12 エイダの想い人
ボブバージル様とお会いできたのはよかったのだけれど三人でのお茶はとってもつまらなかった。お義姉様ったらまたいつものつまらない話ばかりするの。ボブバージル様はお義姉様のお話にお付き合いなさってるけどきっと嫌な気分になっているわ。
そう考えていたらお母様から救いの手が入った。
美しいエイダお母様。ドレスは侯爵夫人だったときのものだから古いって言っていたけどお母様の美しさならそんなこと気にならないわ。年齢に関係なくこれに見惚れない男はいない。私も早くそうなりたい。
お義姉様はエイダお母様に退室を誘われてびっくりしているけどこれは私とお母様で決めていたことなの。
それなのに帰ると言い出したボブバージル様にはびっくりしてどうしたらいいかわからなかったわ。でもやっぱりお母様は頼れるわね。ボブバージル様をさり気なく引き止めてわたくしとの時間を作ってくれた。
「いえ、お時間はかかりませんわ。
そうだわっ! ダリアナ。ボブバージル様のお相手をしっかりしてちょうだいな」
「わかりましたわ、お母様。ボブバージル様。お庭へ参りましょう」
「あ、ああ……。
クララ。待ってるよ。後で二人で話をしよう」
「ジル。……わかったわ。後でね」
ボブバージル様は最後までお義姉様に気を使えるなんて本当に紳士なのね。お母様の手助けのおかげで私はやっと王子様と二人になれた。
ボブバージル様と二人でお散歩に行くと私は楽しい話をたくさんした。私が庭師にやらせた庭をみてもらう。
「このお花はわたくしが植えさせたのですよ。お義姉様は全くお庭に興味がないようですの。淑女らしくありませんでしょう?
ですから、わたくしのお庭にしようと思いますのよ。きっと、ボブバージル様にもお気に召していただけるわ」
こんな素敵な人と歩けるなんてドキドキして楽しくてしょうがないわ。
ふと横を見るとボブバージル様が少しよろめいた。
「まあ、ボブバージル様。お疲れですの? お義姉様のお話って難しいことばかりで疲れてしまいますわよね。わたくしのお話ならきっと楽しんでもらえますわ。ふふふ」
私は東屋に連れて行って休んでもらうことにした。でもボブバージル様はなかなか触らせてくれない。
「大丈夫ですか?」
私はやっとボブバージル様の手を握りしめた。すると、今までにないほど鮮明に未来が浮かんできた。ボブバージル様がお茶をしたりお散歩したりしている私はいつも楽しそうだ。
『ということはこれからもこういう時間は続けられるのね』
しかし、ボブバージル様は本当に具合が悪いようで、ご自分の右目を覆うように手を添えていた。そして具合が良くならないまま帰ってしまった。
「次からはわたくしとボブバージル様が初めから二人になればお疲れにならないわ。エイダお母様に相談しようっと」
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私はエイダ。姓なんて何でもいいわ。女は男で姓は変わるのだからあってもなくても違いはないわね。
私は誰もが認める美女なのよ。そう生まれてしまったのだからしかたがないでしょう? うふふ。
両親にもお兄様にも似てないけどそんなことは気にもならないわね。両親が私の容姿で喧嘩をすることはあったみたいだしお父さんとは挨拶くらいしか話さないけど私の人生にとって小さなことよ。
貧乏子爵家だから私は自分のほしいものは自分で手に入れるしかなかったわ。貿易商の息子っていう男の子を味方につけて羽振りのいいおじさんたちを紹介してもらったの。おじさんたちとご飯を食べたりお話したりしてあげればプレゼントを山と積んだ馬車で帰るのよ。
「十七歳になったらワシのところへ来なさい」
いろいろなおじさんにそう言われたからみんなにオッケーって言っておいたの。貿易商の息子にはご褒美として時々キスをしてあげたわ。
そんなとき私はバリーと運命的な出会いをしてしまったの。私は十五歳だった。バリーは平民だけど仕立てのいいスーツを着ていてとっても背が高くて凛々しくて輝いていたわ。
『美しい私の夫はこの人しかいないわ』
私はバリーが経営する小売店におじさんたちからもらった物を持っていって格安で売ってあげるようになったの。でもバリーは私を決して個人的に誘ったりしてくれなかった。
「子爵家のお嬢様と俺では立場が違いすぎる。幸せにしてあげられないのに軽いお誘いはできないよ」
本当に紳士ですてきなバリー。女の子なら誰もが振り返るほどかっこいいの。みんなに向ける笑顔を私だけに向けてほしいわ。
私にあふれるほどのお金があればバリーを私だけのものにできるかしら。




