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第29話



周りの状況についていけず生ける石像と化したリュカに、とりあえず魔力を鎮めさせようと実彩は声をかけた。



「リュカ、呆けるのは後にしろ。お前が暴走させている魔力を早く治めないと最悪、この屋敷どころかスカイにまで被害が出かねないぞ」


「ふぅあぁい!?」



実彩の言葉に飛び上がらんばかりに驚いたリュカは立ち上がりオロオロしているかと思ったら、はたと再び硬直した。


ギギギと音がするかというほどゆっくりと首を実彩の方に向けて顔を引きつらせている。



……嫌な予感しかしない。



「あの~……。ミーシャさん、魔力を鎮めるのはどうやればいいんでしょうか………?」


「は?」



今何つった? コイツ………。



「……お前……。まさか………」



すぐさまはじき出した答えに実彩の顔もつられて引きずりだす。



頼むからウソだと言ってくれ。



「魔法自体使ったことがないので、魔力の抑え方が分からないんです! どうしたらいいんですか!?」


「ざっけんなお前ぇぇぇえええええ!!!」


「すみませぇぇぇえん!!」



泣きべそをかくリュカ。

こちらが泣きたいわ!!



「と、とりあえず深呼吸しろ! 大きく息を吸ってゆっくり吐け!! まずは気持ちを静めることから始めるんだ!!」


「はい゛!」



緊急魔力指導、開始である。


その頃、クリストファーは実彩に言われたとおり第二夫人ローゼと執事を探していた。

爆発が起きてすぐに爆発源の下に向かっていたていたクリストファーはその間にすれ違ったりした人や逃げ出した人を見なかったことから二人はまだ近くにいると推測し、背後や頭上から時々飛んでくる瓦礫の欠片に対処しながらまだ屋敷で無事場所から虱潰しで探していた。


しかし、



「どこにもいない。この屋敷から去った人は見ていないのに……」



何故見つからない? 二人はどこに消えた?


 一瞬、リュカを攫った時の移転魔法のことを思い出したが、あれを使うには莫大な魔力がいる。あの二人の魔力を合わせても恐らくは足りないだろう。



……いや、ちょっと待った。



「リュカ殿が暴走させた魔力がある!」



だがはたして暴走し、暴発した魔力を移転魔法に転用することは可能なのか? いや。可能だったと仮定したとして、移転魔法それの発動を実彩が見逃すなどあるのだろうか? 遅れを取ったとはいえ、リュカが浚われる直前にすぐさま反応した彼女が? ………どうにもしっくりこない。



「ん?」



先ほどまであれほど荒れ狂っていた魔力の渦が、少しずつではあるが晴れていく……。どうやら実彩は無事にリュカを鎮めることが出来たようだ。



「……ふむ」



ここは一旦二人の下に戻ってみるのもありかも知れない。


このまま宛もなく探すより何か知っているであろうリュカに聞いた方が早そうだ。実彩とクリストファーはリュカが魔力を暴発している間に第二夫人と執事が逃げ出すであろうと考えて二手に別れたが、かの二人は一向に見つかる気配はない。



(手土産無しに戻ったらミーシャさんに嫌みを言われてしまうでしょうが、致し方ありません)



役立たずという声が聞こえた気がする。


クリストファーは踵を返し、来た道を戻る。

その背中に哀愁が漂っているのは、けして気のせいではないだろう……。
















「あ゛ー……。第二夫人と執事は見つからんかったか。わぁーたよ。とりあえずそこでくたばってるリュカに話聞いた方が早そうだ」



意外なことに実彩からの嫌みはなかった。


クリストファーからの話しを聞いた実彩は隣でへばってうつ伏せに倒れているリュカに視線を送る。リュカは初めての魔力制御に早々にダウンした。自身の魔力を鎮めることこそ出来たが、その負担は計り知れず、リュカは鎮めきった瞬間に倒れた。


クリストファーは嫌みを言われなかったことに驚いた。そんな様子のクリストファーに実彩は顔をしかめる。



「何だぁ? その顔。こちとらそこのヘタレに付き合ってヘトヘト何だよ」


「……あぁ」



疲れていて嫌みを言う気力がなかったのか。



「それに……。言っただろ、あの執事。何か引っかかっる、って。バズーラ家に………第二夫人に仕えていた奴だ、有事の際の奥の手を持ってたとしても不思議じゃあない」


「…………」



単純にクリストファーに瑕疵がないと思ったからの結果だったようだ。



「……すみません」


「だから、別に気にしてねぇって。謝んな」



違うんです、ミーシャさん。



二人を見つけられなかった → 手土産無し → 


実彩、静かに怒る → 嫌みを言われる



という図式がクリストファーの頭にあった。

実彩は役割をはたしているので役立たずだったクリストファーは馬鹿にされるだろうと決めてかかっていたのだ。



そういえばこの人、妙に真面目な部分がありましたね……。



どうやら自分は随分と卑屈になっていたらしい。



「……母上とジェイルは、秘密の地下室にいるはずです」



今まで黙っていたリュカが実彩とクリストファーの会話に割って入った。



「地下室? 偏見かもしれないが貴族の屋敷の地下室って牢屋か表に出せない身内を幽閉する部屋ってイメージがあるんだけが……違うのか?」


「……まぁ、間違ってはいませんが。僕も少し違和感があります。普通、隠れあり隠したりするならそれ専用の隠し部屋があるはずです。それなのに地下室ですか?」



地下だと有事の時に逃げたり、隠していた財産を持ち出す時に不利なためそういった部屋は地下には作らない。


だがリュカの言うとおり第二夫人と執事・ジェイルが地下にいたのなら二人が見つからない理由には納得する。

それに……。



(地下ならリュカ殿の魔力の暴発に巻き込まれずにすみます)



完全なる盲点だった。



「リュカ。お前さ、何があった。何で魔力を暴発させたんだ? その髪と瞳もだ。あの二人に何をされた?」


「…………」




リュカの髪は白金色に変わり、瞳の色も蒼天を思わせる蒼に変わっている。

途端に無言になるリュカに実彩とクリストファーは訝しる。うつ伏せになって顔は見えないがリュカの身体が震えているのは分かる。………本当に何があったのか。



「…………………たんです」


「ん?」



くぐもって聞こえない。

するとリュカは、今度は大きな声ではっきりと言った。



「母上が、私は正妻であるソニア様の御子だと。そして産褥のおりにあったソニア様を自分が殺したと!!」


「何ですって!?」


「……へぇ」



あまりにも重大な事実に、クリストファーは驚きの声を上げ。実彩は笑みこそ浮かべているが眼光は刃のように鋭くなった。



(リュカが正妻の子? 正妻の日記に書かれていた『妖精悪戯』はなかったぞ?)



バイエル国からすれば快挙だろう。

マロリーの犯した大罪のせいで亡国の危機に陥っている国からすればマロリーは第二夫人ローゼの思惑により正妻の子と入れ替われた偽の嫡子だ。ここで第二夫人の罪を明らかにし、他国から嫁いだ第二夫人が母国の思惑によって息子を使いバイエル国を貶めようとした。


無理やり感は否めないが、そうしなうとバイエル国はその歴史を閉ざすことになるだろう。


……第二夫人の母国からすれば堪ったものではないが。


レタック伯の足掻きが実った瞬間だった。けれど。



「話せ、リュカ。一体何があったんだ」



リュカに妖精の悪戯がなかったこと。弱小魔力だと思っていたにも関わらず実彩に張る最上位魔力を発現し、髪や瞳の色が変わってしまったこと。疑問はつきない。


リュカはゆっくりと起き上がった。



「……私がミーシャさんとクリストファーさんから離されて屋敷の一室に召喚されました。その時に母上………。第二夫人に仕えている執事のジェイルが私の前に現れて第二夫人が私を呼んでいると言われたんです」



リュカは実彩とクリストファーに自分の身に起こったことをポツポツと話し始めた。



第二夫人に仕えているジェイルに連れられてはリュカは屋敷の廊下を歩いていた。ひと気のない廊下。


リュカが物心ついた頃。この屋敷にはバズーラ家に誠心誠意仕えてくれていた使用人がたくさんいた。

第二夫人の子であったリュカにも使用人達はとても優しく、親身になってくれた。兄であるマロリーが癇癪を起こしリュカに対して暴力を振るおうとした時も皆がかばってくれた。



でも、今ではそんな人達は居なくなってしまった。



母ローゼがただの使用人風情がバズーラ家の正統後継者であるマロリーのやることに楯を突くだなんて不敬であり、そのような身の程知らずは出ていけ。と父ロイドの許可も求めずに勝手に解雇していったのである。そして辞めさせられた人達の代わりにきたのはローゼの息の掛かった人間達であった。


しかし、ローゼとマロリーの横柄な態度に新しくきた使用人達も次第に二人に怯えていくのだった。


そしてマロリーが起こしたある事件をキッカケに使用人達は給料もそこそこに一斉に辞めていった。マロリーはその事件のせいで他領にある冒険者ギルドに冒険者登録をすることになったのだ。



「ご母堂様はこちらでお待ちになっております。どうぞ、お入りください」



ジェイルに案内されたのは、なんと今は亡き正妻であるソニア様の部屋だった。



「……本当に母上はここに?」


「えぇ。こちらでお待ちになっております」



困惑した顔でジェイルを見つめてしまう。

ローゼは亡きソニアを心底嫌っていた。ロイドの寵を独り占めしたかったローゼにとってソニアは目障りだったのだろう。



そんな母が、ソニアの部屋にいる?



どうぞという声と共にジェイルがドアを開ける。

そして部屋の中には確かにローゼの姿があった。ローゼは背中を向けて部屋に備え付けてあっただろう椅子に腰掛け外を眺めていた。













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