第2次領有宣言 ㉔
相変わらずダンジョンは靄に包まれたような反応で内側を見通せないけど、それ以外は4キロメートル圏内をスキャンしてもほんの小さな生命の反応をいくつか見付けただけで、危険を感じるような反応は1つも見付けられなかった。
砦に向けて高度を落としているとお母様が溜息交じりに零す。
「空を移動すれば地上よりも危険が少ないので有れば、そうしたいところだが、部隊全体に習得させるのは難しいだろうな」
「・・・そうだね。習得進度が先行しているルナリアでも、まだ魔力の手は2本だから、部隊を作れるほどの人数となるとまだまだ先になるんじゃないかな」
航空戦闘が出来るようになるには、最低でも5本の「手」が欲しいと考えたんだっけ。
私の体験上、安定的な「飛行」―――、というか「歩行」には、6本以上の「足」を用いるのが望ましい。
戦闘を行うには「足」にプラスして攻撃用の「手」が必要になる。
何気に器用で習得が早いルナリアでまだまだなら、遠征直前に習得したピーシーズなんてもっとまだまだだ。
「人の成長は一足跳びには行かん。焦るなよ」
「・・・分かってる」
私を諫めるお母様の言葉は自分自身を戒めるものでも有るんだろう。
お母様の声色から、そう感じた。
あ。そうだ。
「・・・地上に下りる前に、迷宮へ放り込んだ廃棄物がどうなったか覘いて良い?」
「ん? ああ。処理済みの死骸を放り込んで帰ったんだったな」
お母様は採取作業を監督していたからね。
事前承諾を貰った上で行ったけど、ゴミ処理をしていたのは複数の魔力の手を同時に扱える私が主力だった。
私たちの撤退後にラクネが死骸に集りに来たかが気になるのと、もう1つ―――。
「・・・迷宮では死体の分解が早いって聞いたから、確認しておきたくって」
「安全確認が取れるまで迷宮には入るなよ?」
「・・・うん」
お母様に釘を刺されて頷く。
お母様と一緒なら無敵感は有るけど、万一のバックアップや警戒監視をしてくれるみんなが居ないのに、さすがに私だって無茶はしない。
気になるものを見付けてもいきなりダンジョンに飛び込んだりしないよ。
しないったら、しない。
気をつけよう。
「・・・いつでも逃げられるように上から覘くだけだから」
「ヨシ。見に行くとしよう」
お母様のGOサインが出て川の上空から防壁を跨ぎ、建物を跨いで中庭に「足」を踏み入れる。
すでに高度は10メートルほどにまで下がっていて、いつでも逃げられるように警戒もしている。
アクティブソナーも維持したままだしダンジョンの奥から魔獣が飛び出して来そうな反応もない。
大穴の縁に近付いて行くと、“抱っこちゃん”的に蜻蛉に抱き付いた体勢のまま制御を奪われた“2号”の爪先と両腕が見えてくる。
爪先から足を通ってコンニャク板を縦断する階段も設置したときのまま残っている。
あの階段、半端だな。
途中で尻切れ蜻蛉になって途切れてしまっている中途半端さが気にはなるけど、ぐっと飲み込んで我慢する。
あっちも気になるけど、こっちの方がもっと気になるしね。
「・・・死骸が減ってる」
「確かに少ないな。ラクネに食われたか?」
“2号”と大穴の隙間の空間を埋めるように蜻蛉や大蜘蛛の死骸を放り込みまくって、山のように死骸が折り重なっていたのに、今は放り込んだ死骸の半分も残っていないように見える。
そう言えば、ラクネが集った後の死体ってどうなるのか見てないな。
「・・・どうだろ? お母様はラクネが囓った痕って見たこと有る?」
「有るぞ。奴らは血肉を溶かして啜るようでな。噛み付いた牙の痕からドロドロに溶かされて、内側から筋肉も皮も腐り落ちる」
ほほぅ。「血肉を溶かして啜る」ね。
肉食昆虫にも蜻蛉や蟷螂のようにバリバリと獲物を噛み砕いて胃袋で消化するタイプと、蜘蛛やタガメみたいに消化液を注入して獲物の中身をチューチュー吸い出してしまうタイプが居たはず。
アシダカグモもそうじゃなかったかな。
「・・・消化液を注入して体細胞を溶解させるタイプかぁ」
「消化か。確かにそんな感じだったな」
要するに、捕食した獲物を体内で消化するか体外で消化するかの違いだね。
体外で消化してから吸引するタイプの昆虫は、樹液や蜜を吸う草食系の昆虫と体内で消化する肉食系の昆虫との中間に進化した生物と言える。
生物学上どうなのかは知らないけど、私はそう理解している。
そして、昆虫がどうなのかとダンジョンがどうなのかには全く関係がない。
私が今、問題にしているのは、“大量の死骸がどこへ消えたのか?”だからだ。
「・・・うーん? そんな感じには見えないね。アレ」
「そうだな。そのまま地面に沈み込んで行っている感じか」
「・・・だよね」
長時間撮影できる定点カメラが欲しい!
いやまあ。ダンジョンの中に持ち込んでダンジョンに直接触れた瞬間、カメラも浸透されてダンジョンの一部になっちゃうと思うけど。
「“迷宮は人を食う”か。統一国家時代の文献に有る一節だが、こういうことだったんだな」
「・・・昔の研究者さんもこんな光景を目にしたんだろうね」
私も目にしたことの有る文献の一節をお母様が諳んじて、私も同意する。
どう見ても、死骸が分解されてダンジョンに吸収されているように見えるんだよね。
もっと直接的に表現するなら、ダンジョンが死骸を食っているように見える。
お母様の目が魔獣の死骸からダンジョンの一部となった“2号”へ向けられる。
第2次領有宣言㉔です。
ダンジョンが捕食!?
次回、コンニャク坂!?




