エンカウント! ㊱
「・・・森に入ってる人たちが、バンダースナッチっぽい魔獣に見つかった!」
「方角は!」
「・・・北! たぶん、他領の人だと思うけど、距離は5キロメテルぐらい! バンダースナッチはそのさらに北側から接近して来てる!」
現場の方向を指すとお母様とドネルクさんが険しい表情で顔を見合わせる。
「北だと? またフィッツベルンの領民か」
「すでに被害が出ているのに、フィッツベルンは何を考えている」
毒づく2人にミセラさんが肩を竦める。
「領主の命で領民を森へ入らせているという噂です。まあ、それはフィッツベルンに限ったことではないのですが」
「愚か者どもが。領民の命を何だと考えている」
「俺が救出に向かう。王国民がむざむざと殺されるのは看過できん」
ミセラさんの報告に盛大に顔を顰めたお母様がこめかみを揉み、ドネルクさんが現場へ急ごうとする。
ダメダメ! 今から走って行っても5キロメートルも先だよ!?
5000メートル走のオリンピック記録でも12~13分ぐらい掛かったんじゃなかったかな。
足場が悪い森の中では陸上トラックのようには走れないし、真っ直ぐに現場を向かおうとしても木々が邪魔で避けなきゃいけない。
森で何度も方向転換すれば方角なんて直ぐに見失う。
「・・・待って、叔父様! それなら私が行った方が―――、あ。接敵する」
「私が行く。フィオレ、空から行こう」
私の実況にお母様が決断を下したけど、それもダメだ。
すでに接敵した以上、怪我人がいると考えた方が良い。
「・・・助けに行くだけなら私1人で良いよ。お母様たちは迎撃準備を整えて欲しい」
「迎撃だと?」
私の申し出にお母様が目を厳しくする。
「・・・魔力の手で被害者たちを掻っ攫うつもりだけど、バンダースナッチが追撃してくる可能性が有ると思う。出来るだけ早く治療する必要が有るだろうから、治療に専念できる安全な場所が欲しいんだよ」
「その場で戦闘をするつもりは無いんだな?」
「・・・人命第一だよ。救助して逃げてくる」
しっかりと頷いて返す。
複数の怪我人を抱えたままでの戦闘なんて無理なことぐらい私にも分かってる。
こうして問答している間にも人の命が失われるかも知れない。
急がないと、と焦りを感じているところへルナリアが手を挙げる。
「私も救助に行くわ! 私に迎撃の指揮はまだ早いから、指揮はお母様たちが執って!」
「・・・ルナリア?」
巫山戯ているわけじゃなく私を心配してのことだとは思うけれど、危ないのが分かっている場所へルナリアを連れていくわけには―――。
「“手”の数は多い方が良いでしょ!」
「・・・む。それは・・・」
私が出せる14本の「手」の内、移動用で6本が使えなくなる。
要救助者が6人だと仮定して、それぞれの「手」に1人ずつ掴んだとすれば防御に回せる「手」は2本しか残らない。
ルナリアを固定するのに1本の「手」を使ったとして、今のルナリアは4本の「手」を出せる。
単純計算で3本の「手」が増えるのだから、自由になる「手」が4本になって収支はプラスだ。
敵の動きを見張る目も2人分に増えるのだから、私1人で行くよりも間違いなく戦力は増強される。
これは私の負けだな。
ルナリアに言い負かされる日が来ようとは。
「・・・分かった。行こう」
「うん!」
了承した途端にルナリアが私の後ろへ回って背中に飛び乗ってくる。
私は私で慣れたものだよ。
ルナリアのお尻を魔力の手で包み込んで私の体と一纏めに固定する。
諦めたように溜息を落としたお母様はほんの2~3秒間だけ目を伏せて、再び目を上げたときには覚悟の決まった表情になっていた。
「可能な限り戦闘は避けろ。良いな?」
「「はい!」」
返事を返すと同時に6本の「足」で立ち、真上へ急上昇する。
2本の「手」でガードして枝葉の間を突き抜け、地上30メートルの樹上へと飛び出す。
お母様たちと話している間にもバンダースナッチの攻撃は続いていたのだから、本当に急がないと犠牲者が出る。
アクティブソナーの1本と転倒防止の2本を残して全ての「足」を移動に動員する。
大車輪のように転がれば速度が出るのは判明しているのだから、全速力で疾駆する。
「ふぎゃっ!」
「・・・うわっぷ! す、すごい風!」
慌てて1本の「手」で私たちを包み込んで風除けにすれば、巻き込んでくる風は有るけど、かなりマシになった。
飛行速度がどのぐらい出ているのかは分からないけど、深緑色の海が眼下を流れ、襲撃現場の魔力反応がぐんぐん近付いてくる。
「・・・突入するよ!」
「うん!」
急降下爆撃を真似て斜めに高度を下げれば木々に衝突する危険が有るから、現場の頂上から垂直ダイブする!
きっと、今、この瞬間はルーデル閣下にも負けてない!
エンカウント!㊱です。
急降下!?
次回、襲撃!?




