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30 大好きな婚約者

 まだ完全に覚醒はしていないクララは今なら嘘はつけないだろう。


「ねぇ、クララ。この前はどうして僕のお家に来なかったんだい?」


 僕はクララが嫌がらない言葉を使って聞けることを聞くようにした。


「ジルがお風邪をひいたのでしょう? 会えなくなったと連絡がありましたわ。お見舞いに行きたかったのですけどジルの具合が悪いのに伺ったらご迷惑になるからと……」


 また下を向いてしまったので僕が覗き込むようにするとクララが顔をあげる。


「ジル。お風邪はもう大丈夫ですか?」


 小首を傾げて不思議そうに問う。僕は『僕の風邪』については否定もしないが肯定もしない。今はまだクララにアイツらの悪事を伝えるのは刺激が強すぎる。


「心配してくれてありがとう。クララ。

じゃあ、僕からの手紙は読んだかい?」


「ええ。一度お手紙くださいましたわね。引き出しにしまってありますの。お返事は届きましたか?」


 僕は何度も手紙を書いているし返事はもらっていない。

 一度だけもらったのは来訪を了承する手紙で僕も大切にとってある。その手紙なのかは確認できないがたくさん送ったはずの手紙が一つしか届いていないことははっきりした。それでもアイツらの仕業だとは今は言わない。


「ああ。僕からなかなか返せなくてごめんね。手紙を書いたらクララに会いたくなってしまうから。

ねぇ、クララ。もしかして寝むることができていないの?」


 クララの目の下には真っ黒なクマができている。


「わたくし、夢でジルに『ダリアナを虐めているそうだなっ! 婚約を破棄だ!』って言われますの。わたくし、わたくし……ダリアナを虐めてなんかいませんのに……うっ」


 クララが再び泣き始めたので僕はクララの背を擦った。クララの言ったそのセリフは夢の通りなら僕が言うはずだった言葉だった。クララの口から出た言葉であっても頭に衝撃が走った。

 クララも僕と似たような夢を見ているのかもしれない。


「わたくしはその夢を見るのが怖くて怖くて。もうその夢を見たくなくって。そう考えたら寝れなくなってしまいましたの。うっうっうっ」


 クララは顔を手で覆って膝にそのまま手をつけるように俯いて泣いてしまった。

 僕はその背を優しくさする。


「クララ。これだけを考えて眠るんだ。ジルはクララが大好きだ。

ほら。クララも言ってごらん」


「ジルはクララが大好き……

ジルはクララが大好き……」


 クララが小さい声でつぶやき顔をあげて僕の手をクララから握ってきた。


「ジル。ジル。わたくしもジルが大好きですの。ずっとずっと大好きでしたの」


「うん、うん。知ってるよ。

クララ。ありがとう」


 クララは今度は僕の手の上で泣いた。僕は空いている方の手でクララの背中を擦っていた。


 そこへメイドが二人入ってきたので僕は立ち上がった。


「体を拭いてもらうといい。きっと気持ちいいよ。温かいミルクもあるそうだ」


 クララが不安を隠さない視線を僕に向けてくるのを見て再び座ってクララの手を握った。

 

「大丈夫。呼んでくれればすぐに走ってこれるようにこの家の中にいる。クララを一人にしたりしない。終わった頃また来るね」


 クララは頷いた。メイドがクララの足元に跪きクララとお話をはじめたので僕はクララの手をそっとメイドに託して立ち上がる。


 僕はメイドの一人に公爵家の護衛を馬車まで呼びに行ってもらっている間にクララがカップの飲み物を口にしたのを確認した。少しは食べることができるようでホッとした。

 僕も一人でこの部屋から出るわけにはいかない。マクナイト伯爵夫人が何かしらの手段で先程の護衛たちを懐柔していたら危険だ。


 護衛が来たので席を立つ。


「応接室にいるから終わったら呼んでほしいんだけど」


「畏まりました。軽食もお持ちしたので一刻ほどいただくかもしれません」


「うん、丁寧に頼むよ」


 クララをメイドに任せて部屋を出た。

 一人の護衛に応接室に誰もいないことを確認に行ってもらう。


「体が細めで皮の胸当てを付けた護衛が二人くらいいたんだけど見た?」


「屋敷を出ていくのを見ました。我々に会釈をしていたのでギャレット公爵家の紋章を知っていると思います。ヤツラを掴まえてマクナイト伯爵家の様子を確認するべきでした。遅くなって申し訳ありません」


 僕の護衛は馬車の側で待機していたのだろう。


「用事があって出かけただけかもしれない他家の護衛に詰問なんてできないでしょう?

僕の方こそ連絡が遅くなってごめんね」


 護衛はかぶりを振った。

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