第28話
魔力の爆発の発生源がリュカだったことに流石の実彩も驚きを隠せなかった。
クリストファーにしても予想外の展開に目を見開く。二人にしてみたらリュカは弱小魔力の持ち主という認識が先行しているのでまさか爆発を起こしているのがリュカだとは予想外すぎたのだ。
だが何時までも固まっている場合ではない。
リュカが発している魔力の渦は少しずつ拡大を続いている。このままではいずれ、スカイの街を飲み込んでしまうかもしれない。……リュカが起こしている爆発は、それ程のものなのだ。
しかも最悪なことに、リュカはどうやら意識が飛んでいるみたいなのだ。実彩達が近くにいるにも関わらず気付いていないのがその証拠だ。
(ウソだろ、おい。この爆発の原因がリュカだと!? アイツの魔力は弱小だった筈だ! だが現実にはどう見てもアイツが起こしているようにしか見えないし……。一体どうなっているんだ?)
隣を窺うとクリストファーも困惑しているようだ。無理もない。
(しかしマズいな…。この爆発の原因がリュカだとすると下手に手出ししたらアイツにも何かしらのダメージを負わせることになる。出来るなら無傷で保護したかったんだが……無理だな。むしろ五体満足で止められるかすら危ういぞ。───くそっ! 何でアイツあんな事になってるんだよ!! しかもよく見ると今まで纏っていた靄まで消えてるし。どうなってるんだよ……ホントによ!!)
リュカが纏っていた靄は綺麗サッパリとなくなっていた。変わりに纏っているのが魔力による光の粒子だというのだから笑えもしない。
するとリュカの光の粒子がゆらりと揺らぐ。
「……っ! ヤバっ!! クリストファー! 私の後ろに下がれ!!! 特大の波が来るぞ!!」
「!!?」
間一髪。実彩は爆発的に広がる光の粒子の波が自分達にぶつかるよりも速く結界の強化をすることが出来たが、変わりに更に魔力を消費してしまった。
それ程までにリュカの魔力は強かった。
意識がない分、自制されてない魔力は危険極まりなかった。
でも──。
(あぁ……。本当に勘弁してくれよ)
ワクワクしてしょうがない。
実彩はとても愉しそうだった。
いくら考えたって仕方ない。
有効な手段も援軍も戦力も無い以上、立ち止まったところで被害は拡大するのみ。ならば無謀ではあるだろうが特攻する他はないだろう。
そしてあの魔力にまともにぶつかることが出来るのは実彩だけだった。
「……クリストファー」
「ハァ……。分かってますよ。僕は後ろに下がります。一緒に行きたいのはヤマヤマですが僕ではこの魔力の渦に耐えることが出来ません。どうするつもりかは分かりませんが、あまり無茶しないでくださいよ。……リュカ殿が死にます」
「私の心配じゃなくてリュカの心配かよ。お前さ、最近私に容赦なくね?」
「むしろ貴女は、少しは痛い目を見てください。そして自重を覚えたらどうですか?」
「無理だな。唯我独尊。ただひたすら、我が道歩むのみ」
「言い切るな」
実彩は軽く笑うと改めてクリストファーに向き直る。冗談もじゃれ合いもここまでだ。
「第二夫人ローゼとその執事を探せ。特に執事。アイツなーんか引っ掛かる。多分第二夫人と一緒にいるはずだから容姿が分からなくとも何とかなんだろ」
「そんな適当な……」
移転魔法のこともある。魔法が発動したということは術者がいるということ。
だが今は。
「代わりに私がリュカを完全に止める。その間に見つけて捕らえろ。リュカがこうなった原因を聞き出せ。リュカを止めている間は私の結界を解かなくちゃならない。……私がリュカに向かったらすぐに行け」
「……分かりましたよ。リュカ殿を頼みましたよ」
いくら気に入らないとはいえ。クリストファーとてリュカは心配なのだ。そして実彩も。
「んじゃ行くか。タイミング合わせろよ。…………。………………っ、今だ! 走れ!!」
そして二人は駆け出した。
リュカは昏い昏い闇の中にいた。
目を塞ぎ、耳を塞いで自分の殻の中に閉じこもってしまったのである。
それは自身に対する憎しみと母であるローゼに対する憎しみ。兄であるマロリーへの憎しみ。無力に対する罪悪感。身勝手に対する嫌悪感。無知であることの悔恨と羞恥。………そして愚かさに対する妬みに嫉み。
もう、嫌だ。何もかも。消えてなくなってしまいたい………。
「………」
膝を抱えてうずくまっているリュカはふと、何かが近づいてくるのに気が付いた。
目も耳も塞いでいるにも関わらず、何故かリュカには感じることが出来た。
でも、顔を上げる勇気がなかった。
身体も重く、もう動こうという気力すら湧かなかった。もう、眠りたい。眠って、穏やかで優しいこの闇に包まれながら安らぎに身を任せてしまいたい。
そう思い、リュカは意識を閉ざそうとした。
「…………っ、!?」
グアッと首もとを引っ張られたと思ったら、そのまま胸元を掴み上げられた。
驚いて瞳を開いたらそこには────。
「よお、リュカ。テメェー、一体何し腐りやがってんだ? あ゛? 寝ぼけてねぇで目ぇ覚ませやこんボケナスが!!!」
とても凄みのある実彩の笑顔を認識した瞬間。リュカは顔に衝撃を感じ、殴り飛ばされた。
(うんよぉし! 一発入ったああ!!)
リュカの顔に見事に決まった右ストレート。
その勢いのまま後ろにのぞけって倒れてこんでしまったが、実彩はあろうことか倒れこんだリュカを踏みつけた。
「言いたいことは、まぁ色々あるが……。とりあえずよぉリュカ。お前さ、周りの状況。どうなってるか分かってんか?」
「え?」
引っ張れられるわ胸倉掴まれるわ踏みつけられるわ立て続けに見舞われる暴力にリュカの思考がついていかない。
「え、え??」
「呆けてないでさっさと鎮めろ。これ以上は流石にキツいんだよ」
「え? ………ええぇええええ!!?」
周りの荒廃ぶりに頭が真っ白になっていくリュカの姿に、呆れ顔になる実彩。
あ゛ー……。やっぱり無意識でやってたか。この馬鹿。さーてと、これからどうすっかなこの状況。




