第38話
残念な描写があります。
間抜面を晒している茶髪の冒険者。周りも実彩の言葉に驚いている。てっきり貴族の出だと頭ごなしに決め付けていた者達など自分達の勘違いなのに真っ赤に染まった顔で実彩を睨み付けている始末である。
(バイエル国の王侯貴族は法で冒険者になることを定ためられているからてっきり貴族に対しての嫌悪感的なものは他国に比べて低いと思ったけど………そうでも無いのか?)
自分に向けられている(一部からであるが)敵意と怒り、嫉妬などといった視線を無視しつつそんなことを考える。
………悪意と敵意に対して敏感になり過ぎている為か、羨望や打算、興味心といった視線にはまったく気付いていない実彩なのであった。
「お待たせしました。突然のことで申し訳ありませんが、ギルドマスターがミーシャ様より直接お話しを伺いたいとのこと。つきましては此方の階段で最上階に在ります執務室までお上がりくださいませ」
「ふぅ……仕方無いか。ギルドカードの方は? すぐに貰えるの?」
「それにつきましてもマスターよりお話しがございますので直接マスターにお訊ねください」
「…………」
(報告だけじゃなくてギルドカードの方も何かあんのか?)
「わかった。そんじゃ、さっさと終わらせてくるか」
軽く言うと実彩はさっさと階段を登っていった。実彩を見ていた冒険者達は静まっていた静寂が嘘のように騒ぎ出す。
「マスターが直接話しを聞くだと!?」
「あのガキ……ああ見えてかなりの手練れか?」
「ギルドカードローブをボロボロにするようなガキがか? ギルドカードの管理は冒険者としての基本だぜ?」
「でもあの子、隙がまったく分からなかったわよ。少なくてもDランクぐらいは有るんじゃない?」
「いや……下手するとそれ以上だ。あれは間違いなくホンモンだ」
中には自分のパーティーに入れようと画策するものもいた。
ただ一人、実彩に直接喧嘩を売った茶髪の冒険者は───、
「ちくしょう……!!」
ギリッと歯を食いしばって実彩の居た場所を睨み付けていた。
階段を登り切った先には廊下とその奥にある一つのドア。その廊下を真っ直ぐ進み気負うことなくドアをノック。
「入れ」
その言葉に迷わずドアを開ける。
重厚感のあるソファーと黒塗りのシックの机。本棚には一目で希少品と判る魔導書が所狭しと陳列されている。
「良く、来てくれた。俺がこの町のギルドマスターのヤールだ。報告書は、アンドレアス様の意向通りギルド総本部に通達済みだ。その点は安心して欲しい」
男性らしい。低く、どこか耳に残るような心地良い。そんな、声。
「………」
その部屋の主は二十半~三十ぐらいだろうか? 短い髪をオールバックに整えて隙無く、上品にさえ見えるその佇まい。切れ長のその瞳は理知の光が煌めいている。
「座ってくれ。少し込み入った話をすることになる…………どうした?」
「……………」
無言。
実彩はドアを開けてからその場を一歩も動かない。まるで見えない何かに拘束されているかのように微動だにしない。
「──おい?」
話しかけられても実彩は反応しない。
ただただヤールの方を見詰める。
「………これは、どういう状況ですか?」
「!?」
「おー、リル。お前か」
ようやく実彩が反応を示す。
実彩の背後から幹部と思わしき女性───リルが現れた。部屋の異様な雰囲気を感じ取った彼女は、その視線をヤールに向ける。
「いやいや、俺をそんな目で見んな! あ゛ー……、
お前どうした? さっきから俺を見て固まってるが何かしたか? 俺?」
「……いや、その………別に…………………」
「?」
「?」
歯切れの悪い実彩に、頭の上に居たニトもどこか訝し気な目で見ているように感じる。
「まあとにかく座れ? 別に取って喰うわけじゃねぇんだから」
「!? べ、別にんなこと思ってねーよ!!」
「?! お、おお?」
「…………」
いきなり大声を出して強く否定する実彩に面食らうヤール。リルはピン! と来たのか急にニヤニヤと実彩とヤールの二人を交互に見始めた。
ドカッと勢いよくソファーに座る実彩の態度にヤールは困惑するが、時間が惜しいので取り敢えずは話をしようと正面に向かい合う。
リルは微笑ましそうに実彩を見ながら執務室に備え付けてある給湯台で淹れた紅茶を実彩に差し出した。
「どうぞ」
「………どうも、ありがとうございます」
素直に礼を言って紅茶を啜る。
…………ただし、ヤールにそっぽを向きながら。
「(マジで何なんだ? コイツ……)ん、んんん! まあ報告書に書かれていた内容を見させてもらったが、俄には信じがたいな。まさかコルト公国がここまで馬鹿なことをするとは……」
「あら? あなたがそんな顔をするほど? どれどれ、……、………、…………これって」
ヤールの読んだ報告書をリルも目を通す。その内容にリルの表情は硬くなった。
報告書には先にバズーラ家の嫡男の起こした禁術の元である魔石の出所がコルト公国である可能性が非常に高いこと。そしてバズーラ家の嫡男と腹違いの弟が、実は入れ替えられていたこと。その入れ替えもコルト公国が裏で糸を引いていたことが正式に判明。そして嫡男(偽)がバズーラ家の血が流れていない不義の子で、不義を起こした第二夫人が我が子を跡継ぎに据えるため正妻を殺したことが事細かく証拠もあることも踏まえて書かれていた。
「(コルト公国は何を考えているの?)」
「(知るか、下衆共の考えることなんざ。分かっていることはコルト公国は本気でバイエル国とタージマハル国、この二つの国を相手取る気満々だということだ)」
読み終わったリルが視線でヤールと会話する。
そして、報告書に書かれたもう一つの案件。これが実彩を執務室に呼んだ本当の理由。
改めて実彩に向き直ったヤールは…………。
「─────────」
無言で冷気を醸し出している実彩が居た。
「(だから何なんだよ!?)……この報告書によると随分と大手柄だな、お前。登録時でランクE評価。理由がコカトリスの雛を単独で狩る実力があると判断されたため。また希少な治癒魔力保持者であるが治癒能力自体は低い為、実用性はほぼ無し。が、それを抜かしてもコルト公国の工作員と思わしき魔術師相手に互角以上に渡り合い退けた……か。これならば上の連中も文句は言わんだろう」
「? 何の話だ? 私は報告書の説明に呼ばれたんじゃないのか?」
「いんや? 報告書の内容には特に目立った瑕疵はねぇからお前が呼ばれた理由はそんなんじゃねぇよ」
ニヤリと笑うヤールに速攻で顔を逸らす。
いい加減ムカついてきたヤールだが相手は成人仕立ての、自分とは一回り近く離れた子ども。しかも報告書によれば女。外見からは仮面とローブのせいで判別し難いが女。間違いなく女。
女は気紛れで気難しいもんだ。気にするだけ損だとヤールはため息を吐いた。
リルは二人から顔を背けているが、その肩は見間違えないほど震えている。
(コイツはコイツで何笑ってんだか……)
「じゃあ何で私はここに呼ばれたんだよ?」
「ああ。それはお前のギルドカードについて話さなきゃならないことがあるからさ」
ギルドカード・ローブ。
冒険者ギルドが発行しているギルドカードは全部でや五種類。
一つはクリストファーの付けていた腕輪
一つは少々凝った造りのピアス
一つはネックレス
一つが実彩の身に着けているローブ
最後にSランクのみが持つことの出来るカード
この五つである。
Sランクの証であるカードは兎も角として。
選択出来るギルドカードの中で冒険者が一番に選ぶのはブレスレット。無くしにくく最も扱い易いブレスレットはダントツの人気を誇る。
次にピアス。
ランクの証である魔力石を七個付けることから少し大振りになるが、女性冒険者には受けが良く、ブレスレットに比べるとやや扱い難いがそれでも一定の人気がある。ネックレスもこれに同じ。
さて、最後に残るのがローブだ。
元々魔術師自体が王侯貴族に集中する事もさることながらいざとなったら敵の攻撃を受けやすいローブはボロボロになりやすランクの証を示すものも魔力石では無く魔力糸。解れたり汚れ易い刺繍は緻密で見事ではある。ある……が、人気はあまりなかった。いや、そもそも希少な魔術師しか身に着けないローブを選ぶ冒険者はいない。しかも先祖返りの魔術師も基本は後援防衛に属して前衛に立つことが無い為かローブが補修するほどの損傷を受けることも無い。
が、それでも一応危険性の高い職業であることは変わらないのでボロボロになりやすく、かつ目印になるローブを選ぶ魔術師も少ない。選ぶのは大抵、魔術を過信する魔術至上主義者かもしくは己に自信がある者ぐらいなものだ。もっともそういった輩はすぐさま冒険者という職業について行けなくなるか、早々に依頼で命を落とすことになるが……。
「ということでローブはお前みたいに戦闘を中心に置くような奴には不向きなんだよ。お前だって何度もローブをボロボロにして再発行に金払うなんざ嫌だろう? ローブ作ってる職人はお前みたいな奴は嬉しいだろうが俺達ギルド運営者から言わせれば冒険者の必要以上に負担になることはさせたくない」
「だから、ギルドカードをローブから別のに変えろと? 一応、ローブは魔術を仕込めるからそれで強化しようと考えているんですけど?」
「いくら強化してもやっぱりいつか無理が出るわよ? それにローブを強化することを考える位なら自分の身を守ることを優先した方がずっといいわ」
リルの言う通りである。
強化魔術をローブに掛けるか自身に直接掛けるかではその効果は確かに差が出る。
リルの正論にぐぅの音も出せない。
「まあ、お前の場合は先祖返りで姿自体を隠したいということだから無理にとは言わないが。それでもこれから冒険者としてやっていくにはこのままだとちぃっとばかりキツいぞ?」
「……………」
黙り込んでしまった実彩にヤールはやれやれと思う。
(自分のことじゃないからとやかく言う義理はねぇけどよ。先祖返りとしてどんな姿をしてるのか知らねえがその姿で生まれちまった以上はどうしようもねぇだろうに………。そんなに嫌かねぇ?)
ピクピク動く耳を掻きながらふっと視線を感じて見てみると視線の主にやはりというか実彩であった。
(………………はぁ)
もはやため息しか出ない。
「ん~……。まあ、あのローブをそんなに気に入っているのならローブを造っている錬金術師に頼んでギルドカードの機能を付けない形で造ってもらうことも出来るけ「それでお願いします」………」
回答早っ!?
リルのセリフに被せるように実彩は即答。
これにはヤールとリルも唖然。
「そ……そう。じゃあそれでいきましょうか。一応オーダーメイドみたいな形になるから……やっぱり別料金が出ちゃうけど、それでもギルドカードローブよりは断然安いからそこは安心してね?」
「ちなみにローブに付いてる刺繍も変えるからな。ギルドカードローブと間違えられたらお前もこっちも困るしよ」
「わかった」
素直にコクンと頷く。
「………あ゛ー、んじゃそうそう事で。次の話だ」
「────次?」
何だ? まだあるのか?
「次はあなたのランクについて話があるのよ」
「………ランク?」
「そうだ。お前は今回の一件でDランクに上がることに決まった。んで、出来ることならこのままCランクの試験を受けてもらいたい」
いきなりのランクアップ。それも二ランク分。
「この一件で俺はギルドマスターとしてお前はCランク相当に当たる冒険者だと確信している。本来ならばDランク以上から試験を受けなくてはならないが、こんだけの功績作る奴がDランクレベルの実力がねぇなんて総本部だって言わねえさ。だがCランクからはそうはいかねぇ。あのランクは上位ランク候補者の証みたいなもんだからな。流石にあのランクからは総本部の代表だったとしても試験免除は出来ねぇ……」
ランク付けは公正にして厳格。
それが冒険者ギルドが掲げる信条。
「報告書にもあったがアンドレアス様からお前が別の依頼で旅を急いでいるのはわかる。だがな、依頼主による直接依頼はギルドを介さなくていいからランク関係無しに好きな依頼を出来ることと引換に受ける側の負担がデカい。何が言いてぇのかっていうと、お前の受けてる依頼はお前の実力は兎も角としてランクで考えると存外と言っていいレベルだ。これがバレたらギルドの信用もそうだがお前の信用にも関わる。高位冒険者になる可能性が高い奴をそんな目にはあわせられん」
つまりは、依頼内容と実彩のランクには差が有りすぎて知ったからには冒険者ギルドとして無視出来ない。でも実彩の実力ならばもっと上のランクに上げることが可能なので一度Dランクに上げてからCランクの試験を受けろ、ということだろう。
だが………。
「試験を受けること自体はやぶさかではないけど報告書にあった通り私の旅は急ぎの旅だ。悠長に試験を受ける時間はないんだけど……」
「あら。その点はある意味大丈夫だと思うわよ?」
「?」
訝しる実彩にリルはあっさりと告げた。
「Cランクの試験日、明日だから♪」
結果として、実彩はランクアップの試験を受けることにした。試験の結果が明後日までには出るとのことで、それならば対して時間を喰うわけではない。むしろ受けない理由は無くなったとばかりに試験内容を聞いて意気揚々と実彩は執務室を後にした。
「ふー。まったく、何なんだ、アイツは? 頭にウサギ乗っけてるし………」
「ふふふ。まだ分からないの? お馬鹿さんね♪」
実彩が執務室を出ていってから、ヤールは実彩の自分に対する態度をリルと話していた。リルは疑問符を浮かべるヤールに、どこか呆れたような、微笑ましいと言わんばかりの視線を向ける。
そんなリルにムッとした視線を寄越すヤール。
「コレばかりは自分で考えなさいな? それが男の甲斐性よ?」
「?? ますます判らん。何なんだぁ? お前も」
「ふっふっふ~」
意味深な笑顔をするだけで答えるつもりのないリルにヤールは諦めた。この状態のリルに何を言っても無駄だと長年の経験から知っているからだ。
「にしても……。僅か三ヶ月あまりで一気にCランクか………。これまた随分な大型新人が現れたもんだ」
「あら? まだあの子が受かるとは決まったわけではないわよ?」
「心にもないこと抜かすな。お前だってアイツが受かると思ってるくせに、たくっ………」
ダラーンとソファーに仰向ける。
「最短新記録になるな。今の新人からCランクまでの最短記録は……確かガルーダ国の冒険者が叩き出した半年だったよな?」
「そうね~。でも彼、それから伸び悩んでいるって風の噂で聞いたわよ~?Bランクからは試験に貴族への礼儀作法が付くけど彼の場合、肝心の実力試験で落としているって」
「スランプか? まあ、よくある話っつたら話だが……」
今の問題はガルーダ国の彼ではなく、明日の試験を受ける実彩だ。彼女の実力で、試験を突破出来ないとしたらそれは……。
「アイツ………。人を、殺せるのかねぇ?」
「………さあ?」
試験内容の最大の難関それは、
─────人を、殺すこと。
「んー……」
適当な宿に入った実彩は久しぶりのベッドの上で微睡んでいた。枕元にはニトが眠っている。
いきなり決まったCランクへの試験。帰りの受付で渡されたピアスを、実彩は弄ぶ。
七個の魔力石の付いたピアスは鈍い光を放ちながら確かに実彩の左耳に付けられている。扱い易い腕輪にしないのかとリルに言われたが、それだとクリストファーとお揃いである。一番人気のギルドカードなので腕輪を付けているものはそこらかしこに存在するのは頭では分かっているが、それでも何となく嫌だったのでピアスにしたのだ。
「んー………」
耳元のピアスに付いている魔力石は七個の内四つの魔力石が金色に輝いている。
Cランクへの試験内容は盗賊の討伐。
この町近くの山中に十数人からなる盗賊団が商団を襲っていると商会ギルドからの依頼だ。
それを今回のCランク試験の内容に決まったのだ。
「んー……………」
リルによって錬金術師にローブを特注した結果、試験結果の出る明後日までには完成するそうだ。
それは、いい。
今実彩が気になっているのは冒険者ギルドで出会ったヤールのことだ。
執務室のドアを開き、彼を始めて見た瞬間、実彩は一瞬にして呼吸が止まった。周りの音も風景も何もかもが遠くに感じ、視線はたった一つのものに固定されてしまった………。
そう、存在だけならば知っていた。多くの本にも利用される。その、存在を。
ゴロンとベッドの上を寝転がる。
予想外だった。自分がよもやこんな状態になるなんて………。先ほど別れたばかりなのに、どうしても彼ことを考えてしまう。
頭の上にピョコンとあるフワフワフサフサの三角がピンって真っ直ぐに立っていて時々ヒョコヒョコと動きながらこちらを誘惑してくる!!
獣人。
人と獣の特性を有する種族。
体の一部に生まれ持った獣の証がある者。
めちゃくちゃモフりたいーーーーーー!!!!
セフィロト『ガッカリだよ実彩ちゃん!!』
丹下『仕方ないよ。実彩だし』
セフィロト『ヤールって人に一目惚れしたのかと思ったらモフりたいって………何そのオチっ!?』
丹下「モフり成分は女子の癒やしなのです!」
セフィロト『ニトがいるじゃないか!』
丹下「ニトは、モフらせてくれません。実彩の血から創ったせいか彼女の性格を濃く受け継いでるからね、あの子」
セフィロト『恋愛は!? れ・ん・あ・い! あの受付嬢のリルって人、絶対勘違いしているよ!!』
丹下「……………………プッ」(*≧m≦*)
セフィロト『波乱の予感が!?』
次回、お楽しみに~~~。




