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第26話

すみません。短いです。




胸が震える。心臓が痛いくらいに耳の奥で鳴っているのがわかる。


身体が震えいるのが自分でも感じられるほどだ。きっと近くにいるクリストファーにも伝わっているだろう。



だが今はそんなことはどうでもいい。



実彩は常に追いかける側だった。

父親と母方の祖父と伯父。そして何より従姉妹であった喜與子を物心ついた時からずっと追いかけてきた。



……こちらの世界に来てから実彩の心を震わせる程のモノを無意識で求めていた。



本人にその自覚はなかったが、越えたいと思える対象を失っていた実彩は、こちらの世界に対して怠慢なところがあったのだ。リメスの『狼の牙』と呼ばれているアレンを、確かに強者と認めていてはいるが、それでも物足りなさを感じていたのも事実だった。



異世界というものはこの程度なのか? と。



だがそんな実彩の認識はたった今目の前で覆された! 実彩と張るであろう強い魔力の暴発!! 自分の唇が上がっているのを感じる。






この震えは歓喜の震えだ。













突風に曝されながらクリストファーは必死でその場から飛ばされないようにふん地場っている。たまに飛んでくる障害物は実彩の魔法によって弾かれていた。



(不味いですねぇ……このままではっ!?)



実彩の方を確認すれば、そこには何と傍若無人であった彼女が身体を震わせているではないか! これにはクリストファーも状況を忘れて息を呑んだ。


彼女が震える程の人物が、この爆発を起こしているというのか? 果たして震えている実彩に劣る自分ではどこまで出来るのか? いや、着いていくことさえ出来るのか? クリストファーの胸に不安が押し寄せる。


しかしそんな不安も実彩の顔を見て吹き飛ぶことになる。


顔を上げた実彩の顔は、獰猛な、飢えた肉食獣のように瞳を爛々と輝かせ舌なめずりさえしていたのだから。



「…………」



何でこの状況でそんな顔してんですか貴女はーーーーーーーーーー!!!!!!



心の中でクリストファーが絶叫していると実彩はおもむろにクリストファーに振り向くと。



「クリストファー……。しっかりついて来いよ? 遅れたらそのような置いてくからな。死にたくなければ地力で何とかしろ。私の楽しみを奪うなよ?」



それはそれは愉しげに告げたのだった。

思わず顔が引きずってしまうのは仕方ないだろう。

あまりにも怖すぎる。



「この爆発源は一体誰なんだろうな~……。愉しみだ。これは、是非とも全力でお相手せねば。……失礼だと思われるよな? クリストファー」


「いえ、そっ、そのぉ……全力で相手をしなくてもいいと思いますよ? 別に戦略的撤退も必要な場合もあ……る………かと……………………」


「 あ゛ ! ? 」



斬り殺さんばかりの鋭い眼光にクリストファーはあっさり退いた。声が裏がえっても根性で対峙していたクリストファーの心は、これで更にひねくれた。



(どうせ、どうせ僕なんて……)



ドスの効いた声で脅すなら最初から聞かなければいいのに。

クリストファーがいじけている間も屋敷から爆発音が鳴り響き、倒壊する音が聞こえてくる。その音に更に実彩の笑みはより昏く深まる……。


もはや悪循環。


クリストファーも覚悟を決めて特攻するしかないとどこか悟りを開いた眼差しをしていた。

実彩に至ってはもう自主規制である。

あえて言うならひじょーに楽しそう。(*ガクブルガクブル)



「逝く……じゃなかった。行くぞクリストファー。早くこの爆発を止めないと大変なことになりそうだ。少しずつだが爆発範囲が広がってる。このままだと街ごと飲み込みかねないな……。あぁ。それにリュカも探し出して捕……保護しないとな」


「実は本音を隠す気がありませんね? ミーシャさん……」



クリストファーの呆れた視線もなんもその。

実彩には目の前で起こっている魔力の爆発以外に感心はない。

より正確にいうのならば、その爆発を起こしている人物に。



 あぁ、心が躍る。愉しくて愉しくて仕方がない。こんなに嬉しいのは久し振りだ。心逸るものがあることがこれほどの喜びになるなんて初めて知った。あぁ、本当に─────嬉しくって、堪らない。









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