第37話
今回は筆ならぬタッチが進んだので少し長いです!
では、どうぞ~~!
頭の上にニトを乗せながらスカイを出て早四時間が経過した。まともに旅らしい旅が出来なかった実彩はアンドレアスに指定されたふた月までに国の境界線にある街まで着けばいいと、割とのんびりと歩いていた。
アンドレアスに指定された国境の街の名はカーター。巨大な砦に護られた要塞街。戦争が始まれば最前線で戦うことになるその街はリメスにいる英雄アレンの故郷であり、腕すぐりの冒険者や騎士団が犇めく実力の街。
国境沿いの渓谷にはランクC以上の魔獣が生息する『特別超危険区域』指定されている、何とも心踊る場所があるらしい。
だが先ず行わなくてはならないのは実彩のギルドカードの再発行である。リュックの中にはボロボロのギルドから支給されたローブが入っている。
このローブが実彩のギルドカードなのだが………スカイでの一戦で使用不可能になるほどの損傷を受けている。
本来は前線に出ず、後援担当する者の方が圧倒的に多い魔術師。これは詠唱が必要な為、攻撃魔術を使える魔術師も自然と前線には出ないからだ。
実彩は例外として、クリストファーのように積極的を前線に出ようとする者自体稀である。余談ではあるが、リメスで戦ったマロリーも魔術師の弱点と長所をよくわかっていたので多数の私兵騎士を使ったりゲリラ戦のような戦術を使ったのだ。
……何が言いたいのかというと。
ギルドで支給されるローブは魔術師自身が前線に出ないし術式を好きに附属出来るようにあえて何の強化もしていない。
つまり、支給されたばかりのギルドカードローブはただの洒落た布切れレベルの強度しかない。ぶっちゃけ脆いのだ。
(こんなことならとっとと強化系の術式でも組み込んどけばよかった……)
暢気に昼寝を始めたニトを尻目に実彩はリュックから一冊の本を取り出した。
セフィロトが実彩に渡したこの世界と魔術について事細かに書いてある便利本。
パラパラと捲りながら使えそうな術式はないかと目を通しながら歩く。
「…………」
暢気に昼寝を始めたニトと黙々と本を読みながら歩いている様子は少し(かなり?)異様であったがそれを気に止める他人の目もそれを突っ込む人も居ない。
(ふーん……。この術式は使えそうだな。でもこっちの術式との併用は出来ないのか。んー、……お? これも中々いいな。攻撃してきた相手の魔力の一部を術式対象者に還元させて防御力を上げさせる………? あっ、でもコレ使用条件が私に合わないな。基本、魔術師は後方支援型だからどうしてもこういう術式になるのか………)
うんうん唸りながら更にページを捲る。
実彩の唸り声が五月蠅かったのかニトの耳がピクピクと動かしながら前足でパシパシと頭を叩いている。
(取り敢えずはこの耐久性を上げる術式と防寒耐性の術式と………後は、この隠密性を上げる術式を組み込めばいいか。今んところはこんなもんでいいよな)
その他にも幾つか目星のついた術式を頭に入れる。
(………そろそろ昼飯時か)
実彩は今朝作っておいた惣菜パンと台所にあった干し肉をリュックから取り出した。
実彩が出てきたスカイから目的地のカーターまで約ひと月半かかる。約半月近くの余裕はあるが、なるべく早くカーターに着きたい実彩は歩きながらパンを食べていた。
食べている実彩を頭の上から見ていたニトは自分も食べたかったのだろう。頭をヒョイと突き出して自分はも寄越せ! とばかりに実彩の額にウサギパンチをペチペチと叩いてくるのだった。
「はぁ。……はいはい。いまやるよ」
頭にいたニトを肩に乗せ直して千切ったレタスをニトに差し出した。
「ほら、………え?」
しかしニトが食べたのはパンに挟まれいた肉。
タレの付いた柔らかい肉は、どうやらニトのお気に召したらしい。そのまま更にかぷっ、かぷっと食べ続ける。
(……………この肉、ウサギの肉なんだけど………これって共食いなんじゃ……………)
でもニトはそもそもセフィロトが砂鉄と実彩の血から創造した使い魔だ。
(だったら共食いにはならな……………くないわけないか。だって、ニトはどこから見てもウサギだし)
微妙過ぎるその光景に、流石の実彩も食欲が失せてしまった。
挟んであった肉をほぼ食べきったニトは再び実彩の頭の上に戻って日向ぼっこを始める。実彩はやれやれと残ったパンを再び口に運ぶのであった。
スカイを出てから丸三日目。
旅の道中何事もなく進むことが出来た実彩はようやく冒険者ギルドがありそうな町に到着した。
先ずは門番にアンドレアスから貰った通行書を渡す。上位貴族からの通行書に門番はかなりビビった。
「ひぃ…! き、貴族の方の縁者とはつゆ知らず失礼致しました! どっ、どどどどうぞ、お通りくだしゃいませ!」
「………どうも」
いくら何でもビビり過ぎだし舌が回ってないぞ。
内心呆れながらも門番に軽く会釈して実彩は約三日振りに人の喧騒の中へと足を踏み入れた。
「………ひぃいいい!!」
─────背後から聞こえてきた門番の悲鳴は無視して。
(思ったよりも治安の良さそうな町だな。町自体も明るい雰囲気だし)
あちらこちらから聞こえる人の賑わいに軽く微笑んで実彩は近くの露天商の商人から冒険者ギルドの場所を聞いて早速そこへ向かったのだった。
「おい、聞いたか?」
「あぁ、───のはなしだろ? おまっ、そんなの今更だし」
「ねぇ~~お姉さん。今度オレとデートしね?」
「業務外ですのでお断りします」
「あのよぉ。例の話は……」
「あれは……、駄目だね。危険すぎる……」
「今日は儲けた! 酒だ酒!!」
ギルド内は屈強な冒険者達がガヤガヤと騒いでいた。受付嬢を口説く者に情報交換に勤しむ者、依頼金で酒を呑むもの、ボードに張り付けられている依頼書を吟味している者と様々だ。
そこに珍妙な格好をした子どもが入り込んできた。
キィィ──と扉から入ってきた子どもは灰色のローブに仮面を着けて見た目からでは性別が判らず。
依頼を頼みにきた者にしてはあまりに怪しく、かといって冒険者かとは思えない格好に先ほどまで騒いでいた冒険者達は一斉にに静まり返った。
「………」
カツカツ、カツカツカツカツ。
入ってきた子どもの規則正しい足音だけがギルド内に響き渡る。
子どもはカウンターの前にくると、リュックから取り出したボロ布をカウンターの上に置いて目の前にいた受付嬢に差し出した。
「すみませんが、ギルドカードの再発行をお願いします」
ボロ布はよく見ると………なるほど。確かにギルドから支給されるギルドカードローブで間違いなかった。カウンターにいた受付嬢は背筋を伸ばして改めて目の前にいる子どもに話し掛けた。
「ギルドカードローブの再発行ということは魔術師の方ですね? 再発行には銀貨二枚となりますがよろしいですか?」
ギルド内にどよめきが広がる。
魔術師。
体内に宿った魔力を使って理をねじ曲げ、神秘を発現される奇跡の業。
だが魔力は誰でも使えるわけではない。こと人間に関しては魔力は血によって継承するため、魔力持ちは王侯貴族に限られる。
先祖に、異種族と交わった者がいれば先祖返りの可能性もあるが───。
実彩はリュックから新たに手紙を取り出した。そしてその手紙を黙ったまま受付嬢に差し出す。
訝しりながらも受付嬢は実彩から手紙を受け取った。その手紙には差出人の名前は無かったが裏の封閉じに蝋で捺されている紋章を見て─────戦慄した。
(これって……。この、紋章は───!?)
内心がどんなに乱れてもそれを微塵も表に醸し出すこともなく、にこやかな微笑みを浮かべている様は───流石、プロだと言わざる負えない。
「申し訳ありません。今、この手紙をマスターに渡してきます。………少々お待ちください」
そう言って受付嬢はカウンターを放れていってしまった………。
え? マジで?
ザワッと、ギルド内にいる全ての冒険者が驚愕の声を挙げる。
(マスターって………ギルドマスターのことだよな………?)
(受付嬢が言うマスターつったらそれ以外に誰がいるんだよ…………)
(何であんなガキに………)
(そんなの………あの子が、お貴族様だからでしょう?)
(でもよ、貴族があんな格好しているか?)
(庶子なんじゃねーの?)
ボソボソあちらこちらで実彩のことを話している冒険者達を、実彩はスッと振り返った。
途端に周りの冒険者は黙る。
実彩に向かって嫌悪と敵愾心の視線を向ける者。黙って成り行きを見ながら実彩の出方を観察するもの。
大きくこの二つに別れた。
「あ? んだよおチビちゃん。なーんか言いてーコトでもってあんのかよ? なぁ?」
「…………」
実彩に敵愾心を向けていた茶髪の冒険者が挑発してくるが、実彩はフッとすぐに視線を外した。
「んな゛!?」
無視された形になった茶髪の冒険者は顔を赤くして、その形相は怒りに満ちている。
他の冒険者の中には実彩を挑発した茶髪の冒険者を笑う者もいた。
「っつ! ……上等だよ。テメェ……表出ろや、お貴族様! それともなんだぁ!? 俺達平民如きじゃあ相手出来ないってかぁああ!? あ゛ぁあああ!! 顔すら曝すのはガマンなんねぇってかぁあ!!!」
いきり立つ茶髪の冒険者に、実彩は視線すら向けることなく、一言。
「盛大に勘違いしているところ悪いけど、私はお貴族じゃない上に庶子でもないから」
「……………………………………は??」
「魔力持ちは単なる先祖返りだ。さっきのは此処にくる前に受けた依頼の一環で生じた問題についての報告書みたいなもんだ。ついでに私のギルドカードローブの金を肩代わりしてくれるっつうオマケ付きではあるだけどな」
「…………………………………………………え?」
事実である。
実彩は事前にアンドレアスから書状を渡されていた。渡された書状は門番に渡した通行書。先ほど受付嬢に渡した冒険者ギルドに対しての報告書とあと一つ。
挑発も怒りもぶつけられず不発に終わってしまった茶髪の冒険者は口をパクパクさせるのだった。




