に食料を得るために発達した技術だからね。
事実、クセの少ない豚肉は安定的な需要が有って豚の飼育は産業として維持されている。
希少価値が有って旨味も強い魔獣のお肉とは住み分けが出来ていたみたいだけど、安定的なシカ肉の供給で割を食っている業界でも有るんだよね。
だからと言って、シカ肉の供給を減らすつもりなんて、私には微塵もないけど。
みんながしっかりとご飯を食べられる環境を、私は一歩も譲らない。
精霊魔法というもの⑪です。
飽くなきご飯への執着!
次回、真の問題点!?




