第2次領有宣言 ㉖
縦横5メートルは有る横穴の奥にまで届く陽光は少なく薄暗い。
20メートルも行かない内に闇に呑まれて先行きが見通せなくなる横穴には、崩落時に散らばったので有ろう瓦礫が散乱している様子が見て取れる。
意外と少ない崩落跡の瓦礫に魔力の手を伸ばしてみれば、積み上がった瓦礫のはずなのにガッチリと一体化したオブジェのように小石1つも動かせないことが分かった。
「・・・おお~。何だコレ?」
「どうした?」
私の肩越しに覗き込んでくるお母様に、地面に積み上がっている瓦礫を指し示す。
「・・・邪魔だな、と思ったんだけど、この瓦礫、地面と一体化してて退けられない」
「埋めた方が早そうだな」
「・・・そうだね。そうしよう」
お母様が判断した通り、ある程度の範囲を平たく上書きして、歩きやすくなる場所までの区間を舗装しちゃった方が早い。
地面に転がっているように見える小石1つも動かせないとなると、ただの不整地でしかないからね。
この高低差ならスロープ形状で滑らかに仕上げられるだろうし。
しかも、瓦礫の下に有る整地―――、ダンジョンの構造体にも干渉できない?
いや。工作物を作って制御を譲り渡せば制御を奪ったダンジョンが維持してくれるのだから、広義での干渉は出来ていることになるのか。
お母様が“光”の魔法を点してくれて、数十メートル先まで横穴の奥が照らし出されたんだけど、違和感が半端ない。
どう見ても横穴の幅が奥に進むにつれて縦横ともに大きく広がってるんだよ。
横穴の天井を見上げる私の口から、つい声が漏れる。
「・・・はー・・・」
「想像していたよりも広いな」
違和感を口に出したお母様の声にも疑念の色が強く滲んでいる。
反響して返ってくるお母様の声を雑音が邪魔していることも気になる。
「・・・奥から水の音が聞こえる気がするんだけど、ナーガ川の音じゃないよね?」
「地下水脈―――、地下にも川が有るのかも知れんな」
お母様の推測に、なるほどと頷く。
でも、地球だと東南アジアの島国に有名な地下河川が観光地になってるけど、あれは水に浸食されて出来上がった鍾乳洞が川の水で満たされている感じで、急流や激流に類するような流れではなかったはず。
今、私の耳に届いてくるのは渓流みたいに高低差を感じさせる水音だから、同じ水音でも趣が違うんだよね。
どこだか忘れたけど、洞窟の奥に地下水の激流が流れている鍾乳洞ってのも地球に有った気がする。
いやあ・・・、違うな。
水音も気になるけど、やっぱり気になるのは空間的な違和感の方かな。
これは目の錯覚?
「・・・地下にここまで広い空間が有ったなんて」
「地上で感じ取っていた規模よりも明らかに大きな空間に見えるのは、気のせいでは無さそうだな」
私の口から漏れた呟きにお母様が違和感の正体を言葉にした。
そうそう。それなんだよ。
魔力的に感じ取っていた大きさどころか、視覚的に見える横穴の天井の高さと下りてきた大穴の深さが物理的に計算が合わないよね。
だって、ドーム式球場の入口に立ったみたいに奥へ進むにつれて急激に大きく広がっているように見える横穴の天井が、どう見ても奥の方は20メートルを超えてるんだよ。
私の平衡感覚が狂って見誤っているのかと考えかけたけど、視界に入る自分の髪が重力に引かれている角度と見比べれば、平衡感覚が狂っているわけではないと分かる。
あの天井高が現実のものだとすれば、計算上は地上の地面の高さを超えてしまっていることになる不思議空間だよ。
そして、さらには、横穴の奥は“光”の届く範囲を超えて再び闇の中へ消えてしまっている。
「・・・私もそう思う。これ、どうなってるんだろ?」
「行けるところまで奥へ入って確かめてみたいが・・・、流石にハロルドが怒るだろうな」
「・・・だよねぇ。出掛けに“危険なことはするな”って釘を刺されたし」
往路で焼却炉を建てた場所で、すでにこの地下空間を発見していたのだから、理屈上、この横穴は焼却炉の地下まで続いていることになる。
そうなると横穴―――、じゃないな。
これはもう洞窟だよね。
洞窟の奥行きは、数キロメートルは有るわけだ。
しかも、視覚情報がアテにならない以上、物理的なスケールを信じて良いのかにさえ強い疑念が残る。
ダンジョンの魔力に邪魔されて意識を集中しないと判別できないぐらいだけど、魔獣の気配も感じ取れる。
お母様と私の2人で踏み込むには、どう考えても危険が過ぎる。
さすがに屁理屈で押し切れる大義名分を超えてしまっているだろう。
お母様も私と同じ判断を下したようで、残念そうに溜息を吐いた。
「仕方ない。今日のところは諦めるとするか」
「・・・了解。地上に戻るよ」
反転した私たちは地上へと帰還する。
第一発見者、私。
第一侵入者、私―――、というか、私が生みだした“獰猛くん2号”。
第一施工業者、お母様とルナリアと私。
こうして私たちがほんの入口で引き返したダンジョンは、後に“水の迷宮”と命名されることになる。
冒険者に探索を依頼するに当たって最低限の侵入ルートを整備し終えたんだから、後は冒険者に任せよう。
日本人だと強く疑われる冒険者を“鉱山のカナリア”扱いするのは少し気が引け―――、ないな。
自分の胸に手を当てて再確認してみたけど、元同国人だからというだけの他人の安否なんて、ぶっちゃけ私はどうだっていい。
異世界人―――、こっちの世界の地元民だと思われる少女については、必要と有れば誰か護衛に就いて貰うことで対応する必要があるかも知れないけど、会ってみないことには何とも判断がつかない。
労働環境を整備することで、こっちの誠意は見せたんだ。
ドネルクさんと王様には悪いけど、その人たちには自己責任で頑張って貰おう。
第2次領有宣言㉖です。
命名!?
このお話で本章は最終話となります!
次話より、新章、第45章が始まります!
次回、利権!?




