エンカウント! ㉟
上へ上がってみれば分かるか。
中途半端な位置でなくなっている階段を上がり、撤去部分を復旧して崖上へ出る。
しゃがみ込んで昨日私たちが残した足跡を探してみれば―――。
「・・・有った。昨日も来てるね」
「どうして分かるの?」
いくらの時間も経たないうちに断言した私の隣にルナリアもしゃがみ込む。
昨日、領軍の誰かが残したものであろう足跡を、ルナリアにも分かりやすく指し示す。
「・・・ほら。私たちの足跡の上にバンダースナッチの足跡が上書きされてるでしょ? 私たちが町へ帰った後にバンダースナッチも来たんだよ」
「そっか。新しいものが一番上に来るものね」
すぐに正解へ辿り着いたルナリアをヨシヨシしつつ首を傾げる。
昨日、私が撤去した踏み板は数段分だけだったのに・・・。
「・・・その割に階段を下りなかったんだ? 警戒したかな」
「どうするの?」
ルナリアも私と一緒になって首を傾げる。
何が理由で残していった階段を下りなかったのかは分からないけど、それはそれで構わないか。
ニオイで私たちの存在には気付いているだろうし、それでもウロウロしたんだから狩猟に適した条件は崩れていない。
「・・・予定通りワナは仕掛けるよ。寄せエサも必要だし」
「あ~。バンダースナッチをエサにするのね」
ん? 何で遠い目をするの?
鮎の友釣りだって釣った鮎を囮に使うし、エサを現地調達して別の獲物を狙うのなんて色々とエコだし普通だよ?
立ち上がってみんなの方へ振り返る。
「・・・ククリを仕掛けるよ!」
「「「「「おう!!」」」」」
ゴーサインを出せば、元気の良い返事が返ってくる。
狩猟場所が変わっても、後はいつも通りだ。
獲物の通り道や迂回経路に想像を働かせてワナを設置する。
ルナリアの傍を離れずに私も設置作業に従事する。
当然のことながら、アクティブソナーと索敵レーダーはフル稼働中で警戒は怠っていない。
防御用に数本は残しておきたいから動員している「手」は半数の7本。
1本をアクティブソナーに、6本を索敵レーダーに回している。
万が一にも敵影を見落としたくないからアクティブソナーは目一杯まで範囲を広げて、索敵レーダーは精度優先で4キロメートルほどに範囲を絞っている。
ククリ罠の設置作業を始めていくらも経たない内に、アクティブソナーが弱い反応を捉えた。
「・・・あれ? これ何だろう?」
「どうしたの?」
「・・・たぶん、人かな? まだ遠いけど、こっちに近付いてくる」
ルナリアに所見を伝えたけど、断定できるほどの情報が無い。
どうするかな・・・。
索敵レーダーの探知範囲外だから明確には分からないけど、アクティブソナーの範囲を絞って調べるのは避けたい。
索敵レーダーを1本そっちへ回して調べるか。
「遠いって、どのくらい?」
「・・・5キロメテルぐらい? 魔獣よりも遙かに反応が弱いから人間は見付けにくいんだよね」
「向こうも森の中なのよね?」
ルナリアが眉を顰めて首を傾げる。
おや? ルナリアも何? この反応。
「・・・北の方角だと思うから間違いなく森の中だよ」
「敵じゃないわよね?」
なるほど。おかしな反応を返したと思えば、森の中で知らない人間たちが近付いてくると聞いて暗殺未遂事件を思い出したのか。
安心させるように首を振る。
「・・・5~6人が固まってるだけだから、襲撃部隊って人数じゃ―――、あっ。魔獣」
「えっ!? どこ!?」
身構えたルナリアがバッと周囲を見回す。
ええい。間の悪い。
私が見つけたのは魔獣の姿じゃなく、アクティブソナーが新たに捉えた複数の反応だ。
「・・・人のさらに北。・・・バンダースナッチの群れっぽい?」
「それ、拙くない?」
私の答えに魔獣の襲撃ではないと悟ったルナリアが、構えを解いて私へ振り返る。
拙そうな状況だとは思うけど、拙いと言い切るには情報が足りない。
「・・・ちょっと待って。そっちに魔力の手を回して―――、見つかった!?」
「ええっ!? どういう状況!?」
「・・・一気に人の方に向かって魔獣が移動を始めた!」
振り向けようとした魔力の手が到達する前に、魔獣の反応が動き出して人間の反応の方へと向かい始めた。
人間へ向かって一直線にバンダースナッチの群れが向かば何が起こる?
2者がエンカウントしたときに起こることなんて誰にだって分かる。
当然、正義感が強いルナリアにも分かる。
「大変じゃない! 助けなきゃ!」
「・・・お母様! 人が襲われてる! ―――、あ、いや。これから襲われる!」
「何だと!? 何が有った!!」
血相を変えたルナリアに応えて報告を上げれば、お母様たちも血相を変える。
エンカウント!㊱です。
レーダー観測員!?
次回、急襲!?




